どっち
「例えばさぁ、」
不意に芦田の口が開いた。
「俺に彼女ができたとするじゃん?」
また突拍子も無いことをほざく。
「それでも濱中は友達でいてくれるとするじゃん?」
それでもってなんだよ。
「そんとき俺ってどっちと帰ったらいいの?」
「そんなの彼女に決まってんじゃんか。」
「んー、そうなるのかなぁ。」
「当たり前だろ。」
「でもそうなったら、俺もう自転車の後ろに乗れないのか。」
「軽くなっていいや。」
「えー、俺そんなに太ってないし。」
知ってるよ。
俺の肩に力を入れる腕は俺の三分の二、下手したら半分なんじゃないかと思うくらい細い。
でも言わない。本人が気にしているから。
「お前が自転車漕いで彼女と乗ればいいじゃないか。」
「えー、俺後ろ専門なんですけどー。」
「‥安心しろ、彼女云々の話は当分お前には縁遠い話だよ。」
「アハハ、俺もそんな気がしてきた。」
いつもの帰り道。俺の後ろに芦田がいて、いつもの下らない話が始まる。
俺は結構この時間を気に入っている。
芦田もそうであって欲しい。
本人に聞く勇気はないけれど。
俺のことを気にしていてくれているならそれでいいや。