エルアーク・フィムズ
再びあの感覚が襲ってきたと思えば今度こそ現実に戻って来たらしくレティアが心配そうな顔をして見ていた。アーシェも戻ってきているらしく安心していた……で近くにはあの黒ローブ。
「気が済んだのなら俺以外にも見えるようにしてフードを外してほしい、ってのがこっちの言い分なんだが」
『分かったわいフードの方は気が進まんが……まあ、お主らならいいじゃろ……』
そうして魔力を使って体を作り出したのか実体を得た黒いローブの人物をアーシェとレティアも認識。やっとこれでまともに会話ができる状態になった。
「儂がこの迷宮を作ったエルアーク・フィムズじゃ、よろしくの」
「小人族……でもそれだと」
「そう儂はとっくの昔に死んでおる、小人族は長くても三百年しか生きられないから五百年前に迷い込んだお嬢ちゃんが疑問に思うのも自然な事」
その見た目は薄めの紫色の髪の髪は肩まで伸ばされている。前髪も長く目が見えない程だった。
「おっと髪を留めるのでちょっと待っとくれ」
俺の視線に気づいたからなのかその長い前髪をピンで留めると真紅と紫色の瞳をしたオッドアイ。そして中性的な顔立ちではあるが普通に整っている部類だと俺は思ったがアーシェがそれを見て驚いていた。
「あっ……」
「まあ、お嬢ちゃんは半分とは言えエルフだからのう」
「ごめんなさい初めて見るから驚いて、でも誤解しないで私はそういうのはくだらない迷信だと普通に思うから化け物と罵って迫害して身勝手な罰を与える事と同じぐらい……ああいうのは迫害するほうがよっぽど害悪だって知っているから本当」
「まあ確かに珍しいじゃろうな。少なくともお嬢ちゃんがそう思うておるのは分かるがそこまで重ねないでいいぞ割と本気でそう言わせてもらうからの」
「まさか、そう言う事なのか……」
「まあお主は異世界人じゃろうし本に書かれる程の事でもないからのう知らなくても仕方ない……ただ単に亜人族ではオッドアイは縁起が悪いと思われておるだけでお主が思っているほどではない、それでも余り見せたくはないのじゃが」
「……済まない無神経な事をしたエルアークさんも辛かっただろうに」
「いやいやいや!?お主が気にする事ではないから安心せい!正直お主と比べれば可愛い物じゃからな!?」
「でも昔の方が酷かったって私も聞いたから……大丈夫?腕とか落とされて……」
「それでも本当にそこまでされとらんから!本当にされとらんからな!!少なくとも五体満足じゃったから!!腕どころか指も落とされとらんからな!?」
真面目に謝ると逆に気を使わせてしまったらしい。なんだかんだで人が良いのだろう。正直俺とアーシェの基準が俺のされた事なので仕方ないのかもしれないが……力一杯否定したエルアークさんは軽く息切れを起こしていた。
「はぁ……はぁ……ほ、ほれお主らは試練を乗り越えたのだから進もうではないか。ああ儂の事は気軽に爺さんとかで良いぞ正直堅苦しいのが苦手なのでな」
「分かった。なら爺さんと呼ばせてもらうが……その扉の先には何があるんだ?」
「言ってしまうと儂のコレクションじゃよ、まあ見ればわかるじゃろ……にしても魔物の管理もしておったつもりじゃがお主のようなマンドレイクがいたとはのう」
「キィ?」
「なに、其方の祖先をここに連れて来たのは儂じゃからな……話はこの先で座ってしようではないか座る場所ぐらいはある」
ガチャン
爺さんが魔力を放つと鍵が開くような音がした、なるほど爺さん自身の魔力が鍵となっているわけか……。
ギィィィ……
扉が開いた先に広がっていたのはもうどれだけあるか分からない程の本が収まっている巨大な本棚のある場所。正直上を見ても一番上が見えないほどの貯蔵量。
……これには純粋に驚く。正直城の書庫が可愛らしく思える程の規模だからな。
「凄い本の山、これはお爺ちゃんが集めた物?」
「そうじゃよお嬢ちゃん。儂は大の本好きでな幼少から死の間際どころか死んでからも本を集めておったら自然とこうなっておったのじゃよ、で試練と言うのはここの閲覧許可を与えるかどうかを見極めるための物でな」
「……って事は」
「遠慮なく見ていいというわけじゃ。お主にしてもお嬢ちゃんにしても本を粗末に扱わないと思っておるからの」
「それは純粋に嬉しいが俺とこいつの概念属性をそっちだけ把握しておいてそっちは黙ったままか?」
「なんとなく察しておるだろうに儂の概念属性は身魂じゃよ、じゃからこうして死した後もこうして存在できとるのじゃから」
「なら覚醒者というのは」
「……あーそれはな……恥ずかしい話じゃが覚醒者とかそう言うのはただの雰囲気作りだから気にせんでくれ……その作った時の儂はまだ若くな、さあ要望を言っとくれ儂ならすぐに要望に叶う本を取り出せるからの」
本気で照れているらしい。あーあっちで言う厨二病的なノリで作ったのだと理解した。これ以上この爺さんの黒歴史を掘り進める気はないためこれ以上その事を聞くのはやめておこう。
「まあ、そりゃ何か仕掛けでもしないとこれだけの本の管理はできないだろうからな……とりあえず異世界と移動もしくは連絡する手段になりえそうな物が書かれた本を頼みたい、少しでも関わる物を全部」
「ふむ了解じゃ」
そう言ってから爺さんが聞き取れない言語で呟いた後に手を叩くと大量の本が飛んできてテーブルに積み重なった。アーシェも分からなかったようだからかなり昔の言語なのだろう……本当何年前の生まれだろうなこの爺さん。
「……うーむ、お主もう少し条件を狭めたほうが良くないか?」
「どのみち読むから問題ない。それよりも今のは何をしたんだ?」
「疑似的な魂を全部の本に仕込んでおるだけじゃよ。まあ魂と言っても感情や心はないからお主は感じ取れないじゃろうが儂の問いかけに答えて集まってくれると言えば分かりやすいかの?」
「とりあえずとんでもない事をサラっとしているのはよく分かった……本当爺さんのステータスが気になるな」
「儂の水晶球はとっくに劣化して割れてしまったうえに今は体を魔力で作っとるから血が出ないのじゃ。まあ精巧な体は作れるんじゃが手間暇がかかってしまってな」
「そうか……気にはなるが無理に見る程じゃないから無理しないでくれ年寄りに無理をさせるのもアレだ」
「そう言ってくれるとありがたいのう……ふむ、分からない言語があれば言っとくれ、もしかすると儂はいらんかもしれんが」
「ううん、私が教えられないのは教えてあげてほしい。それに私も一緒に教えてもらっていい?」
「そ、そうか?まあ、それならいいのじゃが……なんじゃろうな孫がいたらこんな感じなのかのう……」
そうして俺はアーシェや爺さんに言語を教えてもらいつつ爺さんの呼びかけに応じた本を読み漁る日々を凄し、時折気分転換で他の本も読み漁っていたら爺さんに知識欲の強さを呆れられることも多かった。
逆に俺が向こうから持ってきた本を見て目を輝かせた爺さんが日本語や英語を教えてほしいと頼み込んできた。もちろん快く了承したが俺が知識狂いなら爺さんは見事な本狂い……まあ、そうでなきゃこんな迷宮を一人で作らないとは思うが……。
そんな風に地下迷宮の最下層とは思えない程穏やかな日々を過ごしつつも俺は向こうと連絡が出来るかもしれない手段をいくつか見つけてそれを行うために試行錯誤していた。