一年ぶりの町
爺さん関連で色々あったが無事に町に到着、爺さんの凍結はアーシェが解除済み。そうしてやってきたのは……。
「ふむふむ、これは少数民族特有の文字……なるほど軽く読んだが獣人族の兎族の生活文化やらが書かれておるようじゃ」
「あーさすがは坊主の知り合いと言うべきか?それどこの書物か扱いに困っていた奴だってのに……」
「なに儂は書物その物を研究する学者でな言語に関してはサトリよりも知識は上じゃ。それに儂は見た目よりも長生きしておるからな」
「なるほどアンタ小人族か。どうりで見た目と口調が一致しないわけだな」
「そう言う事じゃ。そういえばまだ名乗ってなかったの儂の名前はエルアーク・フィムズじゃ」
俺に魔術式の本をくれた古書店の店主のところだ。爺さんが本を買いたいと言うのでここに案内したのだが実際爺さんの文学の知識は凄い。長年の積み重ねと努力による物。爺さんとアーシェのおかげで読める言語は増えたが爺さんには敵わない。
「それにしても坊主は大きくなったな、それに随分と見目も良くなったんじゃないか女の子にもてるだろ」
「まあ今は自分でも驚くほどに背が伸びたな。あと店主そういう冗談はやめてくれないか指を見たら分かるだろ」
「悪い悪い。だが嬉しくてな。こんな綺麗で美人な嫁さんと一緒にまたここに寄ってくれたって事にな……で嬢ちゃんとその可愛い魔物の子の名前はなんなんだ?」
「私はアーシェ。この子はレティア」
「レティアは俺のテイム・モンスターだ。もちろん人を襲わないように言っているから安心していいぞ店主」
「キィ!」
「言われなくても見たらいい子なのは分かるんだよ。見る目はあるつもりだからな」
「そうか。ちょっと聞きたいことがあるんだが俺が離れてから何か変わった事とかあったか?正直最近は情報が届かないところで趣味に没頭してのんびりしたり結婚式をしていたからちょっと世間との認識の帳尻合わせをしたくて寄ったんだが」
「あーならしょうがねえな田舎の方まで情報が届かないなんて普通にあるしよ」
嘘は言っていない。正直後半はかなりそんな感じだったぞ。
「あー変わった事だったか……そうだな城が独自の騎士団と言えばいいのか分からんがそういう物を結成した事か。見た事あるが見事に全員が十六とか十七ぐらいのやたらと若い奴らばかりだったようだが……」
「騎士団?」
「あとはお前さんの事を探していたかもしれない兄ちゃんがいたな」
「俺をか?」
「多分だぞ。なにせその探し人の特徴がよ黒髪の小柄な男で声は低め。知る事が大好きな知識狂いで無意識に色々やらかすタイプだと言っていたんでてっきり坊主の事だと思ったんで教えたんだがよ」
「……本当に俺のイメージはどうなって」
「少なくとも知りたがりな知識狂いでなおかつ放って置けねえタイプだな。それで探していた奴は茶髪で大柄で口が悪いタイプの奴だったんだが覚えはあるか坊主」
「多分って奴が一人」
この世界で茶髪の髪は普通に多い、まあ俺はそいつが誰かすぐに分かってしまって頭が軽く痛いのだが。
「ふむ。それでその組織にはリーダーがおるのかの?」
「いるんだろうが俺は知らねえな。だが実力は本物だな実際その龍種が城に運び込まれたのも見たぞ、あとはそうだな城の兵士たちが勇者様とか言っているのを聞いたことがあるが……どこから人材を集めて来たのかは不明ってのがキナ臭いがギルドの連中も見たことがないって言ってやがるから冒険者でもねえしよ」
「そうか」
なるほど龍種とはまたとんでもない事になっているようだが知らなくても仕方ないんだよ店主。なにせ俺も含めて異世界から拉致されたのだから……まあ俺はアーシェと再会できたから結果的に良かったんだがな。
「それでその騎士団って今は町にいるのか?」
「いやこの間送り出されてから帰って来てねえからいないはずだ……二、三日前程前の事だから当分帰って来ねえんじゃねえか?」
それを聞くとアーシェとレティアがジト目で爺さんを見始め爺さんがその目線を避けるが如くあらぬ方向を見始める始末。驚くようなタイミングですれ違ったようだな。
「んっ?どうかしたのか」
「ああ気にしないでくれ……で爺さん俺達はちょっと回ってくるが」
「ふむ、それなら儂はもうしばらくここにおるかの」
「キィ!キィ!」
レティアはここに残って爺さんを見張るつもりらしい。それを見て爺さんは複雑そうな顔をしていたが何も言えないようだった。
それで俺とアーシェは店などに寄り色々補充するために物を売って金に換えてから必要な物を買い足すなどをしていた。
「へぇ、結婚したの。それならこれはサービスするからタダで持っていってね」
「いや、さすがにそれは」
「その代わり過剰労働せずに奥さんとゆっくりしておきなさい。君が働き始めると無自覚で働きすぎるからね……貴方も彼が働き過ぎないように気遣いなさい彼の過剰労働癖は本当それはそれは……」
食材屋の女店主が俺に気付いたため結婚したと言えば自分の事のように古書店の店主と同じく祝福して喜んでくれたんだが俺がどれだけ働いていたのやらをアーシェに言ったり過剰労働しないように見張っておけと助言していたが。本当俺のイメージはどうなっているのかと……。
……まあその後も行く先々でそれが繰り返されたのだが明らかに必要以上の値引きとかタダで物を渡されたせいで予算が大量に残った。
「あー俺からしたらこっちの文化レベルとかどういう風に武器を作っているかとか色々見て回りたくてやっていたんだが……そんなか?」
「仕方ないと思う。聞いた限りサトリは働き過ぎ」
「うーん、趣味に没頭しているような物だからな。お前が働き過ぎだと思ったら止めてくれ」
「うん……サトリ次はあそこを見たい」
アーシェが目を向けた方向を見てみるとそこは装飾品の露店。まあ俺が作るのは比較的シンプルな物が多いため純粋に華やかな物が欲しいのだろうと判断し普通に了承した。
そうして真剣に商品の品定めをしていたようだがアーシェが手に取ったのは銀のリング状の髪留め。質の良さそうな黄色の石が嵌っているようだが正直アーシェには合わなそうなデザインだと……。
「それが欲しいのか?」
「大丈夫、それにこれは私が買わないと意味がない」
そう言ってアーシェがそれを買ったと思えば俺が髪を結んでいる紐を解いてきた。
「私は不器用だから作れない。だからせめて私が選んだ物を……それにその紐も切れそうだった」
「そうかそれならありがたくもらっておく、ありがとうアーシェ」
お礼を言いつつ髪留めを付けるとアーシェは笑みを浮かべていた。本当こういう時間がやってくるとは……そう思いつつ俺もアーシェに笑みを返した。