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知識狂いの異世界録  作者: 心乃月日
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縁乃那霧 上


僕には心の気配を感じ感情を読み取る力。感覚的に動物の言葉が分かる力があった。だから化け物と言われ続けた。


「わぁ!教えてくれてありがとう!こんな綺麗な場所初めて見た!」


それでも僕は知的好奇心というのが旺盛らしいと動物たちに言われ色々教えてもらっていた。


綺麗な花畑とか桜の咲いている海が見える丘とかを教えてくれるんだ。


食べ物も村の人達からは貰えないから動物たちが教えてくれた。食べられる木の実を食べたり美味しい湧水を飲んだりした。それらが取れる場所も湧水が出ている場所も動物たちが教えてくれた。


だけどそれに不愉快だと思った村の人たちは最初に僕から薬で視力を失くした。目で直接見ることができないように。


バチンッ!!


「貴方が綺麗な景色を見ていいと思っているの?化け物くせにふざけないで!!」


「そうだな。今までは忌々しいが自分たちの子供だからと甘やかしすぎた。お前には身の程を分からせる必要があると分かったからな」


目が見えなくなってから僕を生んだ人に頬を遠慮なく叩かれた。


ガチャン


そして冷えた場所に入れられたのだと思う。鍵がしまる音がしたからそう思っただけだけど何か冷たい物を腕と足につけられてからは僕に自由はなかった。


ブンッ!!


「あああああああ!!」


「化け物が痛がるんじゃねえよ!!」


力任せに何度も何度も指に何かを振り下ろされるんだ。


本当に本当に痛いのに、それを悪い事だと言われた。痛がったら殴られた。


僕はこうして自分自身の血の匂いを知った。肉が潰されて骨を叩き潰される痛みを知った。


それからも悪いと判断すれば僕の所に来て叩き落としていかれる。


指が無くなれば手を手首から落とされ手の甲が無くなった。その次は足。その次は肩から叩き落された。


「良かったな手枷と足枷なくなったぜ?」


今までつけられていたのが枷と言われる物だと初めて知った。その枷が無くなった時には僕の腕と足は完全に無くなっていた。


普通なら血が無くなって死んでしまってもおかしくないのだろうけど何か薬を飲まされたせいかそれもなかったんだ。


「殺しはしない。それもお前に対しての罰だ。自分が化け物だと弁えるがいい」


時折本来ならお父さんと呼ぶはずの人がこう言いにやってきた。


このお仕置きがされるようになってから食事を与えられるようになった自分自身の肉を口に入れられたり草を放り込まれたり泥の味のする水を飲まされたり。


両手足がなくなってからは吊るされるようになった。重さのかかる場所がとても痛かった。


それで両手足がないから粗相も普通にするからそれを笑われた。


男の人も女の人も……みんな心の底から笑っていた……。


それでも化け物と言われても仕方ないと思っていた、少なくとも異質なのは理解していたから。それでも悲しかったから泣いた。村の人達の前で泣くと殴られるからいない時だけ。


「ピィ」


「あり、がとう」


こんな状態になっても動物たちは良くしてくれた。


特に一番仲良しな小鳥は毎日村の人がいない時に小さな果物を運んでくれて口の中に甘い味が広がるんだ。


他の動物たちは粗相した物を埋めてくれたり本当に動物たちには感謝しかないんだ。化け物である僕にこんなに良くしてくれるんだから。


「ピィ!ピィ!」


「えっ……」


その日も村の人がやってきた、だけどそこにいたのは見えなくても心で分かる、僕の友達の小鳥。


「やっぱりお前関連だったかよ」


分かってしまったんだ。村の大人が握っているのだと……。


「や、めて……や、めて……!!」


ギシッ ギシッ!!


