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滅魔士  作者: 雨ノ日
2/2

デポル村

第二話―デポル村―



「それでは、最期はこの上です!」


川や草原に放牧されている羊、下から見る崖や少し奥まであるいたところにある滝の麓で運よく飛沫による虹を見た後、滝の上、つまりは切り立った断崖の上を指さしたエレナ。ちなみに、道中で聞いたのだが、巨大な渓流の跡地であるこの周辺は両脇を山脈に囲まれているそうで崖がずーっと遠くまで続き屋根のないトンネルの様だという。ちなみに、エレナの本当のお勧めは夜にみる星々を村から離れた灯りの無い場所で眺め、まるで本当に巨大なトンネルの中に居るかのような空間を歩く事だそうだ。


「上って、どうやって登るんだ?まさか階段があるのか?」


冗談でそんなことを言ってみたのだが、エレナは驚きの表情だ。

まさか……


「ありますよ、階段。もちろんかなり長いので今から昇ると丁度日が暮れる頃に着けるかと」


現在太陽は俺達の真上少し西側に傾いている。それが沈むということはかなりの時間登るようだ。俺はまだしも、エレナは大丈夫なのかと尋ねると、毎日宿屋で働くのって酔いつぶれたお客さん相手とかでかなり体力着くんですよ?と返されてしまい、その通りだと苦笑いしか返せなかった。

だが、折角の時間、階段登りだけで終わらせてしまうのはもったいないと思った俺はひとまず他のところへ行きたいと思った。


「エレナ、上は後でにしないか?いやなに、他にいいところがなければ構わないんだが」


「後、ですか……?でも夜には帰るとお爺様に行ってしまったので今を逃すと……」


どうやら時間が気になるようだ。だが、俺にも考えはある。


「大丈夫、俺に任せろって。んで、どうなんだ?他に綺麗なところは……」


少し考えたエレナは大きく頷き俺の手をいきなり掴んで引きながら、意気揚々と歩き出した。おとなしくて礼儀正しい彼女だが、本当にこの村の、ここら一体の自然が大好きなようだ。道中話をしてくれていた時、稀に火が付きすぎてしまい熱弁を始めたり、景色に見惚れて中々動き出さなかったのは一度や二度じゃない。

でも、気持ちは分かる。毎日こんなにも綺麗な景色に囲まれていれば心も綺麗になるのだろう。血で汚れた、俺とは違って。


「あ、ごめんなさい滅魔士さん!また私我を忘れて……お恥ずかしいです」


「気にすんなっての。むしろ自然体で可愛いさ。ってか、滅魔士さんって余所余所しい呼び方そろそろ止めてくれよ。俺はシリウス・ブラッドレイン、だぜ?」


「そ、そうですよね!殿方をお客以外でこうしてお相手することになれていなくて……」


いきなりではないにせよ、名前で呼ぶほど男性と免疫が無いようだな。俺は赤面しているエレナを見てどこか微笑ましく思う。


「い、いえ頑張ってお呼びしますとも……!やってやりますとも!」


無駄に力のこもった自己暗示に少し不安にもなってきた……


「そんなに気張るなっての。肩の力抜いて、普通に、自然体で言ってみろ?」


「は、はひっ!えと、ブラッドレインさん……」


「イヤイヤ、血の雨だなんて可愛い顔したお前さんは言っちゃぁいけない言葉だぜ?シリウスでいいさ、シリウスで」


意地悪したくなるこの気持ち、なんと名付けようか……考えてもみてほしい。さっきまで落ち着いて、いやたまに暴走はしていたが、可愛い子が赤面し俺の顔を直視できずに名前を呼ぼうと頑張っているのだ。そんな姿を見て意地悪したくならない男がいるならば、それはもはや魔だ。俺が切り伏せてやろう。

……冗談が過ぎたな。


「し、シリウス……さんッ」


語尾が跳ね上がったがまぁ十分だ。合格だ。

……何がだ。と自分で少しツッコミたくもなったがエレナの可愛さに免じてほしいものだ。

俺は、よくできましたと褒めた後、何事もなかったように次のお勧め景色を尋ねる。

当然、顔から火が出そうなエレナは俯いたままプルプル震える手で指さす。

そして、再び絶景巡りを再開した。





どれくらい経っただろうか?

