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幸せは、その手の中に  作者: 散華にゃんにゃん
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行間 平和を望んだ少女 3

 リルとアレットは、七歳の男の子ナタンと九歳の女の子ルミアを連れて湖へと向かった。

 空を見上げると、少し雲がかかってきた。


 湖へは徒歩十分程度で到着し、ナタンとルミアはすぐに湖へと入り遊び始めたが、リルはアレットの服の裾を握ったまま動かなかった。

「アレットおばあちゃん……」

「なんだいリルちゃん?」

「お父さん達は、なんで外にお仕事に行くの?」


 アレットは少し間を置いてから喋り出した。

「リルちゃんや、最近は畑仕事や動物の飼育だけでは生活するのも難しくなってな。大人達はもっとお金を稼ぐために外にお仕事に行っているんだよ」

 嘘は無い。しかし、真実は語れない。

 村の生活が厳しくなったのは、戦争のためだ。育てた農作物や飼育した家畜は国へ献上し、大人の男は報酬のために出兵している。

 だが、そうは言えない。

 アレットは、リルの両親の気持ちは汲んだ上でそう答えたのだ。

 それで、納得してくれると考えていた。


――だが。

 リルは俯いたまま呟く。

「なんで、みんな仲良くできないのかな?」

 アレットは、リルの言葉の意味をすぐには理解できなかった。

「わたし、知ってるよ。せんそうの事」

「リルちゃん!? どうして?」

「昨日の夜中に起きた時に、お父さんとお母さんが話してるのを聞いちゃったの。お父さん怖がってた。お母さんは泣いてた。リルが心配しないように内緒にしてるのも知ってる」

 アレットは驚きを隠せなかった。何より驚いたのは、リルがそれを知った上で今日一日を明るく過ごしていた事だった。

「リルちゃん……」

「ねぇ、おばあちゃん。なんで同じ人間なのにそんなに危ないケンカをするの?」

 アレットは言葉にできなかった。リルは、『殺し合い』の事を言っているのだろう。


 アレットが黙っていると、リルは思いも寄らぬ事を口走った。

「みんながそんな事をずっと続けていくなら、わたし、『魔女』になりたい」

「リルちゃん! 急になんて事を言うんだい! そんな事言っちゃダメだよ!」

 アレットは驚愕し、声を荒げてしまった。当時の概念では『魔女』とは、『悪魔と契約して力を得た、災いをもたらす者』であったからだ。『魔女になりたい』等と言えば、それだけで処罰される可能性がある。

 怒鳴られたリルは、臆さず落ち着いた声で返答する。

「ううん、おばあちゃん。わたしは良い魔女になりたいの。魔法を使って、お父さんが危ない目に合わなくていい世界にしたい。お母さんが泣かなくていい世界にしたい」

 子供っぽい考えではあるが、リルの目は夢見る少女のものでなく、恐れも迷いも無い真剣な目をしていた。

「リルちゃん……。リルちゃんはとっても優しい子だよ。だけど、悪魔の力なんて借りちゃダメ。それこそ、お父さんとお母さんが悲しんじゃうよ」

 アレットは優しい声でリルを諭す。

「うん……」

「いいかいリルちゃん。私達は私達に見合った生活をしていけばいいんだよ。そのうちきっと、お父さん達が外へ仕事に行かなくてもいいようになるから。神様に願うなら、その時が来ることを願おう?」

「うん。ごめんねおばあちゃん、変な事言って」

 口ではそう言ったが、リルの想いは変わっておらず、そっと胸にしまっただけであった。

「私も大声出してごめんよ。ほら、リルちゃんも二人と遊んできなさい」

「うん!」

 リルは湖に向かい走り出した。自らがまだ幼い子供である自覚はある。今できる事は何もない。

「大人になったら、きっと……」


 その時突然に、雲に覆われていた空が晴れた。

 リルが立ち止まり空を見上げると、雲が円形に晴れて光が差し込んできた。

 しかし、降り注いだのは温かい陽の光では無かった。

 『赤』。

 見たことの無い光景にリルは息を飲む。


 そして、リルは晴れた雲の中心に何かを見つけた。

「あれは……、赤い……宝石?」

 強い光を放つその物体は、地上に向けて落下してくる。

 リルが言ったように、その物体は、綺麗にカットされた宝石のように幾何学的な形態をしていた。


 異常な事態に危険を感じたアレットが叫ぶ。

「リルちゃん! ナタンちゃん! ルミアちゃん! みんな早くこっちにおいで!」

 その声をかき消すように、突風が辺りに吹き荒れる。


 赤い物体がフランスの大地に突き刺さったのだ。


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