第三章 恐怖切り裂く光の翼 7
誰もが『天使』を思い描けば必ず想像するであろう、その象徴。
「あの輪っかだけでこれを『天使』だなんて言ったら、世界中の子供達が泣いちゃいそうですね」
ホタルは冗談めいて呟くが、油断はしない。
中級天使が纏う天力の総量が桁違いだった。明らかなパワーアップ。エルシーが彼等を『天使』と呼んでいる事を鑑みればこれが本来の姿かもしれないが。
ホタルは身構えながら、右半身を吹き飛ばされた時を思い出す。
中級天使の扱う、不可視の攻撃。
今のホタルであれば音速を超える一撃でも避ける自信があった。
しかし。
「がっ……!」
それでも、対応できなかった。
腹部に強烈な衝撃を受け、ホタルは吹っ飛ばされた。
地面に何度も体をぶつけ、高層ビルの一階に突っ込む。
やっと停止したホタルの口から大量の血が吐き出された。
激痛。
転がり回って打ち付けた全身へのダメージは大した事は無かったが、腹に風穴が空いていないことの方が不思議な程の痛み。
同時にホタルは、自らの吐いた血液を観察する。地面に染みを作った血液が光の粒子となり消え行く様を。
そして、不自然な程乱れない呼吸。そこでホタルは自分が呼吸をしなくても平気である事に気付いた。
ホタルは冷静に自らの身体について考察する。
拍動していない心臓。しかし、それでも全身を巡る血液。
酸素を必要としない肺。だが、発声ができるということは空気の取り込みと排出の機能はあるはずだ。
そして、体外へ出た血液の消滅。
どうやらこの身体は人間のそれと異なり、天力によって人体を細部まで再現したものであるようだ。
ホタルは目を閉じ、損傷した箇所に天力を集め、念じる。
目を開けると、腹部の傷はおろか、破れた服まで復元していた。
ホタルの予想通り、この身体は人間を模倣しているが、根本的に天使達と同じ。
つまり、この身体のどこかにある、天使が持つ『赤い球体』、言うなれば『核』を破壊されない限り死ぬことが無いということか。
こんな身体で『生死』の概念が適用されるかはわからない、が。
この戦いは先に相手の『核』を破壊した方の勝利であると結論づけ、ホタルは立ち上がる。
そして、日本刀を強く握りしめた。




