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あれは夢だったのだろうか。それにしてはリアルすぎる。しかし、現実的ではないな。第一、僕が魔人ってあるわけない。僕は勇者だしな。僕は妄想を振り払うようにして、窓際の一番うしろの席に着くと、早速、悪友2人が僕のところへ来る。そう、僕が今の僕である影響を受けた2人だ。
「一月、お前、熱中症で倒れたってな」
声をかけたのは岩部卓で、連れて来たもう1人が川中拓海だ。2人とも背が高く、女子にはモテモテなのだが、誰とも付き合わず、僕とつるんでいる。理由は簡単だ。僕の妹の茜を2人とも好きなのだ。それで、将を射んと欲すれば先ず馬を射よなのだ。その妹は男女問わず人気者で、僕の視線の先で楽しそうに友達と話している。僕には分からないのだが、2人の情報によると、学年のクラスの男子半数が交際を申し込み、皆玉砕しているそうだ。まあ、半数ってのは大げさだと思うが、僕も何度か見たことはある。
「なあ一月、茜さん、なんで彼氏つくらないんだ」
拓海は茜の方に視線を向け、不思議そうに呟いた。
「それだがな、俺の知っている女子からの情報だと、好きな人がいるみたいだぞ」
卓の情報だと、好きな人から告られても不思議ではないのだが、まだ、告られてない中に好きな人がいるのだろうか。
「一月、お前、聞いてみたら」
拓海が言って卓も賛成した。僕はまた視線を茜の方へ向ける。楽しそうに話している。その相手は石塚美沙、小学校からの同級生で、よく家に遊びに来ていた。意識するようになったのは、茜の誕生日会に来た時、僕にもプレゼントをくれたのがきっかけだった。爾来、三回もプレゼント貰ったし、僕も三回プレゼントした。あまり話をしたことないが、近くに来ただけで、いつもドキドキする。
教員室から出て、自分の教室へ行く。二階への階段を上っていた時、踊り場から石塚 美沙さんが下りてきた。意識すると、やっぱりドキドキする。自然に、自然に、心の中でつぶやく。そして視線を上に向けると、目の前に、美沙さんの胸が迫っていた。慌てて、手で受け止めようとするが、勢いに負け、2人とも階段下へと転がった。飛びかかった意識が戻ると、右手に気持ち良い感触が。僕が頭をもたげると、美沙さんの上に乗っかり、右手は美沙さんの胸を鷲掴みしていた。美沙さんが、涙目でこちらを見ている。とっさのことで考えが追いつかず、「やあ」と、間抜けな一言。その直後に、美沙さんの平手が飛んで、僕の意識が完全に飛んだ。