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さらに4日たち、勇者たちが現れた。僕は魔王城の前で待っていた。
遠くから大人数の集団が目視でき、満を持しての遠征かと見ていると、近ずいた人たちの多くは医師や看護婦のように見える。その中から、前衛に出てきた勇者たちは、車椅子に座っているのが2人、神輿のようなものに座っているのが2人、最後の1人は黒縁の枠のA4サイズくらいの絵で、遺影のように見える。
確か60数年前って言ってたな。するとみんな80歳前後か、そりゃあ人間なら死んでいる人がいても不思議じゃないか。
神輿が降ろされると、剣を杖にした老人が立ち上がった。そう思った瞬間、ものすごいスピードで眼前に迫る。
油断していた僕は、当然構え遅れ、剣が振り下ろされる時には防御が間に合わなかった。やられる、そう思ってが、剣が振り下ろされることなく、老人はその場に倒れた。
慌てて、医師と看護婦が駆けつけ、心臓マッサージを行う。しばらくして、医師が首を振り、看護婦か手を振り合図を送る。すると、長方形の箱が持ち込まれ、その中へ入れ、みんなで担いで去って言った。
今度は斧を持った奴が神輿から立ち上がる。
「よくもやったな」
「いやいや、何もしてないのですが」
そう言ったのだが、相手は聞く耳を持たず、こちらも老人とは思えないほどのスピードで迫る。だが、今回は、油断してはいなかったので、構えるのに余裕があった。
斧を上段に振りかぶった時には、僕も余裕で剣を構えていた。だが、今回も振り下ろされることはなかった。老人は斧を振り上げたままフリーズ状態になっていて、腰が腰がと言っている。また、数人がやってきて、今度はタンカーに乗せ去って行った。
そして、今度は遺影を持った女性が目の前にやってきて、遺影を掲げる。
「この人は勇者パーテーのリーダーです。今から60数年前のことです。魔王を倒し、一夜にして富と名誉を手にした彼は、酒池肉林の怠惰な生活に溺れ、このザマです。それでもリーダーです。だから、せめて遺影でもと持ってきました」
(そ、それで、どうしろと……)僕が心の中で考えていると、
「えい」とばかりに、遺影を投げつけられた。それは、もろに僕にあたり、遺影はバラバラになったが、ある意味、虚をつかれた驚きと、初めてのダメージを受けてしまった。
僕が動揺していると、どこからか詠唱が聞こえてきた。
「……が命じる。メテオシャワー」
これは最大級の攻撃呪文。やばい。空が暗くなる。何かが降ってくる。これでは逃げ切れない。万事休すと思いきや、体に当たるのはチクチクとした痛み。よく見ると金平糖くらいの大きさの粒だ。それが空から降ってきたのだ。一時は巨大隕石だと思ってひやっとしたが、これならダメージも無いだろう。それにしてもあの呪文、どこかで聞いたような気がするが……。
前を見ると、呪文を唱えた老婆が倒れているて駆けつけた医師が首を振っている。残る1人は車椅子から立ち上がることもできず、ただフガフガ言っているだけだった。ボケ老人?。車椅子が付添人によって反転して逃げる。続いてみんな反転して逃げ去ってしまった。
(え、これで終わり……なのか?)
僕は何もしていない。せっかく伝説の勇者と戦えると思っていたのに……。
これでは欲求不満でストレスが溜まる。それで僕は欲求不満解消に、
「黒炎龍よ、地を裂き威力を示せ」
剣を振り、僕の考えたポージングを決める。
すると、本当に大地が、逃げて行った連中の方向に裂けていった。
大変です。と慌てて駆け込んだ兵士が、そのあとを続けた。
「先日。魔人様が放った一撃の影響ですが、人族の王城を直撃、半壊いたしました。その影響で、今、王城はもぬけの殻です」
それを聞いて実際に行って見ると、見事に王城は半壊していて、人の気配もない。
「なるほど。見事ですな魔人様」
ウラギールが感心しているようだが、はて、本心からだろうか。城の前、北に向かってだが、そこは城下町が形成されているようだ。そこの人々は、いつもの日常を送っているようだ。つまり、逃げたのは王城にいた人たちというわけか。
「ウラギール。この城を壊し魔王城をここに建てよう。手配してくれ」
ウラギールは、一瞬こちらをじっと見ていたが、
「それならば、優秀な人たちがいます。その方たちに相談いたしましょう。明日にでも打診いたします。よかったら会ってみますか」
「そうだね。そんなに優秀な人なら会ってみたいな」
本当に興味があったから言ったのだが、ウラギールは不思議なものでも見るような顔をして、それからいつもの顔にもどり、軽く頷いた。