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幸せは、その手の中に  作者: 散華にゃんにゃん
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第一章 日常が終わった日 2

 集合場所ではすでにみんなが交代で乗馬体験をしていた。現地の方が馬に乗り、もう一頭に繋がれた紐を持ち、その馬に乗って1周30分程度のコースを回っている。意外にも大勢の医療援助参加者が順番待ちをしている。しかしながら、馬の数と比較して、現地人、つまり馬を引ける人間が少ない。


「しゃーない。俺が引くわ」

「え? 先輩馬乗れるんですか?」

「俺ここに来るの3年目だっての」


 そう言って、順番待ちをしている皆の承諾を得て、宮内は現地の方から馬を二頭借りてきた。

「さぁ乗れ」

「いや、いきなり乗れませんけど」


 動物とあまり触れ合ったことが無い雨塚はこう言いながらも内心わくわくしていた。ふと、こちらを向いた馬の目はとても綺麗で澄んだ色をしていた。


「ベタだが馬の後ろには立たないように! 馬の左側からゆっくり近づいて」

 間近で見る馬はかなりの大きさで、馬の背中の高さは、身長175センチの雨塚の首の高さに及ぶ。

「鞍の前に持つところあるから。で、左側の鐙に左足を入れて、一気に馬を跨ぐ!」

「はいっ!」


 なんとか乗れた。視線が高くなり、元々絶景であるモンゴルの平原がさらに綺麗に見えた。


「さて行くか」

 いつの間にか、もう一頭に乗った宮内が雨塚の馬に繋がった紐を持っている。

「さて出発!」


 二人と二匹の散歩が始まった。

「なかなか楽しいですね」

「そうだろそうだろ。日本にいてわざわざ乗馬しに行かないしな」

 歩いてると言っても、人間であれば早歩き以上の速度で進むため、すぐにスタート地点は見えなくなった。

 大自然を肌で感じながら、雨塚は目を瞑り大きく深呼吸をした。


 その瞬間。


(こっち)


「ん? 先輩何か言いました?」

「何も。どうした?」

「いえ、なんでもないです」


 幻聴だろうか、周りには雨塚と宮内以外の人影は無い。冷静に考えてみても宮内の声とは違って、女性の声だった。そんなことを考えている雨塚の乗った馬が歩みを止めた。左手の空を見つめている。


「おぉ? どうした!?」

 雨塚の馬が止まったことで、紐を握っていた宮内がバランスを崩した。すぐに紐を握った手を緩めたらしく落馬することは無かったのは幸いだ。


「なんで急に止まるんだよ。危ねぇな」

「お前にも声が聞こえたのかな?」


 なんて冗談めいて話しかけた雨塚だが、すぐに違和感に気付いた。遠くを見つめる馬の目に光が無い。暗く冷たい色。

 そして、もう一つ気付いた違和感。


 ――なぜ女性の声だと判断できた?


 実際に聞こえたから、という答えに至り、思考が止まった瞬間もう一度声が聞こえた。


(こっち)

 

幻聴ではない。しかし、脳内に直接響く、不快は感じない透き通った女性の声。

突然、雨塚の馬が走り出し、今度はその反動で宮内が落馬した。

「痛っ! ……っておい雨塚!」


 乗り手の名を呼んでも馬は止まらないだろうに、等と悠長に考える余裕は雨塚には無い。全力疾走する馬にしがみ付くのがやっとだ。


「雨塚ぁぁぁ!」


 宮内の声はもう雨塚に届かない。

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