妃候補たちの競宴
とある王国での妃候補たちの競宴と顛末。 競演でも饗宴でもなく『競宴』です(^^)
中世風の架空世界を舞台にした、なんちゃって貴族社会の話なので設定などへのツッコみはご容赦ください(^_^;)
追記 投稿後に感情表現などを追加しました。
国王をトップに戴く国で、年頃の王太子殿下が未婚……そんな場合、貴族のみならず国中、いや近隣諸国までもが彼の結婚相手に興味を持つのはごく当然のことよね。 そして、世界が平和で、国内も安定してて、緊急だったリ必要不可欠な政略結婚が回避不能ではなかったりしたら、ましてや当の王太子殿下が能力・人品ともに優れていようものなら、『もしかしたら私が』と夢見る女性が溢れかえるのも当然で……。
ただ、いついかなる場合でも例外が居るのも当然だと思うの……。
『伯爵家以上の血を持つ、継嗣ではない、未婚、15歳以上25歳未満。 以上の条件を満たす女性は1週間以内に王城へ参集すること。 王城での滞在は3日以上6カ月未満、すべて王城にて用意するので準備は必要無し。 本人と共に滞在できるのは侍女2人のみ。』
───これは、我が家に届いた王城からの命令書。 該当者の居る家すべてに同じ文面で発せられただろうことが一目瞭然なのが、作成者が厄介ごとを予感してるのを表してると思うの。
だって、これ、どう見たって集めるのは王太子妃候補だし、しかも『集めて一括で顔合わせ』するってことでしょ。 あ、ついでに品定めも、かな。 舞踏会などの短時間では判らない面も滞在期間中なら発覚する可能性有るからね。 期間中、王城は騒ぎが絶えなくて大変そうね。
「何を他人事のように落ち着き払ってるの! 貴女は当事者よ?!」
そんな言葉と同時にペシリと軽く頭を叩かれる。 こんな命令の当事者でありながら他人事としか思えない私も伯爵令嬢らしくないんだろうけど、言葉と同時に手を出すお母様も伯爵夫人らしくないと思う。
「命令だから拒否権は無いですし、該当する令嬢って20人ほど居ますよね? 3公爵家からは確実に1人ずつ来るんだし、私にとっては王城見学みたいなものですから。」
さらりと答えると、あまりにも私らしい答えだと苦笑を返される。 あえて口には出さなかったけど、実際の本音は更に1段階有るんだけどね。
「3公爵家から選ぶつもりなら他の候補者を集めたりしないだろう。 どうなるか判らないから、あらゆる場合を想定しておきなさい。」
あらら、お父様にまで言われちゃった。 ぶっきらぼうにも聞こえる言い方にも優しさが溢れてるのはわかるの。 事態が荒れる可能性を考えて心配してくれてる。 さりげなく『選ばれようとして無理しなくていい』とも伝えてくれてる。
まぁ、ウチは伯爵家の中でも真ん中くらいで、領地は小さいけど領民ともども穏やかに暮らせる程度の収益は有る。 両親も兄も大それた野心も無ければ自分たちを過信するタイプでもない。 そのうえ、私自身が能力も容姿も平凡なんだから、普通だったら王太子妃候補になんて名前が挙がることもない。
だから、口では私を注意したお母様だって、ホントはそれほど深刻には考えてないのは確実。 お父様の言葉で少し難しい顔をしたのは、お母様も不測の事態を心配してくれたから……。
───そんなこんなで、現在、王城。 デビュタントで入った舞踏会場より小さい広間に、令嬢と各自が連れて来た侍女、壁際に近衛騎士・女官・王宮侍女が大勢。
3公爵家の方々とか、侍女のお仕着せも含めて衣装に気合入ってるわね。 でも、お父様の言葉が正しければ、彼女達が選ばれる可能性ってほとんど無いと思うんだけど……気づいてなさそう。
少し待たされて、登場した宰相閣下、『得意なものを申請して、同じジャンルで集めて発表会を行う。 それを見学するかどうかは自由。 食事は大食堂で全員で摂るが、他は自由行動』と品定めを宣言してくれちゃった。 一瞬広がった微かなざわめきは、自分の得意なものを思い浮かべた結果なんだろうなぁ。