太陽も傾き空も茜色に染まってきた。もうそろそろ沈む夕日を拝みに行こうかと提案した俺はエレナに先導を頼んできた道を引き返し始める。

その途中、行きしなも実はそうだったのだが一か所だけ壁際から離れてわざと歩く道があった。行きしなでは別に気にしなかったがまったく同じ場所で二度もルートを変えることに違和感を感じ、エレナが気が付かない内に避けて通る壁に意識を集中させる。

すると……


「……ッ!?この魔素の量……あぁ、なるほど。そういうカラクリか」


「ど、どうしたのですか!?」


突然、濃縮された魔素が壁際に集まっているのを感じ思わず声が出てしまい、帯刀している刀に手をかけた。


「あ、いや……驚かせて悪い。いやなに、気にしないでくれ。俺の小さな疑問が一つ解消されただけだ」


「は、はい……」


納得こそしていないだろうが膨大な魔素を感じた、だなんて言ってもどうしようもないだろう。あまり人の心を読むものではないが、仕方のない時もあるさ、だなんて俺は思いながらエレナの横顔を見つめ、長老の顔を思い出す。

それにしても今の一瞬ですっかりムードが変わってしまった。これは良くないと思った俺は、崖の階段のふもとまでエレナを急かす。最後に一度、魔素を感じたあの場所を睨んで―――




「さて、どうするつもりですか?この階段、夕日が暮れるまでに登るのは私無理ですよ」


「ふっふっふっ。エレナ、俺は滅魔士だぜ?まぁ見てろって」


そう言いながらポーチから煙草を取り出し、吸う。この煙草には魔素が詰まっていて、俺達滅魔士はそれを直接吸うことで自分の力や五感を引き上げることができるのだ。そして俺が今吸った訳。それは、エレナを抱いてこの階段を一気に駆け上がる寸法だ。

一人なら壁を走ることも可能だが、さすがに危険なのでそれは止めておく。


「よし、エレナ。少しばかり失礼するぜ。しっかり、捕まってろよっ」


背中と膝の後ろに手をいれて、ひょいっと持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこをして二、三回その場で跳ねた俺は、その反動を活かしながらさらに高く跳び、階段を何段も飛ばして凄い勢いで駆け上がっていく。


「ちょ、ちょ、ちょっとシリウスさん!?わわわっ、私、今ッ・・・えっ!?それにこの恰好・・・!」


「おいおい、そう慌てるなっての。もうちょいで頂上だ、口閉じてな?舌ぁ噛むぜ」


「そんな早くにつくなん、きゃぁぁぁぁああッ!!?」


最後の一歩をこれまで以上に踏ん張りまとめて一気に跳び上がった風圧で思わずエレナは目を閉じてぎゅっと俺にしがみ付いてくる。

人間にはまず不可能、そして一生に一度体験できるか出来ないかの離れ業。これまで案内してくれたご褒美に頑張ったつもりだが・・・エレナはさっきから肩を震わせて顔を伏せるばかり。これは少しやりすぎたか、と心配になる。


「だ、大丈夫か・・・?」


「ふふ・・・はは・・・っあははははっ!すごいすごーい!!シリウスさん、すごいですよ!私、鳥になった気分でした!滅魔士の方々はみんなあんなにもすごいのですか!?刀まで持っているのに、すごいです!」


「お、おぉ・・・喜んでもらえてよかったよ。ってかすごいしか言ってないぜお前さん・・・」


予想とは違った反応に俺が反応に困ってしまったがその眼の輝きを見る限り、頑張って跳んだ甲斐があったようだ。

と、そんなことしている間に太陽の端が地平線に触れ始めたではないか。

俺は近くにあった大岩の上に軽く跳び上がり、そこから眼下に広がる世界を眺める。

そして、景色が最高に綺麗なことを確認した俺はまた大岩から跳び下り、エレナをまた抱きかかえる。今度はエレナの方から先に俺の首に手を回してきて早く跳んでと言わんばかりだった。

