第五章 二つ目の器 2
――声が、聞こえた。
「……さん……。りさん……」
青年には聞き覚えの無い声。
「光さん……」
その声は青年の名前を呼んでいる。まるで、子供を優しく起こす母親のようだった。
ハッ、と意識を取り戻した雨塚は再び、真っ白な世界にいた。
「ここ……は……?」
どこまでも広がる白の空間。
「また、俺の精神世界ってやつか?」
以前と違う点は、目の前に女性が立っている事であろうか。
肩まで伸びた、輝くように美しいライトブラウンのストレートヘア。ネックラインが鎖骨の見えるくらい開き、肩の部分が少し透けたパステルブルーのワンピース。そのスカート丈は膝ぐらいで、ウェストにはリボンのついたベルト。そして、豊満なバスト。
雨塚 光が生み出した、『蒼澄 遥』であった。
「エルシー……じゃないのか?」
以前、エルシーがその身体を通して雨塚と会話したのだが、先程雨塚を呼んでいた声はエルシーのものでは無かった。
「お初にお目にかかります。私、蒼澄 遥と申します。創ったのは、あなた様なんですけれども」
ハルカは微笑みながら答えた。
雨塚には、理解が出来なかった。
確かに、黒姫 蛍と同様に雨塚が天力を使って創り出した『器』だという事はエルシーから聞いたのだが。
「なんで喋って……? 意思を持っているのか……?」
「なぜ、創造主たる光さんが驚かれてるのでしょうか?」
ハルカに質問で返されたが、雨塚にはわからない。
ハルカがさらに問いかける。
「光さん。現実世界で、ホタルさんが戦っていた時、何をしていましたか?」
雨塚は中級天使と戦った時の事を思い出す。だが、なぜか鮮明に思い出せなかった。
何か、体の内側からぼんやりと眺めていただけのような不思議な感覚を抱いた。
――中級天使と戦っていたのは、俺、なのか?
無言の雨塚を見て、ハルカは何か察したようだ。
「やっぱり……。ホタルさんの魂が主体でしたか。あなた様の力なんですから、しっかりとコントロールして頂かないと……」
「どういう、意味なんだ……?」
ハルカは笑顔であったが、溜息まじりに答える。
「私達は、光さんの得た莫大な天力を分散させるための『器』であると同時に、3つの器を有する光さんの魂を補填する存在とでも言いましょうか」
「つまり……?」
「私達の身体だけでなく、意思や性格、自我もあなた様が創り出したもの。私達は、光さんによって生み出された『疑似的な魂』です。わかりやすく言えば、『人工知能』と言うのが一番近いでしょうか」




