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知識狂いの異世界録  作者: 心乃月日
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縁乃那霧 下


正直今までにない程泣き続けたあと俺は森の入り口に向かっていた。そして入り口に着いた。その場からでもとてもとても強い恨みの”声”が聞こえてきたから聞こえた方に向かう。


『あの村の連中はあいつを殺した!!襲ってやる!!村人連中を全員喰らって……』


「やめろ。あいつらは俺の得物だ……それに殺すなんて言う生易しい真似をするつもりか?」


動物たちは怒り狂っていた。それにここまではっきりとした声で聞こえるのは初めてだが俺が出て来た事でとても驚いていた。まあ死んだ奴が化けて出たらそうなるだろうが。


まあ俺の死体がそこにあったのには驚いたが小鳥の次に仲の良かった熊が大暴走したらしい。この熊と仲良くなったのは偶然最初は俺を食べようとしたが何だかんだで面倒見が良くて俺に構ってくれるようになったから。


俺の遺体はさすがに小鳥程簡単に埋蔵できない事。荒らされる可能性が高いと言い訳して森の奥に埋葬した。


熊は気が付いていたようだ俺が小鳥と同じ場所に埋葬される気がない事に。綺麗な場所にも埋葬される気がなかった事に。小鳥が生きていたら否定してくれただろうが俺と関わったせいで酷い死に方をしたんだ。だから綺麗な場所には埋めたくなかったのだと。


その事を黙っている代わりにある約束をした。俺自身の全てを否定しない事。復讐だけに囚われない事。それに俺は約束に応えた。復讐だけにこの奇妙な第二の人生……と言っていいかは分からないがそれだけで過ごすと小鳥に怒られそうだと思ったから。


あいつなら復讐その物を否定するかもしれない。だけど無理だお前の命をつまらないと言い放った奴をそのまま生かすことが俺にはできない。


復讐は俺の強力になった力で行う事にした。そう心の奥底まで見えるようになっていたんだ。感情だけではなく思いその物。奥に秘めている物すらも。


方法は力と口から出る言葉で全てを暴く。心に秘めていた欲望も本当の本当に知られたくないと思っている秘密から大したこともない心情の一つ一つすらも含めた全てを暴いての心の解体。


「やめろ、やめろ、やめろ、やめろ」


目の前には目が映ろになりやめろとしか口にしない髪が真っ白になった村の男。こいつが小鳥を殺した張本人。これが初めて俺が人を壊した瞬間だった。これでも上手く調節して壊せた。


常に暴かれる恐怖を感じ続けるようにしたから。何も感じれなくしては意味はない廃人では意味がない。そこまで壊しては殺すのと変わらない。殺すのは罰にならないのだから。それに壊すのはこれで最初で最後。他の奴は壊さない暴くだけ。


だがこいつだけは別。壊すと決めていた。だってこいつが小鳥を殺しつまらない命と言い放った男だから。心を読みつつ調節していい塩梅に仕上がったと思っている。見せしめにも良い。


正直これだって俺の体を切り離してあちらが楽しんでたのと行為的には一緒と言うのが俺の感想。違うのはこいつに外傷は一切存在しない事。俺が使っているのは口から出る言葉だから体に傷など一切つかない。


さて他の者達には自分たちがこうされるかもしれない恐怖を味わってもらおう。俺が自分もこうするのではないかと思う事で自ら恐怖に捕らわれるてもらおうじゃないか。


『おい村の連中にさえ手を出さなきゃいいんだな?』


「ああ、お前たちも怒りを抱いているのは分かっている。人に手を出さなきゃ何をしてもいい」


動物たちが村人には手を出さない代わりに畑を徹底的に荒らすようになった事で食料関係で困窮。食料が豊かだった村が嘘のように食糧不足に陥っていた。


生前俺が動物たちに頼んで荒らしたりしないでくれと頼んでいたからここ数年全く被害がなかったと言うのに、その事を言った事はあるが化け物が嘘を言うなと言われ信じられることはなかった。


それならそれで構わない連中の中では嘘だとしても真実。俺を殺した時点でそんな義理もないと好きにさせても問題ないと判断したまで。


これがこいつらにとっての復讐だったのもある。俺が殺された事に小鳥が殺された事にこいつらも怒りを抱いていたから飢えを与える事にしたと教えられたからな。飢えが苦しいのも自分自身の経験上知っているため復讐にはいいと思ったが。


正直復讐その物は楽しくない純粋に怒りしかない。どれだけ壊しても晴れない復讐心を抱きながら最初よりは軽めにだが暴いていた。それと同時に動物達と歩む日々を楽しんでいた。