そしてお望み通り俺は足に力を籠め、10mはあろうかという大岩の上にほとんど音なく衝撃なく着地する。


「・・・綺麗だ」


「はい、私のお勧めの中でもとびっきり綺麗です・・・でも」


大岩は楕円形をしており上に二人が立つには狭いため俺がエレナを抱えたまま、景色を眺める。夕日に照らされ、こちらに向かって空飛ぶ者も陰で正体までは分からないが、情景にかみ合っている。

そんな中風が頬を撫で、それがまた心地よい。しかし、エレナの表情は少しだけ暗かった。


「でも、なんだ?」


「なんだか夕焼けとか日暮れって、哀しい気持ちにもなります・・・こう、上手に言えないんですけど、終わり、が来るようで・・・ってすみません、折角綺麗な夕日なのにこんなこと・・・」


心なしか、彼女の俺に回した手が震えているかのような気がした。

何かに怯えるような、何かから逃げ出したいような・・・


「いいさ、物の見方は人それぞれだしな。ちなみに、俺は夕焼けとか夕日は嫌いだ」


「えっ!?お嫌いでしたか!?それは、本当にすみませんでした・・・」


「ははっ、違う違う。俺がコイツが嫌いなのはな、単純に眩しいんだよ。あと朝日も嫌いだな。眩しいから!」


一瞬、キョトンとした顔で夕日を眺める俺の顔を見つめたエレナは、くすくすと笑いながらとても自然でいい笑顔を浮かべていた。

どうやら俺の意図が伝わったようだ。


「短い付き合いでしかありませんけど、シリウスさんらしい感想ですね。私も、眩しくて嫌いです、夕日。シリウスさんのお顔もよく、見えないし・・・」


最後の方は消え入りそうな声で、俺に聞こえないつもりで言ったのだろう。しかし、滅魔士である俺にはたとえどんなに声を潜めてもこの距離ならば聞こえてしまう。当然、聞かなかったことにしておいて、あえて聞き返す。


「エレナもそうか!そりゃあよかった・・・って今なんか言ったか?」


「いいえ、何も。あぁ、強いて言えば、眩しく、嫌いな夕日ですけど、綺麗で大好きですって言ったんです」


「・・・そうか。確かに、よくみりゃ綺麗かもな」


この時、彼女の頬が紅かったのは夕日の所為。ということにしておこうかな。

俺は地平線に沈む夕日を今度こそちゃんと目に焼き付けるまでしっかりと見つめた。



帰り道も登った時と同じように俺がエレナを抱いて急な階段を風の如く駆け下りた。

終始楽し気に笑っていた彼女の表情が良く見えないほどに太陽が沈み始め、月がぼんやりと東の空に浮かび始める。どうやら宿の本格的な営業開始に少しばかり遅れてしまいそうだ。


「少し、遅れちゃいそうだな・・・悪い。もう少し早く切り上げるべきだったな」


約束は守りたい性の俺は申し訳なく思ってエレナに頭を下げる。だが、彼女は気にしないでくださいと微笑んでくれた。


「大丈夫ですよ。私以外にも何人かいますし、お客さんたちもいい人ばかりですから!」


ならよかった。だが急ぎ足にならない訳もなく少しばかり早歩きで村に戻り、銀の鶏亭を目指す。




俺達が宿に到着した時、幸いにも宿に人はまだ見当たらなかった。

しかし宿の営業が始まっていることに変わりはないから、とエレナは頭を下げてパタパタと着替えるために裏手に消えていった。

昼はあまり時間がなかったので見渡せなかったが、銀の鶏亭は二階立てで、一階は入り口から正面奥にカウンターがあり、その向こう側にはワインや酒樽が積まれている。その手前、広い空間には木の丸机と数個の椅子が歩けるスペースを残しつつ乱立。

