第六章 全人類の道標 4
白花が桃原に語りかける。
「あなたからは、そのおじさんよりも強い力を感じます」
「わ……私?」
桃原にはまるで実感が無かった。
「あなたの足が無事なのは、無意識に天力で守ってるからですよ?」
その言葉に反応したのは、強盗の方が先だった。
先程から、左手の力を入れ過ぎないようにする事を忘れていたのだ。
「な……なんだ……と?」
改めて自らの左手を見た強盗は目を疑った。コンクリートを鷲掴みにする程の握力であっても、女子高生の足の肉が微かにも凹む様子が無い。
そして、桃原は自分の足が掴まれている感覚が無いことに気付いた。
「イメージしてみて下さい」
再び白花が桃原に向けて言う。
「天力は、願いや希望を具現化できる力。あなたの想像した事象を現実に起こす力。あなたはその力で、この状況を打破できるはずです」
その言葉は、ほとんどエルシーからの受け売りであった。
桃原は思考する。
――そんな事急に言われたって、どうすればいいの!?
正直に言えば話にはついていけていない。
だが、剣道で養った精神力と培った度胸がある桃原は、短く深呼吸をして冷静になる。
――でも、私にこの人みたいな力があるんだったら……
ただ、単純に考える。
――この人よりも強いんだったら……
大金の入ったバックを落として、左手に力を込める。
――やってやる!
桃原は、裏拳で強盗の鳩尾を狙う。
ドンッ! という重たい音がして、強盗の身体がくの字に曲がる。
「がはぁっ……!」
しかし、強盗は桃原の左足から手を離さない。
――それなら!
桃原は辺りを見渡し、強盗に捕えられた時に落とした物を探す。
そして、一人の警官の足元に、自分の竹刀を見つけた。
ネットで見た、手を触れずに石を浮かせていた若者の動画を思い出しながら、右手を伸ばす。
――来い!
桃原の意思に呼応するように、竹刀が吸い寄せられる。
その時、逆上した強盗が、桃原の身体を高く振り上げた。
「このクソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
地面に叩き付けるつもりだ。
すぐさま桃原は、竹刀を自らの右手ではなく、強盗の左腕に向けさせた。
ゴキンッ!! という骨の砕かれる音。
宙を舞ってきた竹刀の剣先が、強盗の左椀の橈骨と尺骨を同時に破壊した。
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
強盗の絶叫を聞きながら、空中で自由になった桃原は、右手で竹刀を掴み、上手くバランスを取って着地した。
同時に、竹刀を真っ直ぐに構える。
そして、すり足で近づきながら手首を返し、打つ。
「胴ぉぉぉぉぉぉぉ!」
体に染みついた、右胴。
ズドン! その一撃が、強盗の身体を吹き飛ばした。
そのまま、警官達が乗ってきたパトカーへ激突し、強盗は地面に倒れこんだ。
警官の一人が駆け寄り確認すると、強盗は気を失っていた。




