第五章 二つ目の器 8
(だとすると、自力でなんとかするしかないか……)
「天使が現れるまで、特訓でも致しましょうか?」
エルシーに解らないのであれば仕方が無い。雨塚とハルカで天力の制御法を見つけるしかない。
(あ、その前に一つ手伝ってほしい事があるんだけど)
(何だ?)
エルシーが要求を言う。
(今、私、アメリカへの移動中で話しかけてるんだけど。そこで合流したいの)
(何でまたアメリカに? てか、『移動』って、魂だけのお前がが移動するのに距離とか関係あるのか?)
エルシーが少し得意げに答える。
(私、体を借りて、この世界にいるんだー。世界に天力が満ちた事で、私の器になれる能力者が見つかったの)
(え……、それって大丈夫なのか?)
雨塚は、幽霊に乗り移られる様を想像し、その能力者を心配した。
(話したら身体を貸してくれたの。私の目的が果たせて、私が出ていけば元通り!)
(その目的が、アメリカなのか?)
これより半日前、テレビである報道があった。
先日の『黒猫騒動』から異能力に目覚めた人間が増え続けている事を受け、各国首脳が今後の世界について、また、『天使』や『天力』について話し合う場が設けられたというニュース。
エルシーは、白花宅でその時を待っていたのだ。
そして、ニュースを見るや飛び出し、会談が行われるアメリカ行きの飛行機に紛れ込んで今に至る。
(そう。明日アメリカで開かれる、各国要人の集まる会議に乗り込むの)
(何のために?)
(能力者を管理、統率する組織を作るってもらうの。この世界で増え続ける能力者には、雨塚君には及ばなくても、天使と戦える力を持った人がいるはず。天使の再来に備えて、できる準備をしておかないと)
それが、エルシーの次の目的であった。
要するに、天使に対抗するための軍隊であろう。
(なんか自然に作られそうだけどな、そういう組織。それに、そんな流暢な事してる場合なのか?)
雨塚が呟くと、エルシーが指摘する。
(私だって赤い結晶体をどうにかしたいって思うけど、これも大事な事だよ。国ごとに能力者を抱え込んで、第三次世界大戦って事になる可能性だってあるでしょ? )
(まぁ……確かに)
人類はこれまで幾度となく争いをしてきた。
エルシーはずっとそれを見てきたのだ。
(天使を明確な『敵』って認識してもらって、人類、いや、地球上の全ての生命で団結してもらいたいの。その為に、雨塚君の力を説得の材料にしたいと思って。今の私じゃ人類を納得させる程の天力は使えないし)
確かに、ハルカの能力を披露すれば、天力という未知の力を理解してもらえるかもしれない。
(わかった。それじゃあアメリカで落ち合えばいいんだな?)
(うん! そういう事だから、よろしく頼むよ『モンゴルの女神』さん!)
その言葉を最後に、エルシーの声が聞こえなくなった。
雨塚にはその単語が何のことかわからなかったが、次にやるべき事が決まった。
「では、参りましょうか」
ハルカは光の翼を広げ、東の空に消えていった。
赤い結晶体に背を向ける事が躊躇われたが、今の雨塚にはどうする事もできない。
雨塚は天力の扱いを極め、再びこの地に戻る事を固く決意した。