プロローグ
プロローグ
20XX年8月2日 カルフォルニア州ロサンゼルス郊外
FBI特殊部隊HRTがカルト教団LJ(Last Judgment)本部に突入。生後半年にも満たない乳児を確保。そこにいた教祖並び信者を逮捕した。教祖並び信者は皆、頭から全てを覆い隠す黒衣といった異常な着衣で、床に描かれた魔法陣を囲い、その中心に乳児が置かれていたそうだ。
逮捕された教祖アルベラ・ロームは「賽は投げられた。最後の審判が訪れる」と、叫んでいたと言う。
20XX年7月31日 ロサンゼルス空港
『極小五月様にお伝えしたいこと事がございます。サービスカウンターまでお越し下さい』
アナウンスに戸惑っていた五月に、横にいたおばさんが、
「この子は見てますからいってらしゃい」
と、微笑んで助けを申し出てくれた。お言葉に甘えて、お願いして、カウンターの方へ歩いていく。だが、何かの間違いだったようで、引き返して来た。
「すいません。ありがとうございます」
五月は軽くお辞儀して、お礼を言った。
20XX年8月1日 日本国東京世田谷区
引き戸を開け、玄関に入り、奥の方へ向かって、「お姉さーん」と、叫んだ。
奥の方から足音がして、姉の春和 桜が現れた。
「あら、五月」
玄関に、赤ちゃんを抱いている五月の姿を見て、姉の桜は来るなら来るで連絡くれればいいのにと思った。
五月が家に上がると、突然、赤ちゃんがぐずり出し、慌てて居間の方へ行き、五月は姉に旅行用スーツケースを持って来るようにお願いした。
五月は赤ちゃんを寝かせ、おしめの替えを始めた。
桜はその仕草を見て、五月ちゃんも立派にお母さんやっているんだと微笑みながら眺めていた。ニコニコニコニコ……!。
「五月、一月ちゃんだねよ」
「そだよ」
五月はテキパキと手を動かしながら、姉に答えた。
「一月ちゃんって、女の子?」
五月はおしめを替え終わり、不思議なものでも見るような視線を姉の方へ向け、
「お姉さん何言ってるの。男の子が生まれたって言ったでしょ」
「そ、そうよねえ……」
姉は五月の視線に狼狽しながらも、男の子なら何で股間にアレがないのと不思議に思っていると、
「お姉さん。ちょっと用事あるから。この子、見てて」と、急いで出て行った。
20XX年8月1日 日本国羽田空港
「お姉さん?」
「五月。今どこにいるの」
「今、空港にいるの。帰らなきゃいけなくなったの。すぐに帰って来るから、一月お願いね」と、電話が切れる。
(あのね、五月ちゃん。男の子はね、初めからおチンチンはついているのよ)
桜は、切れた受話器の向こうに心の中で叫んだ。
その日、五月が乗った飛行機は太平洋上で姿を消した……。
20XX年8月5日 日本国東京世田谷区
「こちらは極小五月さんのご実家でしょうか」
「はい、そうですが……」
玄関の外を伺うと、不審な男性が数人いて、その後ろにも婦警さんのような人たちがいた。不安そうな顔をしていたからだろうか、前にいた人が、ポケットから紐につながれた手帳を取り出し、警察であることを教えてくれた。
「どのようなご用件で」
先頭の手帳を見せてくれた人が、後ろを振り向き、後方にいる婦警を呼んだ。
赤ちゃんを連れた婦警と、バックを下げた婦警が前に出て、バックからベビー服を出し、服の裏側を確認するように見せてくれた。そこには『極小一月』とペン書きされていた。
それは、持ち物に名前を書く五月の癖で、字も独特の丸文字だった。