第2章 天才魔道士ヒニューデ・ザネイン
第2章 天才魔道士ヒニューデ・ザネイン
「連れてまいりました」
兵士の後に2人の人物が現れた。1人は老人で、もう1人は少女だ。そして、2人とも魔法使いの服装だ。その2人が中に入り、僕とチチ、それとウラギールの前に立ち、自己紹介を始めた。
「私は魔道士の里の長ボウケ・ロージーです。そして、こちらは」
ロージーが左手で横の少女を指し、自己紹介を促した。
「私はヒニューデ・ザネインです」
え、貧乳で残念?、僕は少女を見た。背が低く、確かに胸元は隆起のりの字もないほど、見事にぺったんこだった。その感想がつい口に出てしまった。
「確かに貧乳で残念だ」
僕が見ていることに気がついたのか、慌てて胸を腕で隠し、
「誰が貧乳で残念だ、ボケ」
顔を真っ赤にして怒鳴り、
「よく聞け、わ・た・し・は、ヒニューデ・ザネインだ。じゃ、あんたの名前はなんだ」
すごい顔でこちらを見らむ。どうみても、今度は逆襲しようとしているな。普通に名乗ると揚げ足がとられそうだぞ。どうしようかな、と思案する……。
!。僕はいつもポケットにメモ帳を入れている。それは、新しい決めポーズや呪文を考えた時、忘れずにメモするためのものだ。僕はポールペンで『春和一月』と書いて、メモを渡した。
(どうだ、読めまい)
ちょっと優越感でヒニューデ・ザネインを見る。
ヒニューデ・ザネインは渡されたメモをじっと見ている。その手が震えている。顔は俯いていてわからないが、なんだか嫌な予感がする。そして上げられた顔は、目が涙を溜めていて、頬は膨らみヒクヒクしている。これって……、と思っていたら予想通り大爆笑した。
「ひゃ、ひや、ひや、あんたどんだけ残念な名前だよ。『はるわいちがつ』って、あんたの親、ウケ狙いで名前つけたの。それなら大成功だわ。マジうける」
ヒニューデ・ザネインは勝ったとばかりに胸を張るが、膨らみは蚊に刺されたほどの膨らみも無かった。やっぱ貧乳で残念だった……。
なぜ読めたのだろう。これは漢字だ。日本語だ。それをヒニューデ・ザネインは普通に読んだ。ありえない。それとも文字でも読み解く魔法があるのだろうか。
「なあ、ヒンニュウデ」
「ヒンニュウデじゃない。ボケ、ヒニューデじゃ。言いにくかったらザネインと呼んでくれ。ハルワイチガツ君」
最後の方は逆襲されてしまった。ちょっとムッとしたが、それはそれほど問題ではない。僕は一つ咳をして、落ち着く。
「一月と書いて、カズキと読むんだ。僕もザネインと呼ぶから、カズキと呼んでくれ……」
そのあと続けて言おうとしたら、横にいたチチさんが、
「それでしたら私もカズキ様と呼んでよろしいでしょうか」と、キラキラお目目に、両手を組んでこちらを見る。
「好きにしろ」ぶっきらぼうに言うと、「はい、カズキ様」と言って嬉しそうだ。それは置いておいて、気を取り直して尋ねる。
「ザネイン、君はなんでこの字が読めるんだ」
「それはね、この世界の魔法言語はヒボンゴが中心なんだ。ヒボンゴの魔法は強力で、特にチュウニビョウ様の魔道書は稀覯本として貴重なもので、各国が秘蔵書として世に出さないとか」
なんかすごいこと言ってるな。ヒボンゴって、日本語のことだよな。それに、チュウニビョウって、中二病だよね。それってことは、この世界ってどこ?。