第一章 日常が終わった日 5
静寂。
音のない空間というものは、人間の不安感を煽るものだが、雨塚は安堵していた。
手の感覚がある。足の感覚がある。呼吸もしている。
雨塚の想像した大破壊は起こらなかった。しかし、雨塚の目に飛び込んできたのは、異常な光景だった。空から落ちてきたマンション一棟程の赤い結晶が地面に突き刺さり、あたり一面に小さい結晶が乱立している。2m程のものが多いが、中には5mに届くようなものがある。それらの結晶は全て、直方体の上部が尖ったような形をしており、地獄の針の山を連想させた。
空中には赤い粒子が舞っており、さながら赤い雪が降っているようだった。
赤い粒子が自分の腕に触れて消えるさまを見ながら起き上った雨塚は、その赤い光に不思議な感覚を得て、同時に渇きを感じていた。痛みも不快感も無い。ただ、欲した。
吸い込まれるように、空から落ちてきた大きな結晶体に近づく。
なぜそうしたのかはわからない。いや、そうしなければならないとさえ思った。
雨塚は右手を伸ばし、赤い結晶体に触れた。
そして、自らの右手が赤い結晶へと変化する瞬間、雨塚の意識は再び途絶した。