だからこそ思ってしまう事がある小鳥がいればどれだけ良かったか。そう思った時は素直に泣いた。泣く時は大抵熊が近くにいた。本当にいい友達を持ったと俺は思う。


それから数年も経つと俺も動物たちも復讐を前程頻繁に行わなくなった。決して復讐心が薄れたわけではない。俺が動物達との日々の方を純粋に大切にしたいと思い始めたからこそだろう。敵やどうでもいい連中よりも大切な者達と一緒にいたいと思うのが普通だろ。


「那霧」


ある日村長がやってきた。ここ数年でかなり老けたように見えた。心を読む限り俺に謝罪をするためにやってきたのではない。


「こんなくだらん事はやめろ。子供は親の言う事を聞け」


「はぁ……死んだ時点で血の繋がりもあったもんじゃないが元々繋がってすらいない男の言う事を聞く義理があるのか?」


「何を言っている。血の繋がりはあるお前は私の息子だ」


「だからそこから間違っているんだよ村長様。なにせ母親と本当の父親の心を読んで知ったからお前が知らぬ場で逢引をしていたようだからな」


この時点で驚き過ぎて言葉が出なくなっていたようだ俺は言葉を続ける。


「数年前を境に女の様子はおかしかっただろう?なにせ一度わざわざ村に行ってあの女の前で口に出してやれば面白いぐらいに顔を真っ青にして話さないでくれと懇願されたからな」


それは三年前程になるかあの女の目のつく場所に行ってこっちに怒りを向ける女にそれを言えば本当哀れになるほど懇願してきた。視力を奪った際に叩いた女と同一人物とは思えないほどの変わりようだったからな。


「それに何の関係がある。それに私の話を」


「言葉ではそう言うが察しているんじゃないか。それにそれこそ関係ない。俺はな約束をした。村長が自らの意思で俺の所に来ない限りは話さないと。来たら遠慮なく相手に聞く気がなかろうと話すと。怪しく思うほどに挙動不審になったか本当に分かりやすい」


まあ時間が経って忘れたのか知らないが約束したのだきちんと果たそう。それがあの女の破滅に繋がる物だとしても。


「俺の実の父親は俺が唯一壊した男だよ村長。ようするに兄妹の間に生まれた子供。俺のことを化け物と言う前に自分たちの倫理観から見直せと思わないか?」


さすがに斜め上だったようで心の奥底から愕然としていたがそれを見てから俺は森の奥に戻ろうとする。それに気づきすぐに俺に声をかけようとしていたが。すぐに動きが止まっていた俺が自分を睨みつけるなんぞ考えてなかったようだからな。


「血の繋がりどころか心の繋がりすら持とうとせず罰という名目で奪うばかりの苦行しか与えなかったうえに心の奥底から楽しんでいた”人間”が”化け物”の俺を息子として扱うな虫唾が走る。俺が未だにお前らに情を持っていると勘違いしていたのか図々しい」


その後俺は村の連中の心ではなく人間関係に深い溝を作るように暴いていき村の連中は同じ村の中の人間ですら信用できなくなっていき一人一人村からいなくなっていった。あいつらが外でやっていけるとは思えないが強い選民思考と人間不信が合わさった人間は大概面倒だから。


最終的に誰もいなくなったため俺の復讐は終わった。それからはその村の跡地で動物達と平穏に暮らすようになった。今日は熊の奴が鮭を捕まえると張り切っていたからな貰って食わせてもらう約束をしている。その礼に熊の冬眠準備とかも手伝わないとならないから忙しい。


それから俺は熊と共に何代も他の動物たちを見送った熊の奴も自分の子に俺を任せてから逝ったが熊で40年以上生きたのだから大往生だろう。本熊いわく意地と根性だと。そうして俺は村の跡地が完全に森へと変わるまで動物の子孫たちと楽しく暮らし最後には安らかに眠った。


◆◆


「あー……よく寝た。にしても随分と懐かしい夢を見たな」


正直前世の縁乃那霧えにしのなきりとしての記憶をダイジェスト版で見たような感じだ。正直前世の奴らは今じゃ本当にどうでもいい。復讐心すら自然消滅したぞ。動物たちの子孫が穏やかに暮らしていればいいなとは普通に思う。特に熊の子孫は町に出て退治されてないだろうな、とか……。


「さてと十分寝たし少しばかり探索に行ってくるか」


今生の家族は堕ちて復讐鬼となった際に変化した金色の瞳程ではないが色素障害と判断される黄色の瞳と元の状態に戻った力を受け入れてくれた。俺の前世全てを。だから絶対帰る。大切な家族の元へ。

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