旅立ち
「店主これは……」
俺はクラスの奴とは別行動して古書店でバイト的な事をしているのだが、その店主が本を差し出してきた……明らかに受け取れと言う感じなため困っている。
しかも俺の欲しいと思っている目的の物だから戸惑った、欲しいと言う態度を出してなかったはずなんだが……案外俺は分かりやすいのか?
「これが欲しいから依頼を色々してたんだろ?」
「まあ、それは認めるがいいのか?結構高額の奴だと言うのに……明らかに報酬との釣り合いが」
「確かにそうだが親父の代から売れ残っている奴だから遠慮なく持ってけ正直過剰労働の方が心配だからな、というか子供がそこまで気にするんじゃねえ」
「子供なのは認めるが過剰労働は何の事だ?」
まあ身長や童顔なため子供と見られるのは分かるのでいい。だが過剰労働と言われてもピンとこなかった……でそんな俺の反応を見て苦笑いされたのだが……。
「はぁ……お前さんがマイペースなのは分かっているし楽しんでいるのも分かるが俺だけじゃなくて他の店とかの連中からも頼まれた」
「……そういえば他の店でマイナーな魔力関係の本が欲しいから金を貯めていると……言った覚えが……」
「ああ、それで覚えがないかと言われてすぐにピンと来たからな……ったく態度に出さないのはいいが……正直お前さんのは少し徹底し過ぎで心配になるぞ」
「そうか?まあ感謝する店主……さてとなら今回の報酬はこれって事で」
「いや、やる、というか受け取らんと言っても渡すぞ・・・でしっかり休んで食え、安くて美味しい店があるんでそこに行け、というかお前さんが依頼で手伝いした店だがよ」
「……俺はいったいどう思われているんだ」
明らかに割り増しされた報酬で店に食べに行き、一番安いホットサンドのような料理と安いから時折気分転換に飲んでいた飲み物を頼んだ……で飲み物は普通に来たのだが……。
「……見間違いようがなく厚切り肉のトルタなんだが、俺が頼んだのは野菜のフェリチェとフィーツだぞ、フィーツはともかくトルタは他の奴の注文と間違えてないか?」
フェリチェがホットサンドのような料理でフィーツが俺が好んで飲むようになった飲み物、トルタがハンバーガーと言えば分かりやすいか俺の目の前にあるのは見事なステーキ肉が挟まっている物だな……で顔見知りの店員にそう言ったんだが。
「ああ、おかみさんが肉を食べなさいって問答無用で変えたわよ?料金は最初の注文の分しかとらないし遠慮なく食べなさい」
……問答無用でそれを食べることになったのだが、結論を言うととても美味かったと言っておく。
「本当町の人には感謝しかない、に比べて城の方は……本当呆れるな……」
町から帰って来た俺がいるのは城の中ではあるが小さく元が物置だったのか色々置かれている部屋、支給された服は使い古し、そして目の前にある食事は冷めたスープとパン。まあ俺は町で食べているし大衆的な料理が好きなためどうとも思っていない……実際B級グルメとか……とりあえず俺の好みは置いておくか。
それに時折俺の使っている部屋に日持ちがしそうだったりスタミナが尽きそうな物が包みに包まれた状態で置かれている事もある。まあさすがに鳥の丸焼きが包まれていた時はどうやって確保したのかも気になったが……まあ包みの包み方で複数人なのは予想済みだし予想もついている。純粋にこれには感謝しているからな。
俺の扱いが明らかに悪いのはステータスが余りに他の奴と比べて低く属性が空欄であったこと特に属性が空欄だったことが拍車をかけたと言っても過言じゃない。
実際魔法を使う才能、魔法適性がそれなりにあったのだがそれも属性が空欄、すなわち属性がなかったために宝の持ち腐れと言われる始末、ちなみに属性は火、風、土、風、光、闇とそれぞれに稀に持つ者が現れる上位属性が存在する……委員長が持っていた雷は風の上位属性と言うわけだ。
この通り属性は誰もが持っている物、親から遺伝する事が多く形や強さは違うが属性に応じた加護が必ず生じる。ようするに属性ないのはその加護すら持たない者、この世界の者からすれば見放された存在。
だから俺は城の者の一部に一般人以下の偽物勇者など陰口を叩かれているからな属性の概念はとても大きいとすぐに分かる……と言っても諦めたわけではない。
魔法適性があるのなら魔力やそう言う関連の技能は扱える、なら属性がなくとも使える技法を探し出せばいい、探してなければ自分自身で作ればいい。
まあ、ちょっと人がいない時を見計らい王宮の書庫で色々物色し探していて魔術式という魔法とは違う魔力を活かす技法に関する記述を見つけた。
何件もある本屋や古書店を巡って一冊だけ見つけたが凝った装丁だけでも価値があるのか値段が高額で俺は堅実に金を貯めて買う決意したわけだ、まあ結局貰ってしまったんだが。
まあ俺は他にも揃える物が沢山あるため冒険者のギルドで町の方で手伝いなどの依頼あとは簡単な採取や安く買った値打ち物の薬学の本を参考に簡単な傷薬を作って道具屋に納品する事で金を稼いでいた。