脇を抜けて階段を上がり廊下にでると、両側にいくつか部屋がありそこが宿泊所だ。だが、この近くを通る人が少ないのか部屋の数はたったの二つ。お陰で中は広いのだが、なんだか皮肉なものだ。

そんなことを考えながら俺は自室に戻りポーチを外して魔刀を壁に立て掛けた。その時入り口のドアがノックされゆっくりと開く。


「戻られたとお聞きしましてな。滅魔士殿。どうでしたか?この村は」


「じーさんか。いやなに、良いところだな。魔素も薄くて平和だ。こりゃ下手したらお前さん達一生魔に出会わないんじゃないか?」


少しだけ眉が動いたのを俺は見逃さない。

こののどかで平和な村にも何か、魔の脅威を感じた俺は少しばかり詮索することを決めた。

何事も無ければとも思ったが、これまでちょくちょく感じた違和感や状況から、確実に何か起こることは長年の滅魔士の勘が告げている。

そんなこととは露知らず、村長は言葉を続ける。


「そうですな・・・わたしは昔他の村で出くわしたことはありますな。ですがこの村に戻って以来魔とは無縁じゃ」


「そうか。なぁ、この辺に魔素がない理由って何かわかるか?正直言って、これだけ広い範囲で魔素がないのは自然現象とは言い難くてな。滅魔士として、気になっちまってよ」


これは嘘だ。俺はこの周辺に魔素がない原因をすでに知っている。

だが、俺にはまだ他に確かめたいことがあるのだ。


「そうですな・・・特にこれといった事は・・・偶然とは、考えられんのでしょうか?」


偶然にしては出来過ぎている。それくらいの事は本人だって理解しているだろう。

寝床に腰かけた俺は、少しばかり疑いの眼差しでじーさんの目を数秒見つめる。人は、やましいことがあるときに見つめられると目を逸らすものだ。古典的で、正直決定打に欠けるが数秒と持たずに反らしたじーさんの反応は明らかに何か隠している。だが、詮索したところで無駄だろう。


「偶然、か・・・ま、それならそれでいいんだがな。さて、俺は腹も減ったことだし降りる。じーさんはどうすんだ?」


「わたしが言うのもなんじゃが、ここの料理はいいぞ!ご一緒したい気持ちもあるんじゃが、明日の集会の準備があるので失礼しようかの」


集会、とはなんだろう。

下の酒場で聞くのが一番早いと思って俺はじーさんと部屋を後に。

木で出来た頑丈な階段を下りるとさっきまでほぼ無人だった酒場は大繁盛。笑い声に満ちている。


「みな、疲れを癒しに集まるのじゃよ・・・なにせ年寄りばかりでな」


その一言で朝の違和感の正体に気が付いた。

今現在俺の視界にはエレナ以外に、若いと呼べる人が誰一人としていないのだ。

つまり・・・若者が居ない。


「みたいだな。それじゃぁ俺も混ざってくるとするかな。じーさん、またな」


「うむ。よい潰されないよう気をつけてな」


それほど飲まされるのかと一瞬冷や汗が出たが、これだけの陽気さ。それもあり得るかもしれない。

座る場所を探してみたが、どうやらどの席も座っているようだ。よく見れば立って飲んでいる人だっている。


「あ、シリウスさん!ごめんなさい、今満席で・・・」


エレナが俺に気が付いたようで、駆け寄ってくるが満席で忙しいのか一言だけ告げるとまた客に呼ばれかけあしでそちらに向かっていく。俺が返事をする暇もない。


「忙しそうだな。ま、立ち飲みってのも悪くないか・・・それに、情報も集めねぇとな」


カウンターで木のコップに注がれた酒を貰い、立ち話に耽る二人組の間に入る。

ポーチは置いてきたが、俺の本来の目的、人探しの為の人相書は持ち歩いている。それを見せて、見たことはないかと尋ねるも二人とも少し考えた後首を横に振った。


「力になれなくてわるいねぇ。あんんちゃん、滅魔士ってんだろ?丁度いい!一杯付き合ってくれよ!」


「おいおいニック、虫が良すぎるぞ?」


ニック、と呼ばれた男は鼻が少し膨らんでいるのが特徴で、緑の毛糸で出来た帽子を被っている。もう一人は背が高く、細い。体から肥料のにおいがしたから二人とも農作業、特に栽培の方をしているのだろうか。


