第三章 恐怖切り裂く光の翼 1
夜明け間もないモンゴルの平原に立つ、一人の少女がいた。
腰まで伸びた長い黒髪を二房に分けた美少女。
細身の体には黒いノースリーブのブラウスとミニスカート。スラッとした足には膝上までの黒ストッキング。靴も黒いローファー。
全身黒一色だが、肩から手、太もも、背部が大きく開かれたブラウスから覗く背中、透き通る白い肌が衣装とのコントラストでより美しく見える。
どこにでもいそうな少女を思わせるが、明らかに異常な物を携帯している。
それは左手に握られた、日本刀。
この少女はもちろん、普通の少女では無い。
設定年齢は16歳。
雨塚 光が天力によって創りだした、強大な力を持ち、天使を排除する者の一人。
『黒姫 蛍』。
ホタルは自分の手をまじまじと見つめる。
天力で創った、と言ってもどう見ても人間の手である。
しかし、すぐに違和感を覚えた。
左胸を触っても、鼓動を感じないのだ。
だが、驚きは無かった。
この体が作り物であっても問題は無い。天使を倒せればそれでいいのだから。
「帰ってきた、のかな」
歯切れが悪いのは、太陽が東の空にあるからだろう。
ホタルがここで中級天使と戦闘を行ったのは昼過ぎだったはずだ。
そして、件の天使の姿も見当たらない。
「エルシーが時間が無いって言ってたのは、あの世界の時間の流れが速かったから?」
そうであれば、あれから何時間、もしくは何日経っているのだろうか。
「先輩……みんな!」
ホタルが叫ぶと同時に、背中から光輝く翼が生み出され、ホタルを中心に突風が生じた。
純粋に天素によって形成された、浮力を産み出すもの。
航空力学など必要無い。この翼であれば飛べるのだ。
200メートル程飛び上がったホタルは辺りを見渡す。
「ウランバートルって、どっち!?」
ふと、視力の概念すら無い程の目が遥か彼方に上がる煙を捉えた。
考えている暇は無い、ホタルは全力でその方角に飛んだ。
音は置きざりにされた。