正直現段階で魔物は倒せないからな討伐系や戦闘系の依頼は無理、危険がある分報酬は良いが戦う術がないのに挑む気もない……それはただの無謀。
暇を見つけては城の本を読み漁り、依頼を受けて仕事してを一日に何回も繰り返した事もかなりある。だが過剰労働と思われていたとは……。
まあ町の人の厚意で本を買うために貯めていた金で大量の食糧、非常食あとは旅に必要な物品を揃え全部鞄に放り込む事ができた。
普通なら鞄にそこまで入らないだろうが俺のスキルの欄にあった収納保存それはゲームで言う道具袋やアイテムボックスに相当する物、まあより正確に言うと自分の持っている鞄をそれに変えるスキル。
しかも入れた食べ物もそのままの状態で保存され痛むことも劣化もしない、旅人には嬉しいスキルだろう、しかも俺しか取り出せない仕様だから盗まれもしないと良い事尽くめ。
「……なるほど確かに魔法とは全然工程が違うな、でこれがこうなって」
本を手に入れてから俺は他の者達が訓練を受けている間ずっとお金を集めは控えめにし魔術式を習得する事に努めていた、あと使えそうな薬の調合と城の本の読み漁り。時々仕事を受けてはいたが今度は過剰労働と思われないレベルにはなったと思いたいが……。
魔術式は構築式を精密な魔力操作で構築しなければいけないため発動時間の長さというデメリットが存在し質も構築式の出来が影響するため安定性がない。
それに比べ魔法は魔法適性と属性があれば詠唱だけでも発動するし魔法を補佐する道具、分かりやすく言えば魔導書や杖があれば一言で発動、即効性と安定した効力。
行ってしまえば失伝してないのが不思議な程マイナーで不完全な技術。城にそれ関係の指導書が一冊も存在しない程だからな、だが魔術式には魔法にはない利点があった体外魔力を使用する事が可能な事。
ようするに自分に魔力が残っていなくても使える技法ってわけだ魔力が平均よりはあるレベルの俺にうってつけ、それに不完全な所も試行錯誤する楽しみがある……完璧な物なんてつまらない。
魔術式を何度も実際に使う事で試し魔力の細かい操作を意識する事で構築する速さと術式の質をどれだけ安定させれるか訓練するようになってから一月が経ち……。
名前 サトリ・シキノ
レベル 5
年齢 16
性別 男
職業 魔術式師
称号
属性
体力 86
力 30
耐久 35
器用 80(319)
俊敏 71
魔力 111
スキル:言語理解・収納保存・術式構築補正・体外魔力使用技法・隠蔽術・麻痺耐性・毒耐性
なんでかステータスが斜め上なことになった、職業が魔術式師になり技能が増えたのはいい事なんだが……。
「……やっぱり器用の上がり方だけがおかしいのがな……魔術式師補正か何かなのか?」
と言いつつ異常な上がり方だと思ったからステータスを見るための水晶球にちょっと隠蔽用の魔術式を使って数値を弄った。()内の本当のステータス値が見えると面倒だから、主に城と大半のクラスメイト達が。
「さてと……そろそろ潮時か」
部屋を徹底的に綺麗にして何の痕跡も残してやるかという思いすら感じそうな鏡のような床になった小部屋、綺麗にすると言うのは本当に清々しい。俺はここを出て元の世界に帰る方法を探す、正直ここの書庫の本は粗方読みつくしたしめぼしい物もなかった。
まあクラスの大半は魔物の件が解決すれば帰れると思っているようだが王様が帰してくれると信じたうえで。まあ俺は王自身が送還陣の起動条件を知らないと思っているわけだ、その理由は送還陣の事を話している際の不安、戸惑いその他諸々。
俺はそう断言できる確証を持っているからな、だから残る気がないし協力してやる気がない。
あの言い方なら陣が作動しなくても条件を満たしていないと言い切る事が出来る、嘘は言っていないが真実を言っている訳でもないってこと。個人的に王なんてしていれば生粋の善人でいるほうが無理だと思うので文句は言わないが信用するかどうかはまた別。
そしていつも通り城を出て町に出てから隠れてカラコンと眼鏡を外し髪を結ぶ。まさか生まれつきの眼の色が淡い黄色だとは思わないだろ。クラスの連中はあちらの価値観、城の連中はカラーコンタクトを知らないからな。こっちで世界で手入れするのはとんでもなく手間がかかったがな。
正直服が使い古しで助かった、他の連中のような高級品では町で浮く。それに大衆的デザインだから紛れやすいのも良い。顔見知りになった服屋で服とコートを買い本格的に着替える。これで旅をしやすい格好になった。
「……外側を繕うのが得意な王様どこまで他の連中を騙せるか、見物だな」
まあ、すでに何人か疑いを持っているしそいつらは独自で動き始める……あくまでこれは俺の予想なので断言はしない。良くも悪くも人は変わる。それに何人かには礼も兼ねて手紙を置いてきたがどう動くだろうか……。
そう思いつつ主に町の人に世話になった王都アストリアに背を向け歩き出した、次の場所に向かうために。