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確かにザネインは天才魔道士だ。指折り数えるほどの日数で魔王城を建て、僕の注文にも応えてくれた。これには素直に感心。
「ザネイン、ありがとう。君は僕の想像以上の優秀な魔道士だな」
「えへん。それは当然よ」
ザネインは、どうだとばかりに胸を張った。だがしかし、胸は残念なほどに一ミリの膨らみも無い。
この世界の地図はないらしい。必要なら自分の足で旅して作るしかないとのこと。
「なあ、ザネイン。国王たちは北のほうへ逃げたって聞いたけど、北のほうにも大陸があるのかな」
「北にはここより巨大な大陸があり、多くの国があるらしいよ」
それを聞いて腕を組み、僕は考えた。また人族が攻めてくるかもしれない。井の中の蛙では、これからのことを考えると危険だ。世界に視野を広げる必要がある。するとやはり自分の足で調べるしかないか……。
「なあ、ザネイン。北の大陸に行ってみないか」
「あのね。ここから北の大陸までどれくらいかかると思っているのよ。1ヶ月は楽にかかるのよ。確かに行ってみたいけど、不可能とまでは言わないけど無理だね」
「そうか。そんなに遠いのか。なんか別の方法で速く行けないかな」
考えて、ふと思った。
「なあ、この世界には転移の魔法、無いのか?」
「あるにはあるらしいけど、特定の場所だったり、使える人も、ごくわずかしかいないらしいよ。私もそんな魔法は使えなし……」
うむ、この世界には転移魔法はあるのか。使える人は少ないらしいけど、僕なら使えそうだ。すると、現地に行けば、帰りは転移魔法で帰ればいいか。そうなるとやはり、問題はどうやって行きたいところへ行くかだな。
「ザネイン、一度北へ方へ行ってみようか」
「海の向こうに島が見えるけど、大陸はずっと向こうか」
僕は、左手を目の上に当て、海の向こうを眺める。
「そうよ。大陸はずうっと、ずうっと、向こうにあるの。そんでもって、すんごいでかいの」
ザネインは両手をいっぱいに広げ、胸を張りながら説明するが、やはり胸は残念だ。
さてどうしよう。船ではダメ。飛行機は……、無いか。道があれば走って行くって手もあるのだがな……。まてよ。
「なあ、ザネイン。いいこと思いついたぞ。海の上を走って行くというのはどうだ」
「はあ?、あんたバカ。どうやって海の上を走るのよ。無理に決まってるでしょ。だから……」
ザネインが最後まで言い終わらないうちに、僕はザネインの右手を左手でがっちり掴み、勢いをつけて走った。
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
いける。思ったより簡単に海の上を走っている。まるでジェットホイールのように波しぶきを上げ、走り抜ける。
ザネインはというと、強風に煽られた鯉のぼりのように、右手を中心に、上へ下へとバタついている。叫び声を遥か後方に置き去りにして……。
「うえええん。死ぬかと思った。怖かったよう」
ザネインが両手を目に当て、ひたすら泣いている。ちょっとやり過ぎたかと後悔したが、結果的にはうまくいった。さて、これからどうしよう。うん!、誰かに見られているような感じが……、気のせいか。まあいいか。
泣き止んだところで、ザネインに尋ねる。
「どっちへ行く」
ザネインは黙って指差した。
僕は、よしと気合を入れ、ザネインの手を取り、走った。
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」