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魔法陣より転移魔法を発動する。
「ザネインよいな」
ザネインはにこりと笑い右手でOKのサインをだす。それと同時に転移が始まった。
転移が終わり、消え去った二人の後をじっと見ているメイプル・シロップ。
「お姫様。大丈夫ですかね。やはり私が一緒について行くべきでした。もしものことがありましたら、私……」
今更である。僕は肩をポンポンと叩き、
「大丈夫だ。ザネインは胸はないが実力はある。それにいざって時は僕が行く」
「そうですね。確かに彼女の魔法は凄いです」
メイプル・シロップはこの地に始めてきた時の彼女の魔法を思い出し、汗を拭きながら微笑んだ。
転移と同時に素早くあたりを確認する。どうやら人の気配はないようだ。
ザネインは大きく一息を吐くと、魔法で周囲の気配を探る。
「大丈夫なようだ。近くに人の気配がない」
イルミさんにも聞こえるように声に出す。
「そうですか」
イルミさんは安心したように歩き出す。ザネインもイルミさんと並び歩き出した。
階段を登りドアを開け、右手に伸びている廊下を素早い足取りで歩く。慌ててついて来るザネインに気づき、
「御免なさい」と謝るも、足取りは変わらなかった。
迷路のような廊下を歩き、階段を上り、ドアを開ける。中へ入ると壺や皿といった骨董品が置いてあるところへでた。
ザネインが不思議そうに見ていると、
「ここは骨董品店で、秘密の通路の出口になっている家なのよ。ここからなら外へ出ても怪しまれないわ」
イルミさんはドアを開け、路地へとでた。
道路は意外にも人が多く平常に見える。
「さあ、行きましょ」
イルミさんはそう言って、二人、通行人の中へ紛れて行った。
大きな屋敷の前まで来ると、
「ここがお兄様の家です」
イルミさんはそっと教え、通用門の前にたむろしている人々に紛れ込んで行った。ザネインももみくちゃにされながらも後に続く。しかしこの人達はなんだろう。敵対行動には見えないし、
「なあ、イルミさん。この人達はなんだろう」前方に出たイルミさんの横に立ち尋ねる。
「この人達は、報道陣といって、情報を一般市民に知らせる人達です」
へえー、凄いな。こんな人たちまでいるんだ。私たちの世界と比べると、かなり違う。ザネインが感心していると、門のところで動きがあったようで、報道陣が動き出した。その動きにザネインはついて行けず倒れた。起き上がった時は一番後ろになり、前の様子が見えなくなっていた。
前の方で何かやりとりの声が聞こえるが、後ろもでは聞こえない。イルミさんはとあたりを見渡すがいないところを見ると、うまく前の方にいるようだ。
しばらくして報道陣が散らばると一人の男が近づいてきた。
「さっきはごめん。後ろから押されてさ、つい君を押し倒してしまった。怪我とかあるようだったらこちらに連絡して」
そう言って、四角い薄っぺらなカードを渡され、彼は去って行った。
報道陣が去った後には一人ポツンと立っているイルミさんが見えた。近づき声をかけようとした時、イルミさんが泣いているのに気がついた。
「そんな、そんな、お兄様。どうして、お兄様ですか」
気持ちが落ち着いたところで尋ねると、
「間違いありません。あれはお兄様です。顔も、うさ耳も、間違いなくお兄様です」
イルミさんは両手を顔に当てまた泣き出した。
見ていて辛い。そう感じられるほどに落ち込んでいるイルミさんは、よほどナナカマドさんを慕っているのだろうなと感じる。そんな人に裏切られたのだ、ショックも甚大ではないだろう。可哀想だがここは乗り切ってもらわないと……。
「しかし、ナナカマド殿下も変わったよな。記者会見の時にいつも見せる仕草、しなくなったよな」
ザネインに去りゆく報道陣の会話が耳に飛び込んできた。ザネインにはこれは重要なことに思え、その会話をしていた報道陣に近づき尋ねた。
「すまんそこの人。今言ったこと、もっと詳しく教えてくれないか」
声かけられた二人は振り向き、私を一瞬訝しんだ目で見たが素直に教えてくれた。
「ナナカマド殿下は記者会見の時、何時も私たち平民に対しても一礼してからお話になるんで。それから話し終わっても必ず一礼するお方なんです。それが、今日もそうですが、ここ数日、礼をしたこと無いんです。まるで他の王族のようにね」
ザネインはお礼を言って今言ったことを考えてみた。そして結論から言うと裏があるような怪しさがプンプン臭うように感じ、イルミさんに自分の感じていることを話した。