止めるために動こうとした、だけど僕にはもう腕も足もないし吊るされて……そして……そして……。


グシャッ


潰れる音がした。そして消えたんだ小鳥の心と感情が。


血の香りもした、だけど今回は僕のじゃない友達だった小鳥。


「なんで!!なんで!!殺し……」


僕の言葉は最後まで続かなかった。村の人が僕の口にその小鳥の死体を無理矢理詰めたから。


「お前が傲慢な願いを持つからこうなるんだよ化け物。まあこんなつまらない命ぐらいしかお前に関わらなかっただろうがな」


つまらない命って何?僕が思ったのはそれだった。


動物達だって生きている。心がある。感情がある。なのにつまらない……ってなに……。


「なんだその眼は!!」


ザシュッ


前使われていた物とは違う鋭い物で僕は斬られた。それに対して男の人は焦りを抱いた。


ああ、そうか僕を生かさないといけないのにこんな風に……間違いなく死ぬ傷を付けたからなのだと理解した。


「……ッ……お前がお前があんな目をするのが悪いんだよ!理由を言えば村長だって納得するぜ!!」


そう言って出て行った。そう自分自身でも分かっている。今回のこれは助からない傷なのだと。


それでも僕だけなら良かった。だけど今回は違う僕以外が傷つけられ殺された。


しかもあいつは小鳥の事をつまらない命と言ったんだ。それを僕は許せないと初めて思ったんだ。こんな感情は初めて抱いたけど知っていた。


これが怒りである事は。村の人が僕に抱いたのを感じていたから。動物たちが村の人達に抱いていたのを感じていたから知っていた。


ああ、もっと早くにこの気持ちを僕自身が抱いておけばよかったのだろうか。


死にたくないと家族に愛されたいと知りたいと思う事を悪く言われたその時に。


視力を奪われた時に。四肢を奪われてしまった時に。許せないと言う気持ちを。その思いを抱いたまま僕は意識が遠くなっていき死んだ。


「あ、はは」


運が良いのか悪いのか。目の前には四肢を失くし天井から吊るされた体を斜めに裂かれ体中に青痣と傷跡のある目を背けたくなるような死体。


その口には潰され殺された小鳥。そう自分の死体を見れている。腕も足も指も全てあった。全て失ったはずの物なのに。奪われたはずの物が存在した。


グチャ


それに気づいてすぐにした事は自分の口に無理矢理詰められた小鳥を丁寧に口から取り出す事。


取り出した小鳥は唾と血で汚れ綺麗な羽は血の赤で染まっていた。潰されてしまった小鳥の体は一目見ただけじゃ小鳥だと分からなかった。心の中で小鳥に謝りそして決意した。


「安心しろ。もうお前たちに愛されたいなど”俺”は思わない。本当に俺は馬鹿だった」


いつか普通の子供のように愛してもらえるのではないかと可愛がってもらえる時が来るのではないかと思っていた自分に反吐が出る。


「ああ。憎い、憎い、憎い、殺してやりたいほどに憎い」


正直声にしなければ抑えきれない程の激情としか言えない心。だが大丈夫だ殺しはしない。


時には生かす事が罰になるのだと教えてくれたのはあちらだ。それだけは感謝しよう。


「お前たちが化け物と言ってくれたんだ。それならその責任をしっかりとれ」


俺を化け物だと言ったのは全てあちら。なら俺が化け物らしく復讐しても何の問題もない。


正直死んだのに体がなぜあるか分からない。でもそんなことはどうでもいい。動くための四肢と視力がある。それで十分。たとえ死霊だとしても別にいいではないか。復讐するための体があるのだから。


俺が入れられていたのは洞窟を利用して作った牢屋だった。幸い格子は小柄な子供なら通り抜けることができそうだ。今の俺はかなり小さい。そして小鳥の亡骸だけを持って外に出た。誰もいない事は力で分かるから。


途中の水場で姿を見れば瞳の色が元の黒ではなく金と言うのだろうがそう言う色合いに変わっていた。それにかなり幼くなっていると思う。三つ、四つぐらいの見た目。


そこから出た俺は小鳥を埋葬するために歩いていた。正直元々の年齢よりも小柄な体躯に変わっていたために時間がかかったが海の見える丘にある桜の根元に埋葬した。


「お前は本当にここが好きだっただろ……一番好きな場所だと教えて、くれただろ……」


涙が次から次に溢れてくる。小鳥の死をあいつらに伝えないといけない。だけど、もう少し、もう少しだけ泣かしてくれ一番の友達が死んだのだから。俺はしばらく心の奥底から友人の死を悲しみ泣き続けた。

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