第四章 新たなる日常へ向かう世界 7
時を同じくして、モンゴルでは結晶体の調査が行われていた。
調査と言っても、人類にはまだ天素や天力を分析する技術が無いので、離れた場所から、あの黒猫の言う『天使』が再び現れないかを観察するに留まっていた。
「しっかし、あの惨状を目の当たりにしても、まだ信じられないな」
「『天使』だっけ? 空想のもんだと思っていたが、とんだ化け物だったな……。 まぁ、また出てきても『女神』」がやっつけてくれるって!」
オルゴフとネルグイは数日前から結晶体を観察しているグループの一員である。再び白い化け物が現れた際、一刻も早く報告するために、主にウランバートル市民で見張りを立てたのだ。
オルゴフが双眼鏡を覗きながら呟く。
「遊牧民の話だと、落ちて来た時は真っ赤だったって聞いたけど、なんで透明になったんだろうな」
「あの黒猫の話だと、地球には無い物質らしいじゃないか」
「正確に言えば、全ての物質の素だって言ってたぞ」
「まぁいいじゃないか、どちらにせよ俺らの常識は通用しなさそうだ」
「よくよく見れば、薄いピンクに見えないこともないけどな」
ネルグイが怪訝な顔をする。
「お前、見張り始めた日に『透明過ぎてよく見えない』とか言ってたじゃねーか」
「確かにそう言ったな。でも、あれ? ピンクに見えるぞ」
「毎日双眼鏡覗いて目がイカれたんじゃないのか? 貸してみろよ」
オルゴフから双眼鏡を受け取り、ネルグイも結晶体を観察する。
ネルグイはしばらく双眼鏡を覗いた後、オルゴフの顔を見て問いかけた。
「最初の日から毎日写真撮ってたよな? 確認しよう」
二人はデジカメの写真をスライドさせて比較した。
すると。
「今まで気付かなかったけど、段々ピンク色になってないか?」
「どんな原理なんだろうな」
二人はこの時、さほど関心を持たなかった。しかし、それから毎日、徐々に赤くなっていく結晶体を観察し続け、血のような赤色だと認識した日に、再び天使を目撃することとなる。