第六章 全人類の道標 3
高校2年生、桃原 桜の最悪な日曜日は寝坊から始まった。
「お母さん! どうして起こしてくれなかったの!?」
剣道の高校総体が終わり3年生が引退したことで、部活を牽引していく立場になったのだが、練習に遅刻していては威厳も何も無い。
「何度も起こしに行ったけど、ちっとも起きなかったじゃないの。逆に、どうしてあれで寝ていられるのかが不思議だよ」
母親に呆れられながら、用意されている朝食のパンだけ咥えて部屋に戻る。
制服に着替え、肩まで伸びた黒髪をポニーテールにまとめる。
一通りの準備を済ませ、急いで玄関を出る。
「いってきまーす!」
自転車に跨り、学校を目指す。
しかし、思い切りペダルを漕ぐと、チェーンが切れてしまった。
「え!? 嘘でしょ?」
桃原家には、自転車はこの一台しか無い。そして、駐車場に車がないので、父親がどこかに乗って行ってしまっているようだ。
今まで、雨の日でも雨合羽を来て自転車通学をしていたため、バスに乗ろうにも時間も路線もわからない。
つまり、4キロ先の高校まで自分の足で行くしかない。
「最悪……」
文句を言っても仕方がないので、走って家を出た。
体力には自信があった桃原は、かなり速いペースで通学路を駆けていく。
そんな桃原にさらなる不幸が襲い掛かる。
途中、銀行の角を曲がった時に、大柄な男性にぶつかってしまったのだ。
「うわっ……!」
激しく衝突し、弾き飛ばされ転倒した。
すぐさま起き上がり、男性へ謝罪する。
「すみません! 私の不注意で! お怪我はありませんか?」
幸い男性も桃原も怪我をした様子は無かった。
しかし、その男性の右手に握られている物を見て、一瞬思考が止まった。
折れた電信柱。
普通に考えれば、気軽に持ち運べる物では無い。
桃原が驚いていると、その男性が口を開いた。
「丁度良い。お前にしよう」
男の左手が桃原に迫る。
咄嗟に逃げ出そうとした桃原は、体を反転した拍子に躓いて転んでしまった。
そして、左足を掴まれ逆さに持ち上げられる。
「ちょっ……!? ちょっと! 何するんですか!?」
必死にスカートを抑えるが、重力の働きに対してあまり意味を成さない。
「今からこの銀行に金をもらいに行くんだけどよ。人質になってもらうからな」
「え?」
それから、強制的に荷物持ちを任され、警察に囲まれた銀行強盗に盾として使われた。
その間ずっと、大衆に下着を晒し続けた。
その男は、巷で噂の『天力』に目覚めた人間であった。
桃原はネットで『黒猫騒動』や天力という超能力に関する動画は見ていたが、実際に目にするのは初めてだった。
そんな力とは無縁だと思っていた桃原だったが、まさかこんな形で関わることになるとは想像もしていなかった。
そして、一人の女性が声をかけてきたことで、桃原の人生は一変することになる。
白花の言葉に一番驚いたのは、当人である桃原であった。




