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DIVIDE 〜僕等は時々分離する〜  作者: 栗須まり
8/10

スペシャルな計画

気付くと元いた池のほとりに、フィンは一人で立っていた。

ヌアザの姿はどこにもなく、池を覗くといつもの様に微笑んでいる。


夢?

いや、まだヌアザの手の感触が残っている。

僕等は確かに向こうにいた。

それに一つ分かった事がある。

変な生き物に触れないと、僕等はこちら側で意思を通わせる事は出来ないんだ。


フィンは首を回して一息吐くと、自転車に跨り家へ帰って行った。


翌日学校へ行くと川堀は元気いっぱいで、夏休みの計画を楽しそうに話している。

夏休みはすぐそこだ。

楽しみにしていた反面、ヌアザの言った"特訓"を思い出すと少し憂鬱な気分になった。


「フィン、聞いてる?さっきからボーっとしてるけど?」

「あ、ごめん!夏休みに予定外の用事が出来てさ、どうしようかと考えてんだよ」

「えっ!?それって夏休み中ずっと?」

「う〜ん‥ずっとって訳じゃないと思う。ただ、どの位かかるかはまだよく分かんないんだ」

「え〜っ!!せっかく一緒に遊ぼうと思ったのにナシかよ!残念なんだけど!」

「そんな事言って川堀だって、塾の夏期講習に参加するって言ってたじゃん」

「そんなのあっという間だって。フィン、8月15日は絶対空けろよ!この川堀様がスペシャルなイベントを計画してるからな!」

「スペシャルって、千川の花火大会だろ?どうせイッチーや浦賢とか、いつものメンバーで集まるだけじゃん。まあ、それはそれで楽しいけどさ」

「フフン!今年はちょっと違うぞ!なんと!女の子達も誘ったんだ!」

「女の子!?えっ?知らない子達?」

「知ってる子と知らない子達だ」

「なんか勿体ぶった言い方だな。誰だよ?」

「4組の岩下さん達」

「ええっ!!ま、まぢっ!?」

「おや?おやおや?どうしたんだいフィン君?顔が赤いよ?」

「いや、ちょっと待って!何で?」

「俺が気付かないとでも思ったか?中学からの付き合いだぞ。フィンの事なら何でも分かる。俺の事はフィン研究の第一人者と呼んでくれていい」

「いや、それちょっと引くから。ハァー‥マジかぁ‥緊張するなぁ」

「フィンが以外とヘタレなのも知ってるぞ。だからお節介を焼いてみた。俺は将来仲人の達人になるかもしれない」

「うん。それもちょっと引く。でも‥ヤバイ、顔がニヤける」

「まあ俺に任せとけ、上手く二人にしてやるから。待てよ?最初は自然にカップリングからの、二人っきりな流れで行くか。じゃあ俺も誰かとカップリングしなきゃだよな。て、なると必然的に塩川さんになるかな?」

「川堀‥僕等の為みたいなニュアンスだったけどさ、実は最初から塩川さん狙いだったんじゃ‥」

「フィンもアレだな。川堀研究の第一人者と呼んでやろう。分かってるぅ」

「うん。その呼び名はやめて」

「とにかく、8月15日は絶対空けろよ!クラスが違うんだから、滅多にないチャンスだぞ!俺ら理系クラスには女子が三人しかいないんだからな!それだって皆んな彼氏持ちだ。いいか、これは絶対に負けられない試合だ」

「なんかどっかで聞いたフレーズだな」

「とにかく、死ぬ気で好感度を上げろ!失敗すれば我々の高校生活に彩りはない!やっぱ修旅は彼女と回りたいじゃん?受験だってモチベも上がるし。来年なんかそんな暇ないんだからさ。チャンスはこの夏休みだけだ!」

「分かった。なんとかして15日は空けるよ。上手くいくかは分からないけど」

「そんなフィン君に恋愛バイブルを用意した。これを読んで乙女心を理解するんだな」

川堀はニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、結構重そうな紙袋をフィンに渡した。


「なにこれ?」

「乙女心といえば、少女漫画だ。これは今流行ってるヤツで、実写化も決まってるって姉ちゃんが言ってた。全巻あるからじっくりと読みたまえ」

「少女漫画?読んだ事ないんだけど」

「いや、読んでみろよ。以外とハマるぞ。この中には世の中の女子の願望が、沢山詰まってるからな。巷で流行った壁ドンとか顎クイは、みんな少女漫画からだぞ」

「壁ドンは知ってるけど、顎クイは知らないなぁ」

「えっ!?マジかよ!顎クイ知らなきゃ始まらないぞ!ちょっと俺で練習してみろよ。ほら、こうやって顎をクイっと」

川堀はフィンの手を自分の顎に当て、フィンの顔を近付けた。

「川堀‥顔が近いよ」

川堀は何故か頰を染めて目を閉じている。

「川堀‥何で目を閉じてるんだよ?」

「ハッ!恐ろしいな‥さすがフィン王子!思わずお前なら俺の全てをあげてもいいと思ったぞ!」

「川堀‥それは冗談でもやめてくれ」

「いや、本気でそう思った。いいか、今の要領だ。まあ、フィンが本気出せば落ちない女子はいないけどさ」

そう言われてもそんな事が出来るスキルもなければ度胸もない自分に、フィンは複雑な顔を返すだけだった。


ずっしりと重い紙袋を持たされ、フィンは昇降口で靴を履き替えていた。

大きさは辛うじて自転車の篭に収まる。

持ち上げて昇降口を出ようとしたら、後ろから声をかけられた。

「竹内君!」

この呼び方は‥

期待を込めて振り返ると、そこには期待通り岩下さんの姿があった。

「重そうだね。どうしたのその荷物?」

「あ、えっと‥川堀に勧められてさ。少女漫画らしいんだけど」


うわっ!

何正直に言ってんだよ!

絶対引かれる‥


「少女漫画?え?どんなの?」

「何だっけ?これなんだけど」

「えっ!?ヤバイ!これ今超流行ってるよ!私も集めてるもん。いいんだよねー特に7巻!」

「そうなんだ。岩下さんも読んでるんだね」

「うん!オススメだよ!でも川堀君も以外だね。少女漫画なんか読まないと思った」

「あー‥何か川堀の姉さんのだって言ってた。結構ハマるって言ってたからさ、あいつは読み慣れてるんだと思うよ」

アハハと笑う岩下さんを見て、やっぱり可愛いなと思った。


川堀グッジョブ!


フィンは岩下さんと別れた後、絶対花火大会までにはヌアザの問題を片付けようと心に決めた。

読んで頂いてありがとうございます。

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