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幸せは、その手の中に  作者: 散華にゃんにゃん
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第一章 日常が終わった日 3

 ものの数分のはずだが、どれ程の距離を走ったかわからない。段々と恐怖心も薄れ、スピードにも慣れてきた雨塚は、まず馬を止めようと試みる。


「どう! どう! どうどうどうどう!」


 雨塚の知る唯一の馬の停止方法だが、日本語が通じないのか効果は無い。


「止まれったら! 止まれ! 止まって下さい!」


 最後はもう半泣き状態。しかし、気持ちが通じたのか、願いが通じたのか、除々に馬の速度が落ちていく。

「どうしたんだよホント……」


 原因は先程の『声』なのか。


 やがて、馬が完全に停止した。

「やっと止まってくれたか……」


 馬に乗ること自体初めてだった雨塚には、馬の走りに合わせた動きができる筈も無く、臀部を叩かれたような鈍い痛みを感じる。降り方はレクチャーされていなかったが、騎乗の痛みに耐え切れず飛び降りた。


 次の瞬間、馬が再び全力で走りだした。モンゴルの大草原の真ん中に雨塚を残して。


「ちょっ。え?」


 唖然とする雨塚を余所に、追いかけようとする気が起こらない速度で視界から消える馬。

「………………歩くか」

 どのくらい歩けば帰れるのかわからない絶望を感じながらも、幸い雨塚は方向音痴では無い。帰る方向は認識できていた。


 しかし、やるべきことを決めた矢先に新たな事象に気付いた。


 ビキンッ、という甲高い音が聞こえた。

 辺りを見渡しても、雨塚の周りは見渡す限り一面の緑だけだ。何かを踏みつけたわけでもない。


 ビキビキビキッ、と。音が続いた。発生源は、頭上。

 雨塚は反射的に空を見上げた。そこには、一文字(いちもんじ)の亀裂。


「な……にが……」


 呟くも束の間、その亀裂がまるで口を開くように広がり、赤と黒をパレット上で混ぜたような空間を覗かせた。そして雨塚はそこから何かが落ちてくるのに気付いた。


「赤い岩? いや、何かの結晶?」


 雨塚はアニメやゲームで見かける所謂『クリスタル』を思い浮かべた。色は血液のように赤く、日光を反射して輝いている。


 次第に大きくなる赤い結晶。落下物の大きさを正確に把握することは困難だろう、雨塚がその巨大さに気付くのには少し時間がかかった。


「めちゃくちゃでかくないか、これ?」


 血の気が失せた。


――これ程の大質量が地表に落下したら……。


 そう考えに至った瞬間、雨塚は走り出した。人間の足、それも、足が遅いと馬鹿にされる程のものでどうにかなるとは思えなかったが、走らずにはいられない。生まれながらの運動音痴と日頃の運動不足を嘆いても仕方がない。文字通り死にもの狂いで走る。


 功を奏し、頭上への直撃は免れたが、雨塚が走りながら振り向くと、赤い結晶体が地面に激突する瞬間であった。


「これは……死んだな……」


 雨塚は目を閉じ、これから起こるであろう衝撃に備え全身を強張らせる。


 そんな事が無駄だとはわかっている。

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