違う形で
再びあの感覚が襲ってきたかと思えば今度は見覚えのある天井、周りを見れば大量の本棚で圧迫気味の地球の自分の部屋。どうやら俺の決意を気に食わなかったようで手を変えて来たらしい。
……あっちが条件を何が何でも達成させようとしている謎状態なんだが普通に考えれば。
階段を降りて下に向かうと既に母さんが食事を作っていた。正直今回は心と感情を感じる。急に完成度が上がったように感じた。状況が状況じゃなければ偽物と思えない程に。
「今日は私の勝ちね!」
「母さん別に俺は好きで作っているんだと何度言えばいいんだ?そもそも今日は休日だからゆっくりしていても良かったんじゃないか」
「むう、私は前世のろくでなしが怠った分まで覚を甘やかすと決めてるんだから当たり前でしょ?だから手抜きはできないの!」
朝は先に起きて作り始めたほうが作る事になったからな俺の方が多いせいで母さんが早起きし過ぎるようになってしまったからな。
……日付は目覚ましなどで確認済みだが……さてどんな設定になっているのか。
「少しは父さんにも構ってやれ……と言う必要がない程ゲームで対戦しまくってるか」
「だって共通の趣味なんだから。もうそろそろお父さんとアーシェちゃんも起こさないといけないわね」
テンプレと言えばテンプレなのは分かるがぶち込んだなあの黒ローブ。母さんと軽く話して俺が異世界から帰ってきた際に俺を追ってきてアーシェがこちらに来てしまい現在は俺が魔術式などを使って戸籍を偽造してルームシェアしている……という設定らしい。
正直無理矢理な設定であることにツッコミを入れたいが……ここで考えすぎてもアレだな……。
ノックをしても反応がなかったためにアーシェがいるらしい部屋に入る。部屋は俺の記憶の中にある客間ではなく青や水色のカーテンやシーツなどで統一された女子らしい部屋。
「すぅ……すぅ……」
ベッドに近づけば小鳥をデフォルメ化したようなクッションを抱えて熟睡しているアーシェ。分かりやすいがあからさまなだな。
……と思っていれば急にアーシェが飛び起きた。明らかに感情がごちゃまぜ……心の気配すら小鳥とアーシェが混ざったりどっちかに傾くかのような感覚だ。
「……私は、私は」
「お前はアーシェ・マルクだろう。何を見たかは知らないがそれは夢だ」
「……違う、だって……あんなに……」
「よしよし、怖かったな」
アーシェとして安定させるために声をかけるがそれに首を振って強く否定してきた、落ち着くように軽く抱きしめつつ背中を叩いてやっていたら安定していた。
……どうやらかなり強硬手段を使ってきているらしい。無理矢理思い出させようとしているのだと……なぜそこまで。
「そういえば覚もうそろそろ出なくていいのか?今日はアーシェちゃんとでかける予定だろ?ほら予算もやるから」
「いやさすがに諭吉三枚もいらないだろ」
「ほらほら気にするな遠慮なく持って行け!」
「アーシェちゃんはこっちね。似合いそうな服を買っておいたのよ」
「あ、ありがとうございます」
……うん、本当に一気に再現度が上がり過ぎだ。両親がこういう行動を取るのが普通に頭に浮かぶからな。実際父さんと母さんがアーシェと会う事があれば気に入りそうだし俺を心配してくっつけようとするだろうからな……知っているからこそ。
それからこっちの様々な場所を回った。アーシェはずっと楽しそうにしていたし俺もいつもとは違う意味で楽しいと思ってしまった。こいつの事を考えれば抱かないほうが良いはずの気持ちだと分かっているのに。だから卑怯だと分かっていても気づかないふりをしているのに。
「楽しかったか?」
「楽しかった、ゲームセンターも映画館も遊園地もあっちにはない物だから……本当こっちにはあっちにない物が沢山ある覚の両親も優しい人達」
そう言いつつ笑みを浮かべていた。そして……。
「本当に那霧の時と違って優しい両親で良かった。本当に良かった」
「何を言って……」
「もう誤魔化さなくていい全部思い出したから……記憶のおかげで私がサトリに抱いている気持ちも分かった。そしてサトリが帰るなら私もついていく覚悟ができた」
「馬鹿を言うなこの世界にはエルフはいない長命すぎる見た目が変わらないお前がどんな目に合うと思っている。俺は確実にお前を置いて逝く……それは父さんや母さんも」
「分かってる。私の気持ちを理解していないふりをしたのも私の事を考えて……那霧の時と変わらない変なところで自分の事より他の人を気にするところが……」
「そんな良い物じゃない!アーシェの思いだけなら知らないふりを続けて自覚させないまま手放させた!なのに小鳥だったことを知って手放したくないと思ってしまった卑怯者だ!」
完全に感情が爆発した。俺はそんな善人なんかじゃない。俺のせいで死んだのは間違いないのになんでここまで俺を想う。
「それはアーシェ個人を見ていると言えない遅かれ早かれ歪みが出る歪な思いだ!!それに俺と関わったせいでお前が死んだ!恐怖を抱いたまま死んだ!俺に関わらなければお前はあんな風に死なずにすんだ!!」
そう俺は怖い。こいつが俺のせいでまた死ぬかもしれないと考えたら……分かっているこれが臆病者の心情だって事は……怖いからこその逃げだと理解している。
「だから俺はお前の傍にはいられ……」
その先の言葉は続かなかった……アーシェが力強く抱きしめてきたため。
「だって私が恐怖したのは那霧と一緒に入れなくなるのが怖かったから。それにどっちも私。私にとって那霧とサトリどっちも大切なのと同じ……それにそれで手放したくないと思ってくれるならとても嬉しい、だから私も卑怯者……」
小鳥の記憶が戻ったせいか一気に感情の豊かさと意思の強さが跳ね上がっている。少し経てば俺も落ち着いた。普通に色々暴露したな色々それはもう手遅れとしか言えない程に。
「……あー本当にこんな情けない男でいいのか?お前のためと言いつつ逃げていた奴だぞ?しかも本マニアと言うか知識狂いを拗らせているしな?」
「往生際が悪いと思う」
「……ごもっともで、それならこれからは……これから先、俺とずっと一緒に過ごしてくれますか?」
正直恋愛経験がないどころか前世で嫌悪感を抱くレベルの者達ばかり見ていたせいか全く興味を抱けていなかったためなんと言えば分からず普通に恋人どころか結婚のプロポーズ的な事を言っていた。
「喜んで」
言ってからさすがに少しだけ照れ臭くも感じたがそれに対しての答えはその言葉と今まで見た事のないような笑顔。まあ喜んでくれたのなら……それでいいのかもな。




