第四章 新たなる日常へ向かう世界 5
日本国首脳は、頭を抱えていた。
モンゴルでの超常的な事件以来、各国から質問攻めにされていたのだ。
原因は、通称『モンゴルの女神』。
化け物を次々に倒していき、最後には行方がわからなくなった少女。その少女が日本人ではないかと言う噂が世界中に広まったのだ。
全ての情報を開示しろと言われても、知らないものは知らない。
日本人渡航者の安否確認をしたが、現状死者は0人、行方不明者が1人。二十歳の青年の行方が分かっていない。
そう、行方不明の少女などいないのだ。
しかし、様々な目撃証言から、あの少女が日本人だとされているようだ。
「ジャパニーズニンジャだの、和製スーパーウーマンだの、みんなアニメの見過ぎでは無いかね……?」
皆、不安なのだろう。
モンゴルでは、現代兵器が通用しない様を見せつけられた。
再び、あの白い化け物が現れた際、対抗しうるのは『モンゴルの女神』と呼ばれる少女だけなのだ。正体を特定したくなるのは仕方が無い。
「日本がかの力を独占する気であるなら、相応の行動をとらせてもらうと言われても、ねぇ?」
集めた大臣達に共感を求めるが、返ってくるのは愛想笑いだけだった。
そんな時、ドアが勢いよく開かれた。
「総理! テレビを! テレビを御覧になって下さい!」
まだ若い秘書官が慌てて飛び込んできた。
「何かね? 騒々しい。今は、テレビを囲んで団欒などしている暇など……」
「失礼します!」
秘書官は許可を得る前にテレビを付け、チャンネルを変えた。
映ったのは、奥様方に大人気の司会者率いるお昼過ぎの生放送バラエティー番組であった。
しかし、誰もがすぐ異様に気付いた。
カメラの中心にいるのは、人気司会者でも無く、お笑い芸人でも無く、アイドルでも無かった。
一匹の、黒猫。
そして、その周りには見えない壁にでも遮られているかのような不自然な体勢をしたスタッフ達。
一見してどのような状況なのか掴めなかったが、誰かの話し声が耳に入ってきた。
淡々と話す声の主は……。
「こ……、この猫が、喋っているのかい?」
「そうです! いきなりスタジオに乱入してきて、『モンゴルの事件に関して話があるので皆さん聞いて下さい』と言って話し始めたんです!」
「そんな、まさか……。ドッキリ番組では……?」
「出演者とスタッフのあの顔が演技だったら大したものですよ!」
それからは皆、無言で黒猫の話に耳を傾けた。
話を終えた黒猫が一瞬のうちに画面から消えるまでおよそ十分間の出来事であった。




