第一章 日常が終わった日 11
再び訪れる閑静。
ホタルは冷静に現状を考察する。
「雨塚 光の記憶は確かにある……」
今日の出来事は観光客用ゲルにいた時の事まで思い出せる。
しかし、今のホタルには自分と雨塚が同一人物である確証が持てなかった。
「私は……ホタル……」
確かに雨塚であったはずだが、自分が『黒姫 蛍』という別の存在だとしか思えなかった。
そして、あの化け物と同じ、不思議な力。
「どう考えても、普通じゃない……」
おそらく、ホタルの丈夫な体も、身体能力もあの白いオーラに起因するものだと考えられる。
であれば、雨塚 光の体が黒姫 蛍の体になった事にも関係していると考えるのが自然だ。
さらに言えば、あの白い化け物と黒姫 蛍との間にも何かしらの関係性があるのではないか。
そこで、考えを巡らせるホタルの視界の端に白い影が映った。
その視線の先には――。
首から上を失った白い化け物が、二本の足で立っていた。
「まだ、生きてっ……!?」
表情が再び鋭くなる。
そしてホタルは、化け物の無くなった頭部付近に白いオーラが集まっているのを目撃した。
徐々に形を取り戻していく赤い十字模様の頭部。
「結構なんでもありなんですかね、この力……」
しかし、元通りというわけではなかった。
「ヲォォォォォォォォォォォ!」
化け物が、咆哮した。
顔の十字模様の下部が裂け、化け物らしい口が開いていた。肉食獣のものより鋭く、草食獣のものより大きい。
白い化け物は右腕を真横に伸ばし、莫大なオーラを集めた。その腕から水平に光の柱が伸びる。
太さは化け物の全高に近く、長さはホタルとの距離の2倍程度。
「殺し方がわからない以上、いろいろと試すしかないですね」
溜息まじりに呟き、構えるホタルに向けて、白い化け物は右腕を横へ薙いだ。
重力に支配される人間には回避不可能な一振り。
化け物の前方180度の地面が扇形に削り取られた。
しかし、ホタルは肉塊に変ったわけでも、吹き飛ばされたわけでも無かった。
遥か上空を向く白い化け物。
そこには、光の翼を背負うホタルがいた。