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幸せは、その手の中に  作者: 散華にゃんにゃん
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第一章 日常が終わった日 6

 どれだけの時間が過ぎたのだろうか。


 雨塚が目を覚ますと、赤い雪は止んでいた。そして、大きくそびえる結晶は鮮血のような輝きを失い無食透明に近くなっていた。しかし、乱立する無数の結晶は未だ血の色をしており、それらの結晶は先程より少し大きく見えた。


 呆けていた雨塚はふと我に返り右腕を確認したが。肌色で少し華奢な腕であった。


「無事みたいだな……って、あれ?」


 一人呟いた雨塚は自らの発した声に驚いた。声が、高い。


 先の赤い粒子のせいだろうか、ヘリウムのようなガスでも発生しているのか、考えを巡らす雨塚が起き上がり周りを見渡すと新たに気付いたことがあった。


 一つ目に、乱立する結晶のいくつかが砕けていること。


 二つ目に、大きな結晶体のすぐ近くに他の結晶とは異なり、細かい結晶が集ってヒトの形を成したようなものがあること。


 三つ目に、雨塚の真後ろに巨大な影があったこと。


 体ごと振り返ると、その巨体がヒトでは無いことはすぐに理解できた。

 背の高さは2m程で全身は白く、腕や足は人間のそれより二回り程太い。頭は丸く、顔には目や口、耳等は見られず、中央に赤い十字の模様があるだけであった。


 そして、今まさにその巨体が雨塚めがけて丸太のような腕を振り下ろす寸前であった。


「やばっ……」 


 初めて目にする化け物を前にして、逃げるという選択をするのは至極当然だろう。 雨塚は真横に逃げるため右足で力いっぱい大地を蹴った。

 

ドンッ、という爆発に似た音が聞こえ、結果として起こった事象に理解が遅れた。



――視界が、加速した。



 針山地獄を越え、平原も越え、山を越えた辺りで、自らの跳躍によって砲弾のように打ち出されたことに気が付いた。それは、地表に着弾する瞬間であったが。

 雨塚は何度も転がりながら地面を抉り、木々を倒し、湖で三回水切りをしてようやくスピードを殺せた。


「痛っ……」


 反射的に呟いた雨塚だが、そこまで痛みを感じていないことに驚愕する。そもそもあれだけの速度で五体が満足であることは奇跡をも越えている。


「一体何が起こったんだ?」


 混乱し立ち尽くす。

 波打つ湖面が次第に落ち着きを取り戻し、雨塚自身の姿が映し出された。


 今日は、雨塚にとって驚きの連続だった。

 すでに一生分驚いたのでは、と思う雨塚であったが、それでもなお、驚かずにはいられなかった。



 水面に映ったのは、一糸纏わぬ少女の姿だけだったのだ。

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