その後、宰相閣下が令嬢を1人ずつ紹介、令嬢が連れて来た侍女を紹介、担当する近衛騎士・女官・王宮侍女2人ずつが引き合わされ───つまり、それぞれの顔と名前が完全に公開されて───令嬢の人数分のグループ゚が出来たところで、やっぱり王太子殿下が登場。
王太子殿下は……明るい茶色で少し波打つ髪に琥珀色の瞳、中肉中背、『いかにも王子様』なきらびやかさは無いけど顏も身体もバランスは抜群。 威圧するより穏やかに包み込むような雰囲気。 面倒だと思ってらっしゃるだろうに表に出さないのはさすが。 雰囲気どおりの穏やかな口調で挨拶すると、微笑みを残して退出なさって……令嬢たちから多数の溜め息。
「王太子妃に選ばれるつもりは全く有りませんし、むしろ、選ばれないようにする気満々です。 それでも、誤解からの嫉妬とか有るかもしれませんので、危険回避のためにも、情報の収集と提供をお願いします。」
割り当てられた私室で、改めての自己紹介と軽い挨拶の後、私の担当の近衛騎士・女官・王宮侍女に告げた言葉。 彼らは、少し目を見開いただけで『わかりました』と承諾してくれた。
その様子を確認して、私は更に希望を告げる。
「それと……騎士様はお2人ともお身内に幼いお嬢様がいらっしゃったと記憶してるんです。 この期間に私を見ていただいて、よければ王城退去後にお嬢様の教育係に雇ってもらえるようにお口添え願えませんか? そして、そのためにも、女官の2人には私に色々と教育と指導を、侍女の2人には補助をお願いしたいと思ってます。」
騎士様は2人とも我が家の領地に近い侯爵家の4男、女官2人は伯爵家の3女、侍女2人は子爵家の次女……だから、立場的にも身分的にもこんな願いを託すことができると判断したのだけど。 この人員配置に意図を感じるのは考え過ぎかなぁ。 で、まぁ、予想通りではあるけれど、やっぱり6人揃って驚いて固まってしまったの。
ちなみに、私が連れてきた侍女のアンナとユリアは、一瞬呆れたものの、さっさと荷物の整理を始めてる。 実家では口に出さなかった本音がコレだと気付いたみたい。
王城組6人の中で真っ先に復活したのはさすがの騎士様で、ジョナス様は爆笑しながら『お手並み拝見』と、カイル様は苦笑しながら『なるほど』と、一応了承してくれた。
女官2人が、承諾の返事の際に腕まくりしそうな意気込みを感じたのは気づかなかったことにしたい……。
侍女2人は自ら協力してくれそうだから面白がってるみたいなのはキニシナイ。
そのお願いの後、滞在中の手配のためにと所持品の確認が有って、『疲れてるだろうから』と大食堂ではなく各自の自室で軽い昼食。
それから採寸が有って、今度は大食堂で晩餐。 以降の大食堂での晩餐では、令嬢の両隣がそれぞれの担当騎士様だったんだけで、それは嫌がらせ防止かも……。
その後は自由時間で初日(?)が終了。 自由時間に女官2人と侍女たちと今後の大まかな予定を相談もできたし、なかなか充実した1日だったわ。
「どうしました? 私のリードでは踊りにくいですか?」
「いえいえ、予想外な状況に少し困惑しただけです。 失礼しました。」
ジョナス様とのダンス中、一瞬だけダンスから気が逸れたのを気付かれて慌てる。
今は2日目の昼食後で……広間に集められた令嬢が前半組と後半組に分かれて担当騎士様とダンスしてる。 もちろん、宰相閣下から指示された全員参加項目の1つで、気が逸れたのは『そういえば、品定め宣言されてたんだった』と思い出して『これってダンスのテストよね』と思った一瞬だけ。 鋭いなぁとは思ったものの、謝ることは忘れない。 笑って許してくれてよかったぁ。