「気にするな。元々雲を追っかけるような人探しだ。いいぜ、何に乾杯する?」


「いいのかいにーちゃん?なら、ここの看板娘のエレナにってのはどーだ」


どうやら、エレナは村の人からも気に入られているようだ。

やはり、可愛い子は絶対正義、なのだろう。失礼、冗談だ。


「よしきた!それじゃ、乾杯!」


「乾杯!エレナに!」


「っぷはー!何時飲んでもうめーが、仕事終わりが一番うめぇ!」


ニックはコップの酒を一気に飲み干し、空になったコップを高く突き上げる。

一口のんだ俺もこの酒は旨いと思った。

喉の奥に染みる感じとこの苦みがまた丁度いい。


「おいおいニック、飲み過ぎるなよ?明日も朝早いんだ」


「あぁそうだ、まだ自己紹介していなかったな。俺はシリウス、よろしく」


早くも酒のお代わりを自分から貰いに行ったニックは一旦放っておいてこの男と握手を交わす。


「よろしく、俺はレナルドだ。彼はニック」


レナルドはどうやらかなり丁寧な男の様だ。ニックの紹介までしてくれた。

このままこの男から色々聞けるといいんだが。

そんな淡い考えを抱きながら何気なく会話を始める。


「それで、シリウスはなんでこんな小さな村に?滅魔士って魔を退治するんだろ?この辺に魔でも出たのかい・・・?」


「いや、通りかかっただけだ。人探しも兼ねてるからな。できるだけ見つけた村は寄るようにしている。魔といえば、そっちこそ魔をみたりしてないか?ここは平和だから無縁だろうが」


レナルドは少し考えるそぶりをしつつ酒を飲み、そこにニックが戻ってきた。


「そうだなぁ・・・若い頃、他の村に行っていた時は噂とか聞いたことあるがこの村じゃそんなことないな。ニック、お前はどうだ?魔をみたりしてないかとシリウスが」


どうやら酒豪のニック。注いできた酒ももう半分しかない。しかも顔はもう紅い。気をつけないと厄介ごとに巻き込まれそうな気もする・・・


「魔、ねぇ・・・ないない。土地神様がいるからなぁ」


「・・・土地神様?」


聞きなれない単語に俺はつい聞き返した。だがその瞬間何かに気が付いたのか、よいが吹き飛んだかのような顔でニックは口を強く結んだ。

その様子を見てこちらも慌てたレナルドがすかさず口をはさんでくる。

どうやら、村総出でなにか隠しているようだ。


「な、なんでもないさ!なんだよニック土地神って・・・もう酔ったんじゃないか?ん?明日も仕事なんだ、送るから帰るぞ!ってことで、すまない。今日のところはお開きにさせてもらうよ・・・」


