宿屋にて
古書店で爺さんとレティアと爺さんが大量に買い漁った本を回収してから宿屋に行き防音の結界を張ったうえで話し合う事にしたわけだが……。
「聞く限りだと城の連中が俺を探すようなことを一切していない事は分かった。これなら気楽に旅ができそうだな」
「はぁ、お主に関心がなさ過ぎじゃろ城の者達は……」
「そりゃ城の者達にとって俺は一般人以下の偽物勇者だったからな。まあ勇者なんて性に合わない物になる気もないから別に良いうえに今でもそれは変わらん」
……物語の勇者のような行動は俺には無理だと断言する。なにせ俺は前世の教訓で絶対的な優先順位ができているため誰でも彼でも救おうという精神はない。
正直そういう類の甘さは小鳥が縁乃那霧が死んだ時に滅びたと言っても過言じゃない。そうじゃなきゃあそこまで遠慮のない復讐もできなかっただろう。それでも家族や信頼している人間にはかなり甘いのだろうが。
「……そのお城の人達は嫌い。それでサトリを探していたの男の人は」
「クラスメイトだった東堂孝也だろうな……本当に土下座して謝るべきかと……」
「……なんとなくだけど怒りつつも許してくれると思う。でもどこにいるのかが分からない……」
「あーそれなんだが……東堂の奴がもしあいつなら俺が確実に行くだろう場所で待ち受けていると思うんだが……」
「サトリが確実に行く場所……?」
「中立国家ヴァルクドにある学芸都市クラウド。様々な学問の研究が盛んに行われ新しい技術の開発などもしている都市だ」
「パパが好きそうなの」
「正直自分でもそう思うから否定しない。だが中立国家であるヴァルクドの都市だから亜人族も普通にいる……だから偶然アーシェを知っている者に会ってしまったり爺さんの眼を見られたりする可能性が高くなる……」
アーシェは今じゃ俺と会えたのもあって全く気にしなくなっているがエルフの家に捨てられているし爺さんも目の色で迫害を受けている。
「私は大丈夫、会ったとしても私の年齢は五百歳ずれているから……それにこんな表情豊かになって身綺麗になった私をあっちが同一人物と思うわけがない」
「それはそれで複雑なんだがな……で爺さんは?」
「目を見られると不味いと思うが、そういう都市なら良い本が集まるじゃろうから正直行かないほうが良いと分かっていても行きたいのでな。じゃから儂を置いていくような事はしなくていいと言うわけじゃ……というか置いていかれたら拗ねるぞ儂は」
「……俺も知識狂だが爺さんも負けず劣らずの本狂いだな」
こうして次の目的が決まったが数日程は全員で旅の資金の確保に専念した。お金が予想よりも大分残ったとはいえ旅をするうえで必要不可欠だし蓄えがあって困る事もない。
魔石は金になるが売り過ぎると色々問題が出てくる。確かに魔石を作る技術はあるが俺みたいに短時間で生産できるものではないため出所を探られると不味い。
俺は前と同じく楽しみつつ散々された忠告を参考に前以上に加減して仕事をしていたのだが……やっぱり過剰労働扱いされてしまった、もうどれだけ加減したら普通基準になるのだろうか……。
「……サトリ楽しいのは分かる。だけどもう少し休むべき」
「うーん……大分加減しているんだが」
「じゃあ罰として今日は一日膝枕の刑」
「それは俺がするのか?」
「……ううん、私がサトリにする」
実際そんなやりとりをして一日中アーシェに膝枕をされていたのだが正直疲れないのかと思うが本人曰く嬉しいから疲れを一切感じないと言っていたんだが……。
「アーシェ、一端中断してくれ水鏡に連絡が入ったみたいでな」
「うん、お義父さん達にしてもお爺ちゃんでも待たせるのは悪いから」
さすがに大型の物は持ってきていないが小型の物は別行動している際には活用している。まあその存在を表沙汰にはできないため使用するときは結界などがある意味必要不可欠だが……。
防音の結界と様々な物を感知する結界を張ってから水鏡を見るとどこか焦っているような様子の爺さんの顔が映っており俺とアーシェは何かがあったのだとすぐに分かった。なぜならレティアの鳴き声が鏡越しだが聞こえるのだから。
『二人とも今すぐこちらに来てもらっていいかの……レティアが随分と怯えて泣いてしまっているので宥めてほしいのじゃ』
「何があった爺さん……いやより正確に言うなら何がそこにいた」
レティアだってレベルに関しては百を超えている、少なくとも爺さんとレティアが依頼を受けて行った場所にレティアが怯える程の魔物がいないのは確認済みだったのだが……。
『本当にお主は察しがいいのう……それも含めてこちらで説明したいのじゃよ、少なくとも町の者達は大丈夫じゃろうが城の物の耳に入ってしまうと厄介ごとにしかなりそうにないのでな』
「分かった、俺とアーシェがそっちに向かう」
「……私とサトリが行くまでレティアをお願いお爺ちゃん」
『分かっておる、ほれレティアすぐにお主のパパとママが来てくれるからの』
『怖いの!!怖いの!!やだやだやだなの!!!』
さすがに鏡越しでは感情は感じ取れないがそれでも完全にレティアが恐慌状態になっているのが分かるため俺とアーシェは必要な物を持ってすぐさま爺さんとレティアのいる位置へと移動するべく行動を始めたのであった。