そんな中、ふと、ドレスの裾が引っ張られてよろける。 すかさずジョナス様が支えてくれて無事に体勢を持ち直す。 視界の隅をかすめたのは3公爵家令嬢の1人セレナ様。
「貴女のダンスはお上手ですから。」
とニッコリとおっしゃるジョナス様。 私のミスではなくあの令嬢の仕業だと気付いてますよ、とさりげなく教えてくれる気配りが嬉しい。 そして、『たとえ小さな芽でも可能性は潰しておきたいんだろうな』と小声で囁くときには口調がくだけてるところは彼らしいと思ったわ。
曲が変わると、ジョナス様からカイル様に交代する。 同じく侯爵家子息で近衛騎士なだけに、こちらもリードは上手。
「ドレスには汚れもほつれもないから大丈夫。」
踊り始めて早々に、そっと囁かれた。 カイル様も、私がセレナ様にドレスの裾を踏まれたことに気付いたらしい。 更には、壁際で待機していたからこそドレスの状態も確認できたようで安心させてくれた。 こっそり安堵の吐息をこぼした私に、背中を支える指先でトントンと労わってくれるところも優しいわよね。
2曲が終わって後半組と入れ替わりに壁際に移動する。
「物語みたいに、ぶつかって転ばせるんじゃないんですね。」
とアンナがこっそり話し掛けてくる。
「自分やパートナーが下手なせいでぶつかったように見える可能性が有るからね。」
こちらにはぶつかるつもりなんて無い以上、向こうから仕掛けるしかない、ってことは必然的に向こうの動きが不自然になる。 こっそり答えると、『なるほど』とユリアが納得、ジョナス様は少し意外そうに、カイル様は私の背中にまわした指先で再びトントン『よく判ったね』ってところかな。
ちなみに、ワインをドレスに掛けるとかも同様の理由で現実的ではなかったりする。
3日目には午後に歌の発表が有ったの。 これはダンスと違って申請者のみの披露。 だから申請しなかった私は見学してたんだけど……今回も嫌がらせを受けた令嬢が居たみたい。 普段の話し声がキレイな何人かが喉を痛めたように歌いづらそうにしてた。 飲み物に何か入れられたのかも……。
4日目の午後は楽器演奏。
私は小さな竪琴だったんだけど……途中で弦の1本が切れそうになって中断。
ジョナス様が調べてくれたところによると、切込みを入れた形跡が有るらしくって、『切れた弦が当たっていたら大参事になってた』と普段は温和なカイル様も怒ってらっしゃった。
昨日・今日だけでなく期間中のほとんどの日が午前中は自由時間なんだけど、練習できると同時に、嫌がらせに使う時間にもなってるような気が……。
「どれにも申請しなければ問題は起こらない───」
かも、と初日の打ち合わせで言おうとしたら、
「1つも申請しなければ意欲の無さで逆に悪目立ちしかねません。」
と即座に女官のリンダに却下されたから申請しただけなのに、大怪我をしかねない妨害されるなんて不条理だと思わず愚痴が出る。
「トラブルへの対応は私たちが行いますので面倒がらないでください」
とユリアに宥められたときには『面倒なだけだとバラさないでよ』と居たたまれなかったわ。
5日目は、提出された刺繍などの作品を広間に展示、自由に見てまわれるようになっていた。
もちろん、紛失や損傷に備えて警備の人員は配置されている。 展示前の段階でのアレコレとか、展示の並び順とかでのいざこざは防ぎきれなかったみたいだけど、警備の成果で展示後のトラブルは無かったらしい。
6日目、珍しく午前中だけに予定が決まっていて、内容は王太子殿下とのお茶会。
……というのは名目で実際は教養チェックだったんだと思うのよね。 午前に行われたのは王太子殿下の都合という話だったけど、教養には事前練習は要らないはずだからじゃないのかな。 侍女たちが壁際に遠ざけられたのは入れ知恵を防止して本人の能力をみるためっぽいし、騎士様たちさえも少し離れて控えてた。
