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DIVIDE 〜僕等は時々分離する〜  作者: 栗須まり
3/10

誰も知らない700年

フィンが頭を捻りながら、文字の意味を考えていると、パソコン画面の向こうから明るい声が聞こえて来た。

「G'day!」

ニュージーランドの祖父がニコニコしながら手を振っている。

「グダーイ!」

サラは嬉しそうに真似をして挨拶を返した。

殆ど英語が話せないサラは、自分の知っている英語を一生懸命話している。

その横でケイトリンが通訳をしながら、フィンの話を早口で説明していた。


「ママ、箱の蓋に書いてあった言葉の意味も爺ちゃんに聞いてよ!」

同じくあまり英語が話せないフィンも横から口を挟んだ。

子供の頃東京にいた時はアメリカンスクールに通っていたが、田舎に越して来てからは話す機会も無くなったので、あまり英語が話せなくなっていた。

ゆっくりなら辛うじてヒアリングも出来るが、ネイティブのスピードで話されると殆ど聞き取れない。

ケイトリンは頷きながら、フィンに言われた通り祖父に聞いてくれた。


「フィン、お父さんが顔が見たいって」

ケイトリンに言われてフィンもパソコン画面を覗き込む。

「Grandpa, long time no see!」

フィンが話しかけると祖父は嬉しそうに微笑んだ。

「Fionn!」

画面の向こうから両手を広げて抱きしめる振りをする祖父に、フィンも手を振って応える。

ケイトリンが横で早口で話すと、祖父は暫く考え込んで首を振った。

「I don't know.I don't know Fionn」

「えっ!?爺ちゃんも知らないの?マジかぁー!」

「うん。でもお父さんはアイルランドの親戚なら分かるかもしれないって言ってるわ。聞いてくれるそうだから、暫く待っててって」

「わざわざ聞いてくれるんだ。つーかさ、この鍵って一体何処の鍵なの?」

ケイトリンがまた祖父に問いかけると、祖父も早口で返してくる。

時々首を振っては驚いた顔をしているが、聞き取れた部分を繫げると、やはり分からない様だった。

「あのね、それを見る事が出来る人は700年間誰もいなかったんだって。だからそれが鍵だったなんて、一族は誰も知らなかったの。そういう事だからお父さんも知らないし、アイルランドの親戚も知らないだろうって。でも多分見える人が持つ事に意味があるんじゃないかって言ってるわ」

「なにその曖昧な話。しかもこれが何なのか分からないのに、よく700年間も保管出来たね!」

「それがどういう訳か、無くしたり手放したりしても、必ず戻って来たんだって。まるで魔法でもかけてあるみたいね。フフフ」

画面の向こうの祖父も同じタイミングで笑っている。


ああそうだ。

こういう人達だったっけ。

笑ってる場合じゃないんだけど。

これ、程のいい押し付けじゃね?


ケイトリンと祖父のケヴィンは、こういう呑気な所が良く似ている。

割と几帳面なフィンは「とりあえず笑っとけ」思想のケイトリンには着いていけない時があるのだ。


「ママ、お父さんによろしく言ってくれるかい?」

横から恭一が割り込んだ。

「パパも手を振って!お父さん喜ぶから」

恭一は言われた通り手を振って、祖父と挨拶を交わしている。

サラも交じって全員の顔を見せたら、祖父も満足して通話を終えた。


「結局何も分からないままじゃん。これ、どうすれば良いの?」

「とりあえず首から下げておけばいいんじゃない?ねえパパ?」

やっぱりケイトリンは適当に答える。

「う〜ん、フィンの学校の校則はアクセサリー禁止じゃないのか?だったらそれはダメだよね」

「あーウチの学校進学校の割に、校則緩いんだよね。ほら、私服だし。だから大丈夫だとは思うけど」

「ならママの言う通りにしてみたらどうだい?結局誰も分からないんだから、もしかしてフィンには御守りみたいな効果があるかもしれないからね」

「御守りかぁ。例えば変な物が見えなくなるとか?」

「そうそう。だってどんな可能性があるか分からないからね。試してみるのもありだと思うよ」

「フィン兄ばっかいいなー!サラも何か欲しい!」

「サラにはパパがキスしてあげよう!おいで!」

「パパのお髭はジョリジョリしてるからイヤ!フィン兄の方がいい!イケメンだもん!」

「ママ!サラが冷たい!」

恭一は涙目でケイトリンに抱きつく。


パパには悪いけど、ちょっと優越感だね。

サラはやっぱり可愛いな。


フィンはニヤニヤしながらサラを抱き上げると、ワザと恭一の前でサラにキスをした。

キャーと言って笑うサラを見て、恭一は益々涙目だ。

ケイトリンは面倒くさそうに恭一の頭を撫でて慰めている。

竹内家の一家団欒は毎日こんな調子だ。


夕食後に勉強と入浴を済ませて、フィンはパジャマのまま例の鍵を首から下げてみた。

そのままベッドに潜り込むと、すぐに眠気が襲って来たので、電気を消して瞼を閉じた。

瞼の裏にはチラチラと、清水に映ったもう1人の顔が現れる。


これ下げてればあいつもいなくなるのかなぁ‥


なぜかそんな事を考えて、深い眠りに入っていった。

台風19号の影響で長時間停電に遭いました。

電気のありがたみをヒシヒシと感じます。


読んで頂いてありがとうございます。


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