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DIVIDE 〜僕等は時々分離する〜  作者: 栗須まり
2/10

僕等の家族とそのルーツ

車庫の横に自転車を止めて玄関を開けると、パタパタと小さな足音が近付いて来る。

「フィン兄!おかえり!」

ピョンと飛び付き嬉しそうにハグをしてくるのは、9歳になる妹のサラだった。

「ただいまサラ。宿題は?」

「分かんない所あるからフィン兄待ってた」

「やっぱりね。通りで飛び付いて来ると思った。本当、調子がいいんだから」

ヘヘッと笑う妹の愛らしい顔に、フィンは思わず鼻の下を伸ばした。

チュッと頰にキスをすると、サラは露骨に嫌な顔をする。

「もう!キスはやだって言ったじゃん!日本人はそーゆー事しないんだよ!」

最近お年頃のサラは、迂闊にキスをすると過剰に反応する。

どうやら友達に『日本ではキスは恋人同士がする物』と言われたらしい。

「最近では日本人だってするんだよ。だから僕等がサラにキスしても、普通の事なんだ」

「え〜嘘だぁ!フィン兄はたまに嘘吐きだから信用しない!」


プイッと横を向くサラの頰を膨らませた顔が、フィンには堪らなく可愛いらしく思える。

この歳の離れた妹を、フィンはとても可愛がっていた。

実際サラは本当に可愛い。

焦げ茶色の髪に大きな琥珀色の瞳、真っ白な肌に愛らしい唇は、両親のいいとこ取りをした傑作だ。

フィンの様に偏った遺伝子だけ受け継いでいない所は、羨ましくも思っていた。


「へえ?僕等が嘘吐きなら宿題は自分でやるのかな?嘘の答えを教えるかもしれないからね」

「あっ!?ウソウソ!フィン兄は嘘吐きじゃない!フィン兄は優しくてカッコ良くて頭がいいもん!」

「じゃあその優しくてカッコ良くて頭がいいお兄ちゃんに、サラは何をしてくれる?」

「えっと、サラもキスする」

「うん。良く出来ました。おいで!」

フィンがサラを抱き上げると、サラはチュッとフィンの頰にキスをした。

サラもキスが本当に嫌な訳ではないのだが、わざと嫌がるそんな年頃で、女の子は中々難しいのだ。

フィンも少し意地悪く言ってはいるが、その辺りは良く分かっている。

「それじゃあ着替えて宿題を見てあげるね。サラは部屋で待ってて」

「うん、分かった」

サラはパタパタと走って一階の自分の部屋へ入って行った。

フィンも階段を上って自分の部屋へ入ると、カバンを置いて部屋着に着替え始めた。

フィンの学校は私服で制服はないのだが、家では楽で着心地の良い部屋着で過ごしている。

パーカーとスウェットに着替えて、階段を下りて行くと、ちょうど母親のケイトリンが買い物から帰って来た。

「あ、母さんおかえり!」

するとケイトリンはプイッと横を向いて返事をしない。

サラはこの仕草を真似したんだなと、フィンは思った。


あーやっぱこのパターンか。

僕等も照れ臭いから呼びたくないんだけどな‥

でもそう呼ばなきゃ返事してくれないし。


「おかえり‥ママ!」

「ただいまデース!」

さっきの態度とは打って変わって、ケイトリンはにっこり笑うとフィンにハグとキスをした。

ケイトリンは『ママ』と呼ばないと、返事をしてくれないのだ。

前は何の抵抗も無く呼べたが、段々とそう呼ぶのが恥ずかしくなって来て、最近ではワザと母さんと呼んでいた。

まあ、フィンもお年頃なのである。


「サラはどうしてマスか?」

「部屋にいるよ。今宿題を教えてあげようと思って」

「Oh!そうしてクダサーイ!ご飯作ってマース!」

「ママ、日本語ペラペラなくせに変な話し方やめて。サラが真似するからね。悪い事はすぐ真似するからね」