王太子殿下は見事な誘導ぶりを発揮なさって、くだらない話題を最小限に抑えながら、全員からほぼ平等に話を引き出す。 王太子殿下の手腕には思わず内心で拍手。 緊張したり話題が尽きたりして困惑する令嬢が出たのはしかたないわよね。
「当初の計画が無かったとしても、あの人(王太子殿下)の相手は私には無理。」
と自室に戻ってぼやいたら、
「疲れそうだからイヤなんですね。」
とアンナにツッコまれ、ジョナス様に爽やかに笑いとばされた。 カイル様の背中トントンもお約束になってる気がするわ。
そんな風に時間が過ぎて、騎士様による護衛と女官による協力と侍女による補佐とで、最小限の被害で最大限の学習(さまざまな勉強など)を進めることができていた。
リンダたち女官は優秀で、嫌がらせの情報を事前に掴んだり、事後には犯人を確認して、騎士様たちと協力して相手を刺激しない対処法をとったりしてくれていた。
侍女たちは、アンナたちだけでなく王宮侍女も身分が低いためか、横の繋がりが強く、情報提供で大活躍だった。
騎士様たちは交代で報告会に出席してたけど、当然ながら報告会の内容などは教えてもらえるわけもなく……。 とりあえず、嫌がらせなど護衛任務に必要な情報はしっかり交換してたようだから問題は無いし、ね。
───そして、滞在3か月目。 宰相閣下の命令で関係者全員が集められて……驚きの発表が行われた。
まず、王太子殿下が隣国の第3王女殿下と婚約することに決まったという。 集められた令嬢からは誰も選ばれなかったどころか、決まったのは国内の令嬢でさえなかったという事実。
マナーを叩きこまれてるはずの令嬢たちが思わず大きなざわめきを起こしてしまったのは当然だと思う。 驚きよりも『これで解放される』と安堵した私が珍しい部類だとは自覚してるわ。
次に、セレナ様を含めた7人ほどの令嬢が謹慎を、彼女達の実家から被害者への損害賠償と慰謝料の支払いを言い渡された。 つまり、嫌がらせのすべてがしっかり調べ上げられていたの。
そう、初日より今日のほうが集まっている令嬢の数が減っている。 居ないのは、辞退せざるをえないような被害に遭った令嬢たちなのだろう。 痛ましいことだわ。 そして、そんな事態にならずにすんだ私は騎士様たち周りの人々に心からの感謝を伝えようと思う。
公表された被害の中には、本人に対するものだけではなく、楽器や作品に対するものまで含まれていた。 抜かりは無いのね。
処罰対象者には、嫌がらせを意図的に見逃したり実行あるいは補助した騎士・女官・侍女なども居て、調査の徹底ぶりがうかがえる。
そんな綿密な調査の結果、とある朝に私を転ばせるべく部屋の前の廊下に油をこぼした侍女もしっかり処罰対象に入っていて……。 こぼしかたが不自然なうえに片付けようともしなければ、見咎められて当たり前なんだけどねぇ。 あの嫌がらせに気付いた時には、あまりの稚拙さにリンダたちと失笑したわ。
最後に、処罰対象者以外の令嬢には、本人達の希望を聞いたうえで、今回の結果に応じた嫁ぎ先か勤務先を斡旋するとのこと。
要するに、王太子妃候補としてだけでなく、有能な人材を発掘するべく、さまざまな能力を確認するためというのが今回の趣旨だと明かされたわけで……ついでのように発案者が王太子殿下だと言われた時には『そんな人(王太子殿下)の相手に選ばれなくて良かったぁ』と心から思ったわ。
───ということで、無事に王城から帰宅した私。
嫁ぎ先や勤務先の斡旋は望まずにさっさと王城から退出していたの。 だって、実家との近さと気楽さからもカイル様たちを通しての就職のほうが望ましかったし、王城に勤務すると『あの』王太子殿下に関わってしまう可能性が生じるもの。
だから自宅でカイル様たちからの雇用打診の結果連絡を待ってたわけだけど……これは何ごと??
