第五章 二つ目の器 7
突然、二つの魂に直接怒鳴り声が伝わってきた。
(遅いー!! 器を入れ替えるだけの事に何週間かかってるの!? もう戻ってこないかと思ったじゃない!)
この幼さの残る甲高い声は、間違いないエルシーだ。
「ほら、見つけて頂けたでしょう?」
ハルカはマイペースであった。
(ははは……、ってエルシー、今、『何週間』って言ったか?)
(そうだよ。ホタルちゃんが消えてから、丁度二十日目。……というか、一つの器に二つの魂を入れてるのに、二つの意識があるの? もう雨塚君の力は、私の知る範囲を超えているね……)
エルシーは、器とした黒猫の魂を精神世界で保護している。一つの身体に二つ意思があれば拮抗し、安定しないためだ。
そんな事を知る由もない雨塚は、それだけの時間が過ぎていた事に驚いていた。
二十日。
雨塚は思っていたよりも長く精神世界を彷徨っていたようだ。
(エルシー。今は天使達の天力を感じないんだが、あれから今日まで現れていないのか?)
(うん。でも、赤い結晶体の天力が日に日に高まっているの。もうすぐ、奴等が現れてもおかしくない)
そう聞いて、雨塚は安心した。
あの日以降、天使に殺された人がいないという事。
そして、再び天使が現れても、この手で倒せば良いという事に。
「時にエルシーさん、あの赤い結晶体を破壊する術、もしくは、光さんの莫大な天力の制御法について御存じありませんか?」
ハルカの質問に、エルシーは答えず黙っていた。
(エルシー?)
(あ、ごめんごめん。雨塚君の世界で身体を借りた時に、雨塚君とは違う魂を感じてはいたんだけど……。まさか、ここまで完全な自我を持っているなんて思わなかったから)
改めて、天力が起こす奇跡と雨塚の持つ能力に感嘆するエルシー。
「私としたことが……自己紹介がまだでしたね。私は、蒼澄 遥と申します。ホタルさんの時の反省を踏まえ、こうして光さんと御一緒させて頂いております」
(どっちかと言うと、俺の方が連れられてる感じだけどな……)
雨塚がすかさずツッコミを入れた。
(知ってると思うけど、私はエルシー。よろしくね! っと、テレパシーに使う天力も馬鹿にならないから、手短に質問に答えるけど)
「はい」
(あぁ、頼む)
これで、次に雨塚達がすべきことが決まる。
(あの赤い結晶体に、同程度かそれ以上の天力をぶつけてみないと何とも言えない、それだけの天力を扱う方法もわからない。今回の赤い結晶が持つ力は、前とは比較にならないから)
とどのつまり、エルシーもわからないのだった。
(今回? ……そう言えば、前に話した時そんな事言ってたな)
雨塚は、あの時詳しく聞いていなかった事を思い出した。
(五百年前にも天使が攻めてきた事があったんだけど、その時の赤い結晶体はずっと小さな物だった。そして、天力に覚醒した一人の能力者が命を犠牲にして、天使達ごと別の世界に飛ばしたの。今回のは、一人、二人の犠牲でどうにかなるとは思えない)
エルシーは断片的にしか話さなかった。全てを話せば、雨塚に恨まれると思ったからだ。
雨塚を『こんな状況』に陥れたのは、エルシーなのだから。




