第六章 全人類の道標 10
「皆様はじめまして。私は、蒼澄 遥と申します」
ハルカは両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げておじぎをした。
首脳陣が軽い会釈を返す。
その場の空気で、エルシーは言いかけていた事を思い出した。
「えーっと……。手っ取り早く私達の事を理解してもらうために、私の力で『米軍の全戦力とハルカちゃんが戦ったらどうなるか』を視てもらったの。そしたらこんな雰囲気になりました」
「それはまた……」
ハルカには、その結果が容易に想像できた。
皆を恐怖のどん底に落とすのには十分であろう。
(ほとんど脅迫じゃないか……?)
雨塚が思わず呟いた。
エルシーはテーブルから飛び降り、ハルカの足元へ近づく。
「ま、まぁ、私達が人類の味方だって事も理解してもらったから」
「それで、皆様に強力して頂けるという事でよろしいのでしょうか?」
ハルカの質問に、フランス大統領が答えた。
「協力を要請したいのは、我々の方ですよ。天使や天力に詳しいミス・エルシー。そして、あなたは彼の『モンゴルの女神』と同等以上の力をお持ちということですから」
ハルカが首を傾げると、エルシーが捕捉した。
「ホタルちゃんのことだよ」
「あぁ……、把握いたしました」
(そんな呼び名なのか……)
中二病の雨塚にとっては、物足りない二つ名であった。
「あの化け物……、天使が人類を滅ぼそうとしているという事には、未だにピンときませんが……」
イギリス首相に、ロシア大統領が続く。
「モンゴルでの惨劇を目撃してしまったからな……。信じるしかないだろう」
「元々今日の会議は、あの日からの超常について話し合うためのものでしたし。御二人の存在でこの会議が有意義をなることを皆認識しています」
「天力に目覚めた人々、目覚めていない人々。今、世界中が混乱しています」
明るい声のイタリア首相に対して、カナダ首相のトーンは低かった。
「再び天使が現れる前に、我々は一つになるべきだと判断した!」
ドイツ首相が強く言い放つ。
「そして、我々には、人々を、国を、いや……世界を導く責務があります」
日本国首相がそう言うと、全員が立ち上がった。
「そのために、全人類が歩むべき道を示して頂きたい」
アメリカ大統領の言葉にエルシーが答える。
「光栄です。そのために私達はここに来ました」
エルシーがハルカを見上げる。
雨塚の言葉をハルカが代弁する。
「一緒に、世界を救いましょう」