「第2王女殿下の側近として王城での住込み勤務の命令書が来た。」
お父様からの、この言葉だけでもショックだったのに、その命令書を持って来たのはジョナス様。
「私には荷が重すぎます。」
と辞退できないかと思ったら、衝撃の事実が明かされた。
報告会が有ったのは実は騎士だけでなく女官や王宮侍女も同じで、彼女達も交代で出席してた。 さらには同じ地位だけではなく関係者全員での報告会も有ったし、当然ながら報告書の提出も有って、口裏合わせなどは出来ないようになっていた。 よって、極めて客観的に事実を把握・評価されていて、謙遜を装っての『荷が重い』なんて言い訳は通用しない。 担当騎士自らが命令書を持って来たのも、それをハッキリ伝えるため。
───騎士・女官・王宮侍女が2人ずつ付けられたのは、彼らの休憩のためだけでなく、複数からの報告から判断材料とすること、報告会の間も1人ずつは令嬢に付いていられるように、との配慮なんだろうとは思ってたけど、まさかそこまで周到な対応がされていたとは……。
「私の妻となって、ともに王城で勤務してほしい。 貴女の父上である伯爵には許可をいただいた。 当然、国王陛下の許可も既にいただいてある。」
と、追い打ちを掛けてきたのは、なんと、カイル様。 騎士様らしく、片膝をついてプロポーズしてくださいまして……。
3か月間、私を見守ってきた。 その間に愛しさが募り、自分の手で守り続けたいと思うようになった。 令嬢本人にその気が無くても王太子殿下から選ばれてしまう場合は有り得るから好意を表に出すことは出来ず、許されるギリギリとして背中トントンで感情を示していた。 だから、王太子殿下の婚約が決まると同時に、お咎め覚悟で求婚の許可を陛下に願い出た。 そして、許可は出すが求婚の際に身分や財産などを持ち出すことは禁じるので自分で口説け、とアッサリ許可された。
領地が隣接してるから我が家の状況も家族などの人柄なども判ってる。 一緒に休暇を取ればお互いの実家に2人で顔を出せる。
王城では今後は自分(カイル様)も第2王女付きの護衛となる。 私には、女官・王宮侍女として以前と同じリンダたちが付くことが決まっている。 アンナとユリアには、王城外郭の近衛専用住宅にも王城内にも入ることが既に許可されている。
国王陛下の許可も宰相閣下のお墨付きも有るし、自分は4男だから実家に反対される可能性は無い。 貴女が求婚を受けてくれればすぐにでも実家に報告に行く。
自分の意思は固まっている、諦めるつもりは全く無い。 あとは貴女の意思だけだと思ってる。
そんなことを、真っ直ぐに私を見つめておっしゃるから、頭の中は真っ白でも私の顏は真っ赤。
ジョナス様と一緒に来られたので、『2人で担当してたから』だとばかり思ってたら、カイル様には求婚という要件が有ったのでジョナス様が命令書を届ける役になったらしい。
私が第2王女殿下の側近になることは命令で、カイル様が第2王女殿下付きの護衛になることは決定で……。 国王陛下と父の許可済みの婚約で、相手は侯爵家子息(格上)で、求婚者は他でもないカイル様で……。
これ、逃げ道なんて無いでしょ!! カイル様の求婚は嬉しいし、もちろん逃げる気は無いけど!! 王城勤務も逃げられないなんて……。
「レイラ、どうか、私を受け入れてほしい。」
カイル様からの、初めての名前呼びと懇願で落ちた私は悪くないと思うの。
「これで恋わずらいの溜め息が無くなりますね。」
というユリアの言葉は聞こえなかったことにするとして……。
「物語などでも、包容力のあるタイプが好きでしたものね。」
というアンナの暴露はキニシナイんだから!!
