行間 平和を望んだ少女 7
白い化け物は光の翼を生み出し、空へ浮き上がった。
この村の人間を全て殺して、次の街へ向かうために。
そのつもりだった。
ふと何かの音を感知して、白い化け物が空中で静止した。
「ぐすっ……えぐっ……」
それが、嗚咽であることは解らなかった。
白い化け物、後世において「天使」と呼ばれるその存在は、「天力」を用いて光や音を感知していた。
天使に分かるのは、殴り殺したはずの小さな人間がその形を保ち、二本の足で立っている事。
そして、その者から凄まじい天力を感じる事であった。
原因は不明だが、少女が脅威となり得ると判断した天使は、次こそ息の根を止めるべく襲いかかる。
少女めがけて落下しながら、右拳を固く握り、大地ごと潰そうと天力を込める。
上空から加速しての、渾身の一撃。
ズドン! 轟音がこだまし、周囲の瓦礫が衝撃で吹き飛ばされた。
しかし、天使の大きな拳は、少女の小さな掌に受け止められていた。
「あなたは、何なの? 何でこんな事をするの?」
言語は理解できなかったが、天使は少女の冷たい声から殺気を感じた。
「……ってよ……」
少女が何か呟くが、天使には認識できなかった。
「どっか行ってよ!」
少女が叫ぶと、少女の掌から閃光が迸り、天使の巨体が吹き飛ばされる程の爆発が生じた。
十数メートル飛ばされた天使はすぐに体勢を立て直し、再び突進しようと構えた。
しかし、右腕が消失している事に気付くと動きを止め、残った左手を少女に向けた。
天力を集め、掌に炎を生み出す。
村を焼いた程度の火力では足りない。
少女を、明確に危険な存在だと定め、全てを焼き尽くすべく、灼熱の火球を放った。
だが、少女は虫でも払うかのような軽い動作で、その火球を霧散させた。
疑う余地は無い。
その少女は、天使の振るう力、天力を扱っていた。