道を塞ぐ氷の柱
仲間が加わった俺は再び階層を下がっていく作業を繰り返していた。どの階層にどういう魔物が存在しているのかを調べつつだがあくまで調べているだけで必要以上の戦闘はしていない。
レティアは俺以上に察知能力が高い範囲も広いため今まで以上に安全に下がれている。調べるときもそのスキルを活かしてもらっているぐらいだ。
まあ問題があるとすればレティア自身の攻撃能力が実質マンドラゴラによるタコ殴りしかないのだが魔物の力が強くなってマンドラゴラではダメージが与えられなくなってしまった。まあ元々マンドラゴラ自身の攻撃力が低いから仕方ないのだが。
それに伴い歌声による魔物の呼び寄せもしないように言い聞かせた魅了の効果があるため動きを止めるのにも使えるのだが他の魔物を呼び寄せる。魅了の効果の効かない魔物まで呼び寄せてしまうと危険しかない。
それに正直何処までこの方法でできるかと不安が俺の中で出て来ていた。正直大多数の敵と正面から戦うようなことになれば死ぬ運命しか想像できない。
そうならないよう試行錯誤をしていくつもりだが……正直魔物の攻撃力に対しての耐久の低さがな致命的と……多少は術式で補ってはいるが。
「なるほどお前が怯えた理由はこれか。どうする鞄の中に入っているか?」
「キィ……キィ……」
俺もレティアも魔力を感知するタイプのスキルを持っているがレティアが先に感知し俺はもう少し先に進んでから感知できた。
レティアが完全に怯えてしまっているため聞いたのだが俊敏の高さを垣間見える速度で避難していた……まあ鞄から顔を出してはいたが。
「……洒落にならないにも程があるだろ」
壁も床も天井も完全に凍り付いているすぐに魔術式で体の体温を保つ術を使ったからいいが普通に凍えてもおかしくない程に冷え切った場所。その元凶たる軽く五メートルは超える巨大な氷の柱……しかも異様な事に周りには魔物の骸骨の山。
これだけ冷え切っている中での白骨化、少なくともここ数日単位での大量殺戮ではないだろうが……。
「……厄介なのはコレをした張本人が御健在な事と氷で道が塞がれている事、か」
氷が厚過ぎるために見た目の全容は分からないが心の気配を氷の柱の中から感じ取れた正直死霊でもない限り生きていると判断する。ここで何があったかまでは知らないが俺からすれば危険な存在だ。
「レティア避難していろ」
「キィ、キィ」
「……正直最悪な事態が起こると襲ってくる可能性が高い。その場合お前が近くにいると巻き込む可能性がある。これ以上は言わなくても分かるな」
悲しそうな顔をしたがレティアはあっと言う間にいなくなった。本当俊敏が高い。氷を火の魔石や火系統の魔術式で溶かそうとしたが侵食され凍結された。感じた通り魔力の質が異質……。
「魔法の攻撃呪文と比べたら威力が落ちるとはいえ……さてと、どうしたものか」
吸収は論外、吸収した瞬間に間違いなく凍るだろう。それなら分解していく。正直放っておきたいのが本音だが先に続く道まで塞いでくれているからな嫌でも関わらないとならない。道を閉ざしている氷を魔力を分解する事でほんの少し削った瞬間……。
キィン!!