「2人の気持ちは判ってたけど、状況的にどうするわけにもいかなくてなぁ。 もどかしい思いをしながら見守ってた甲斐が有ったな。」
というのはジョナス様の台詞。 (後ほど明かされた)件の召集の集団見合いという側面については、国王陛下と王太子殿下と宰相閣下の3人しか知らなかったらしい。
そうして、(第2王女の側近という役どころはともかくとして)ハッピーエンドになる。
───ところなんだけど、確かにハッピーエンドではあるんだけど、私がうっかり失念していたことが1つ。
王城外郭に住んで、王城に勤務して、第2王女殿下───王太子殿下の妹姫───の側近で……ってことは、王太子殿下との関わりも格段に増えるのよ!! あの王太子殿下に対応しなきゃならないのよ!
しかも、王太子殿下付きの護衛になったジョナス様は私の反応を楽しむ気満々でいらっしゃるし……。
宰相様───ジョナス様の叔父上らしい───によって、側近承諾と婚約成立の挨拶ついでに明かされた、例の王城での人員配置の秘密もとんでもなかった。
王太子殿下と近衛騎士のためのお見合いと、令嬢と親族と王城勤務者の見極めと、有能な人材の確保……それらを一挙に行う絶好の機会に確実な成果を出すためだった、と以下の詳細な説明までいただきました。
近衛騎士は、役職的に結婚相手は身元の確かで信用できる有能な貴族令嬢が理想的、3男以下とはいえ王城外郭居住で王城勤務だから婿入りではなく嫁取りが望ましい、拘束時間が長いので妻も勤務するなら王城内のほうがお互いに都合が良いはず。 それらの条件と出会いの少なさを考えると集団見合いさせるのが効率的。 護衛させて情報交換させて自分に合う令嬢を見つけられたら、あとは本人の努力(口説き)次第。 そういう点もふまえて集める令嬢の条件を設定した。
担当する騎士を令嬢の1つ上の家格にしたのも、令嬢たち(実家含む)を抑えると同時に彼らの保身(パワハラ・逆セクハラ等の防止)のため。
相手探しという点では王太子殿下も同じだったから全ての企画に出席させていたけれど、彼はたまたま隣国との外交で出会った第3王女殿下を気に入ってしまった。
今回、婚約申請が有ったのは私たちの他に6組。 なかなかの成果だけど、この集団見合いは今回1回限りしか通用しないのが惜しい。 『集団見合いになり得ると判ると令嬢たちは本性を見せてはくれないから』というのはジョナス様の言葉。
女官を令嬢と同格に、王宮侍女を1つ格下にしたのは、彼女達の職務を遂行しやすくするため。
……余談として、『王城滞在の最長6カ月というのは、王太子殿下が選んだ相手が他の誰かの子を宿してないか確認するため』という赤裸々なことまで話してくださいました。
「ご両親たちと同じく野心は無いようですし、趣旨のほとんどをほぼ正確に予測出来てたらしいですね。 女官たちを的確に指示しての情報収集と活用、自主的な勉強と着実な成果。 それに加えて既婚者となれば色恋絡みの醜聞の可能性も低い。 ようこそ王城へ、そしておめでとう。」
ダメ押しのように珍しすぎる笑顔で宰相様は歓迎・祝福してくださって……。
実際にはもっと緻密な計算が張り巡らされてたんだろうなぁ、最高の実証例になってくれたという点で感謝されたっぽいなぁ、なんて感じたのは当然だけど口には出さなかったわよ、たとえバレてる気がしてたとしても!!
後日になって、3歳の第2王女殿下の『お嫁さんになるの!』の相手が、宰相閣下の5歳の孫───ジョナス様の甥───だと判明、ジョナス様に面白がられるのが相当な期間にわたると気付いたのも……キニシナイんだから!!
はいはい、まったく、おかげさまで、逃げ道が残る可能性なんて皆無だったことが確認できたわよ!! あの王太子殿下と宰相様が相手では『無駄な抵抗』がホントに完全に無意味だと痛感したからね。
色々な覚悟を決めたので、これからは前向きに頑張りますとも!!
********** 完 **********
競い合って盛り上がる(騒ぐ)ので『競宴』、実態は『合宿』、趣旨の1つは『集団見合い』(笑)。
『妃候補の合宿』というヒントをいただいた瀬尾優梨様には使用許可をいただいてあります(^^)
瀬尾優梨様、ありがとうございました。