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DIVIDE 〜僕等は時々分離する〜  作者: 栗須まり
5/10

アイツ

まずは指先で軽く触れてみる。

冷んやりした感触と、思いのほか柔らかな感触が指先から伝わってきた。


おっ!!いけそうじゃん!

取り敢えず掴んでみるか。


フィンは変な生き物の背中と思われる辺りをむんずと掴み、思い切り引っ張ってみた。

川堀の服がフワッと浮くと、短い手足をバタつかせたそいつが離れる。

やった!とフィンが思った瞬間、大きな目はギロリとフィンを睨み付け、ジタバタと激しく抵抗を始めた。


『大人しくしろ!!私に抵抗は無意味だ!』


フィンの口からフィンではない声が響いた。

すると抵抗していたそいつは、急に大人しくなって震え始める。

そしてなぜか体が勝手に動いて、そいつを自転車のカゴに放り込んだ。


えっ?

何だこれ?

僕は‥一体‥‥?


「何か2時間ドラマの犯人みたいなセリフ吐くなぁ。大人しくしてるだろ俺?もう落ちた?綺麗になった?」

川堀がそう言うと、フィンの体はフッと軽くなった。

「‥落ちたよ。これで元通りだ」

今度は自分の意思通り言葉が出て来る。

「あざっす!あれ?なんか頭痛いの治ったぞ?体も軽くなった気が‥?」

「‥‥良かったな。取り敢えず教師へ行こう‥」

フィンは今自分の体に起こった事が理解出来なかったが、川堀が元通りになったのでまあいいやと思った。


それからの川堀は絶好調だった。

うるさいくらい良く喋り、体育の授業でサッカーをやった時も、ゴールを決めていないのに、海外有名選手のゴールパフォーマンスを真似したりと、朝の不調が嘘の様で普段以上に元気に過ごしている。

それに、フィンのガードもしっかりやってくれた。

フィンはこの容姿のせいで"フィン王子"と呼ばれている。

淡い金髪に緑の瞳、中性的な綺麗な顔立ち、185cmの長身に長い手足と小さい顔は、女子達のアイドル的存在となっている。

廊下を歩けば知らない女子から、用も無いのに声をかけられるなんていうのは日常茶飯事で、フィンは毎日ウンザリしていた。

それを知っている川堀は、上手くガードをしつつも「俺ならフリーだからいつでもオッケー!」と、ちゃっかり自分も売り込んでいる。

チャラい様に見えて気遣いの出来る奴だ。

フィンは川堀のこういう所が好きだった。


だから決して言わないのだ。

自分には変な物が見えるという事を。

フィンが子供の頃受けたいじめは、トラウマとして根強く残っている。

川堀以外にも大切だと思える友達は、こっちに来てから沢山出来た。

大切な友達を失いたくない。

その一心でフィンは言わないと心に決めたのだ。


「川堀」

「ん?」

「ありがとう」

「何が?俺本気でおこぼれでも彼女欲しいって思ってるんだけど」

「ハハッ‥‥頑張れ!」

「おう!見てろよ!夏休み中に決めてやる!」

「そのセリフ去年の夏も聞いた」

「いや、今年こそはいけそうな気がするんだ。フィンこそ作んねーの?よりどりみどりじゃん!」

「あー‥‥僕等はまだ、そういうのいいや」

「いや、早く作ってくれ!そうすればこっちにもおこぼれが回って来るからさ。本当頼む!早く作って!」

川堀の切実な願いは、どうやら本気の様だ。

とにかく、朝とは違ってこんな軽口が叩けるくらいに回復したのは、喜ばしい事でやって良かったと思える。

問題は自転車のカゴに入れた、アイツをどうするかだけだ。

試しにお気に入りの神社の池に連れて行って、清水で清めてみようか‥‥


そんな事を考えて1日過ごす内に、授業も終わり帰る時間がやって来た。

委員会がある川堀より先に、自転車置き場に着いたのはラッキーだった。

万が一またアイツにしがみ付かれでもしたら、せっかく引き剥がした甲斐が無い。

やっぱりアイツはフィンの自転車のカゴにいたから。

フィンが近付くとまたブルブル震えて、カゴの隅で体を丸めている。

フィンは気にせずその隣にカバンを押し込むと、お気に入りの場所へ自転車を走らせた。


澄んだ清水で満たされた池は、夏だというのに涼しさを感じる。

実際目の前に鬱蒼と茂る木々のお陰で、大分気温が低いのだろう。

フィンはアイツをカゴから掴み出すと、池のほとりに膝をついた。

ゆらゆらと揺れる水面に手を入れようと覗いたら、今迄見えなかった物が見える。


えっ‥!?これって‥‥

鍵穴じゃん!!

読んで頂いてありがとうございます。

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