「フィンが中々ママって呼ばないのがいけないの!ママは寂しい。フィンはママの事を嫌ってるんだわ」

「分かった、分かったからもう!ちゃんとママって呼ぶからサラに悪い影響を与えないで!僕等はサラが可愛いんだ」

「フィンはシスコン過ぎるね。サラばっか構ってないで彼女でも作ったら?」

「あ、サラが待ってるから行かなきゃ!」

フィンは逃げる様にケイトリンから離れた。


「やれやれ。モテるくせにそういう話題からはすぐ逃げるんだから!」

ケイトリンはブツブツと独り言を言いながら、夕飯の支度に取り掛かった。

意外にもケイトリンの得意料理はサバの味噌煮だった。

暫くすると台所からサバの味噌煮の香りがしてくる。

お腹を空かせたサラはそっちに気を取られ始めたが、フィンがなんとか宿題を片付けさせた。


夕飯の時間になると父親の恭一が帰って来た。

お年頃のサラは父親にもハグやキスをしなくなっている。

ケイトリンは遠慮なくハグとキスをしているが、それは気にならないらしい。

フィンはどうしてかとサラに尋ねると

「パパとママは恋人以上だから、あれは当たり前なの」

と、実にサバサバとした答えを返した。

やはり女の子は難しい。


恭一も揃った所で夕食を食べ始めると、ケイトリンが何かを思い出したらしく、席を立って座敷に走った。

そして小包を手に戻って来ると、それをフィンに渡して話し始めた。

「これはフィン宛にアイルランドから送られて来た物ですって」

「え?アイルランド?何でアイルランド?」

「ママのお祖父さんが、アイルランドからニュージーランドへ移民して来たのは知ってるでしょ?実はお祖父さんの家は貴族なんだけど、向こうの貴族っていうのは跡継ぎ以外は庶民になるんだわ。お祖父さんは次男だったから、暖かい所で住んでみようと思ってニュージーランドへ渡ったんだけど、ウチの家系は特殊な家系である資格が全員にあるんだって」

「えっ?意味が分からないんだけど?」

「えーとね、跡継ぎじゃなくても受け取る権利がある物が代々受け継がれていて、今迄受け継がれるだけで、誰もそれを見る事が出来なかったの。でもフィンには不思議な物を見る力があるでしょ?だからニュージーランドのお父さんに話したら、アイルランドのママのはとこに連絡したみたい。それでフィンに受け継いで貰いたいって、これを送って来たのよ。とにかく開けてみて」

ケイトリンの説明はよく分からないが、フィンはとにかく開けてみる事にした。


小包の中には長方形の黒い木の箱が入っている。

ちょうどネックレスなどを入れる箱と大きさも形も一緒だ。

フィンはそれを手に取って蓋を開けてみると、中には金色のチェーンに通した、不思議な輝きの鍵が入っていた。


「金の鎖が入ってるね」

サラが覗いてそう呟くと、ケイトリンも恭一も頷いている。

「うん、でもこれ何の鍵かな?」

「鍵?フィン兄、鎖しか入ってないよ?ねえパパ、鎖だけだよね?」

「パパにも鎖しか見えないな。ママはどうだい?」

「見えないわ。フィン、やっぱり貴方には見えるのね。これは貴方が受け継ぐ物だったんだわ!お父さんに連絡しなきゃ!」

ケイトリンは慌ててパソコンの電源を立ち上げると、恭一に準備をさせている。

サラも一緒にパソコンの前で手を出し始めたが、フィンは本当に自分だけにしか見えないのか、もう一度よく箱の中を見る事にした。

鍵はやはり不思議な輝きをしてそこにある。

目線を少し変えて見ると、箱の蓋の裏に文字が彫られていた。


Divide into two


「二つに割る?何のこっちゃ?」

読んで頂いてありがとうございます。

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