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幸せは、その手の中に  作者: 散華にゃんにゃん
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第五章 二つ目の器 5

「あら? 何も見えませんね?」

 目を開いているにも関わらず、ハルカの目には一筋の光すら入ってこなかった。


「ここは一体、どちらなのでしょうね?」

 ハルカは独り言を言っているわけでは無い、雨塚 光に話しかけているのだ。

 今、現実世界の『蒼澄 遥』には、雨塚 光とハルカの二つの魂が宿っている。

 しかし、雨塚からの応答が無い。

「光さん? ホタルさんの時みたいにおやすみなのですか?」

(いや、ちゃんと意識はあるんだが……)

 雨塚の声は少し暗かった。

「何か?」

(なんか閉じ込められてる気分だよ。俺の意思じゃこの身体は動かせないんだな)

「まぁ、光さんが創ったとは言え、この器は元々私の身体ですからね」

 そう言いながら、ハルカは手さぐりで周囲を確認し始めた。すると、雨塚にはその感覚だけが伝わってきた。


 ハルカの腕が伸ばし切れない程の狭い空間。触れられる箇所は全て平らであった。上、右、左、全てが平面で構成されていた。

(何かの箱の中か?)

「そのようですね。調べてみましょう」

 ハルカは目を閉じ、ゆっくりと天力を放出し始めた。この空間の外に向けて、徐々に浸透させるように。


 すぐに状況が明らかになった。

(これは……、土の中か。あまり深く無いな)

「周りにも同じような箱がいくつかあります。それぞれ人が一人入るくらいの大きさですね」

 二人共にこの箱が何か検討が付いたが、口にしなかった。

「地上には……、人の気配はありませんね。これなら」

 ハルカは両手で箱の上面へ触れると、天力を使い、一気に持ち上げた。


 ゴバッ! と、土を押しのけると、夜空に煌めく星々が見えた。

 ハルカはゆっくりと立ち上がり、地上へと脱出した。

 広大な平地に、無数の十字架が並んでいる。

 そう遠くない場所には、一部が綺麗にカットされた大岩が見えた。

 ハルカが近づくと、文字が刻まれているのを確認できた。

「石碑……ですね」

(あぁ、『あの日』の日付だ)

 そこは、天使達の襲撃の犠牲者が眠る場所だった。天力の集積体である『蒼澄 遥』は、『黒姫 蛍』と同様に心臓の運動を必要としない。魂が離れたハルカの身体を亡骸と思われて埋葬されていたのだろう。


 ハルカは雨塚が負の感情を抱いたことに気付いた。

「……ダメですからね」

(わかってる。俺たちがやるべき事は、これ以上こんな場所を増やさない事だ)

「……はい」

 ハルカは光の翼を生み出し、空へと舞いあがる。

 雨塚はハルカの五感を共有している。自分の意思で考える事はできるが、ハルカの身体を操る事はできない。

(ハルカ。赤い結晶を壊してくれ)

「私達『みんな』で、成しましょう」

(俺は見てる事しかできないみたいだ)


 気弱な雨塚にハルカが告げる。

「私達は光さんの大いなる想像力によって創られました。今の光さんの状態でも、考えることができるのであれば天力は発現できるはずです。それに……」

 ハルカが遠くにそびえる『赤い結晶体』を眺めた。

「あれから、とてつもない天力を感じます。恐らく、私に込められた力では破壊できません。それができるとすれば、光さんが赤い結晶から奪った、莫大な天力全てをぶつける他ありません」

(その力が制御できないから、俺はハルカ達を創ったって話だろ?)


 雨塚の問いに対して、ハルカはとてもシンプルな解答を提示した。

「光さんが天力の扱いを極め、光さん自身の身体で制御できるようになればいいのです」




 



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