第一章 日常が終わった日 12
「真似してみたのはいいけど、加減が難しいな」
まるで、卵を割る時に力を入れすぎてしまったかのように、軽い調子で呟く。
おそらくだが、原理は白い化け物のものとは違う。
ホタルは光の翼を生み出し、その翼で風を掴んでいる。イメージしたものは白鳥の翼。
ただ、全力で羽ばたいたため、思わず地平線の丸みがわかる高さまで来てしまった。
そこから色を失った結晶体が見えた。だが、ホタルが見たものはそれだけではなかった。
草原の中で上がる火の手。そして、数えるのが面倒な程飛び交う白い化け物。
「こんなに沢山!? でも、こっちのよりは小さい?」
ホタルが戦闘中の化け物と比較するとかなり小さいようだ。
さらに目を凝らして見渡すと、乱立している結晶が砕けているのが見えた。しかしその数は、先程あの場所にいた時よりも遥かに多い。
「もしかして、あの小さい方の結晶から化け物が生まれてる?」
――だとすれば、あの巨大な結晶体は……。
そう考えていたホタルに向けて、光の柱を消した白い化け物が光弾を放った。
乱射される光弾。その全てを避けるホタル。
「さっさと終わらせて、小さいのも全部片付ける!」
サイズが小さくとも、この不思議な力を扱えるのであれば、人類にとって脅威となるのは間違いない。
遊牧民バトーの最期を思い出すホタル。
――もう誰も死なせたくない。
一気に加速して化け物に近づく。
まずは、目の前の脅威の排除だ。
白い化け物の右ストレートを紙一重で躱し、懐に入りながら着地したホタル。左手で化け物の腹に触れる。
「試したいこと、その2!」
体を纏う白いオーラが全身を巡るようなイメージ。そして、その流れを左の掌に。
ズドンッ! という戦艦の砲撃のような轟音。白い巨体が宙に浮く。
ホタルの掌から放たれたオーラの爆発によって白い化け物の腹部表面が吹き飛ばされ、バスケットボールくらいの赤い球体が露わになる。
「あれは……」
あの、赤い結晶体と同じ色。
ホタルは、その赤い球体から溢れ出す凄まじい『力』を感じた。
それが白い化け物の弱点なのか、触れてはいけない爆弾なのかは解らない。
「どっちでも構わない」
ホタルは迷わなかった。
――ここで、この化け物を、倒す。
可能性が一縷でもあるならば、やらねばならない。
ホタルは右手刀にオーラを乗せ、赤い球体に狙いを定める。
「はぁぁぁぁぁっ!」
キィィィィィィィィン、という頭に響く音が聞こえたが、ホタルは構わず手刀を放つ。
次の瞬間、オーラの輝きが視界を遮った。
手応えは、無かった。
ホタルの眼前には、未だ白い化け物が存在していた。
ホタルの手刀は届かなかったのだ。
ただ、それだけではない。
ホタルは自らの右半身が無くなっていることに気付いた。
「なっ……!?」
遅れてやってきた凄まじい痛み。
バランスを崩して倒れながら、背後からの爆発音を聞いた。
一連の出来事が化け物の攻撃によるものだと推測できたが、見えなかった。
薄れゆく意識の中、ホタルは白い化け物の頭上に輝く光の輪を見た。