「……ッ……」
突如現れた氷の槍。正直避けられたのは隠蔽効果で見えなくした魔術式を辺りに展開して俺自身の感覚とスキルだけでは感じられない細かい変化をとらえられるようにしていたから……それでも頬から血が垂れているからかなりギリギリだった。真っ先に頭を刺し貫いて潰そうとしてくるような相手。
氷の柱は一瞬にして完全に消え失せ中にいた存在の姿が分かるようになった。
その見た目はシンプル過ぎる上下黒の服に腕には無骨なガントレット、髪は見事な灰色で前髪も長く髪は場所によっては膝まである。ところどころ戦闘の時に斬れたのか分からないが長さが違う。俺より年が上だと思われる女性……一番印象に残るのは何の感情も写さない群青色の瞳。
はっきり言う壊れた人間でもここまで完全に感情は無くならん、まあ俺は加減していた方だろうがこれが異常なのは分かる。
スキルか魔法あるいは俺の知らぬ何かで感情を封じているか封じられた、このどちらかだろうが……正直冷汗が出る。魔物なんて可愛らしい威圧感。
続けざまに放たれる氷の槍の。それを避けようとした瞬間、俺の足が自分の意思と関係なく止まってしまう。まるで何かに固定されてしまった感覚。魔術式を多重統合したうえで防御壁として展開し上から降り注いでくる槍を防ぐ。氷の槍の雨とは嫌な物だと実感。
詠唱なしで魔法を使うだけでもアレだと言うのにどれだけの魔力を秘めているんだこいつは。
足は魔術式で解析してある種の空間固定と判明それを魔術式で少し強引だがその力の接合面をこじ開けるような感じで壊すことができたが正直このままではジリ貧。かなりの賭けになるが……試す価値はある。
それにこの小娘には怒りが沸いているからな。前世の自分を見ているような感覚を抱いてしまった。なんでそう思ったかまでは自分でも分からない。ただ感じたとしか言えないのだから。
氷の槍が降り注いでいる中で前に進む防御ではなく感覚補佐に切り替え。あちらの行動封じも魔術式を身代わりにして前に進む。
そう感情は感じられないが目の動きや最適な行動をしようとする分かりやすさ。魔術式の応用性と多重並列思考のおかげで成り立つ戦法だ……達人ならもっと円滑にできるだろうが俺にない物をあてにしてもしょうがない。
ザシュッ!!
それでも避けきれない氷が俺の体を傷つけていく。だがそれがどうした。前世の痛みに比べれば目の前で友達だった小鳥の心と感情が消えた時の痛みに比べれば……悲しみの痛みに比べれば。
「この程度の痛みどうってこともないからな!!」
ガシッ
浅い怪我ではないがそれでもこの女のところまで辿りつき腕を掴んだ。淡々と俺の腕を払って下がろうとしていたが相手の動きを止めるのはそちらだけの専売特許じゃない。拘束効果と魔力妨害の魔術式を多重展開したうえで統合。
だがこれで終わるわけにはいかない。だから魔力吸収と魔力供給を使う。吸収した魔力をそのまま魔術式に供給してやればいい供給先が人間でなければならないというルールなどないのだから。
ピキッ!!
まあ魔力が異質だから女を掴んでいる俺の腕が少しずつ少しずつ凍っていく。さて俺が完全に凍り付くのが先かそちらも魔力が尽きるの先か試そうじゃないか。
ドシャ
正直どれだけの時間こいつの魔力を奪い魔術式を使っていたかは分からないが最終的に相手の体から力が抜け倒れた。俺も正直色々とギリギリだったが……そもそも馬鹿魔力にも程がある……腕は肩まで完全凍り付いていた。
「キィ!?キィキィ!!」
魔力が収まったのを感じレティアが帰ってきたが俺を見てとてつもなく心配してきた。まあ片腕が完全に氷に覆われていたら心配もされるか。
「あー大丈夫、大丈夫だからな?血はすでに止まっているしこれも今から溶かすから落ち着いてくれ」
服のあちこちが血で滲み左腕が凍っているのだから仕方ないと思う。まあ怪我自体は俺が重傷を負った際に治癒の魔術式を作動するように細工していたから塞がっているが腕は今から魔力分解だけに集中して根本から解除するしかない。
というか少しずつは分解していたのにコレ。さすがに片手間で行う魔力の分解では速度が追い付かなかったため凍ったがそれでもするとしないでは大違い。していなければ魔力の侵食が心臓に届き凍り付き……俺の命はなかったのだから。
そんな事を頭の片隅で考えていたがレティアが気づいている様子はないため安心していた。これ以上の心配をかけるのもアレだから。そんな事を考えつつレティアを宥めてやっていた。