残念だがここで引き留めてことを大きくしたくはない。おそらく、俺に知られたとなると彼らも何かしら罰を受けたりしそうだしな。


「・・・土地神、ねぇ。やっぱりこの村何かあるな」


魔をかくまっている人が居た村を過去に尋ねたことがあるがそれと似ていて異なる雰囲気をすでに俺は感じていた。

それに、ある程度情報の材料は揃っている。後少しで何か掴めそうな気がした。


「部屋に戻るか・・・」


集めた情報を整理したほうがいいと判断した俺は酒を一気に飲み干してエレナに挨拶すらせずに二階へと上がっていった。

部屋のドアを開け、窓から見える星空を少し眺める。


「現段階だと絞りきれないが、確実に魔が関与しているな。おそらく、この村周辺の魔素の薄さと村人の魔に対する異常な敏感性。なんだか俺に居られると不味いみたいだ」


誰に聞かせるわけでもなく一人呟く。


「・・・あした少し話を聞いて、集会に参加すれば十分だろう。今日は・・・もう寝よう」


灯りを消し、寝床に潜り込んだ俺はすぐに寝息を立てて眠りについた。







翌朝、俺は目が覚めると同時に意識が完全覚醒する。これは滅魔士としては出来て当然の術で、いつ魔に襲われるか分からない故の業だ。

銀の鶏亭の外にある井戸で水を汲み、俺は上半身服を脱ぎ、冷水を浴びる。

朝方、まだ空気も冷たい仲での水浴びは体が引き締まって良い。だがあまりお勧めはしないがな。


「さて、と・・・村長は何か隠してるのバレバレだし迂闊に聞けねぇな・・・他にこの村の歴史に詳しい奴はっと・・・」


大きな街であれば歴史書などあるのだが、村となるとほとんどないといってもいいほどに歴史書が存在しない。だから長くすんでいる村人に聞くのが一番いいのだ。

だが、まだ太陽も昇ったばかり。流石に誰の姿も見えない。


「俺の予想が外れてくれてるといいんだが・・・まぁ十中八九当たってるだろうな」


これまでの状況証拠と過去の経験からして俺には大体の見当はついている。

この村に隠された真実、とでも言える事に。


「ってか流石は農家。朝が早い・・・おーいそこの可愛いおばあちゃーん」


「可愛い!?今あんたあたしのこと可愛いなんて言ったかい!?」


村を散策していると早くも農作業を始めようとしているおばちゃんを見かけたので声を駆けたのだが、中々に元気がいいようだ。


「おうよ。朝から元気だねぇおばちゃん」


「はっはっはっ、まったく・・・褒めてもなにもでやしないよ!何か用かい?こんな時間から野菜を買う共思えないしねぇ」


「ただの正直な感想だよ。いやなに、野菜じゃなくて少し気になったことがあってね。おばちゃん、生まれはこの村?」


どうやら掴みはばっちりの様だ。いい感じに好感を抱いてくれたようで、このまま知りたいことを教えてくれるといいんだが・・・


「そうだよ。あたしゃこの村で生まれ育ったんだよ」


「他の村とかに行った事は?」


「そうさねー・・・若い頃は大きな街にいたね。それがどうかしたかい?」


やはり、この村の人に共通しているのは若い頃にこの村を離れて暮らしていること、だ。

ここを探れば確信にさらに近づけるだろう。


「いや、少し気になってね・・・もう一つ、いいか?村長と孫は仲がいいのか?」


「なにを当たり前なことを!村長さんったらエレナちゃんをそりゃぁもう溺愛さ!エレナちゃんのお母さん、未婚の母でねぇ・・・エレナちゃんを産んでしばらくして、娘残して先に旅立っちまったんだよ・・・だから村長が親代わりに大事に育てているんだと。あ、あんまり言いふらしたりするんじゃないよ?」


成るほど。となると謎がまた一つ増えた。

だが、確信に近づいて居る事だけは確かだ。


「ありがとうおばちゃん。そうだ今日は満月だったな・・・このまま晴れてくれれば綺麗なんだろよ」


「満月が綺麗だなんて言えるあんたが少しうらやましいよ・・・っとなんでもないなんでもない!あたしゃ仕事に戻るね!それじゃぁさ!」


手を振って仕事へと戻っていったおばちゃんの背中を見ながら俺は一つの仮説に行きついた。

だが、あと一つ。分からないことがある・・・

それは本人に聞くしかないのだが、そんなことすればどうなるか分かった物じゃぁない。

大人しく、その時を待つとしよう・・・

俺は、夜に開かれる集会で皆に挨拶をしてこの村を去ると伝え、その時間が来るまで魔刀の手入れや自己鍛錬に励んだ。

昼になり、ふとエレナがどうしているのか気にかかり宿に戻ってみたがそこにエレナの姿はなく、宿の人によると朝から村長と出かけたそうだ。

少し残念だが仕方ない。夜には戻ってくるだろうと再び鍛錬に戻った。





そして陽は暮れ、あたりはすっかり暗くなり満月が顔を出した。

集会の会場は村の中心にあり、この村にしては珍しく石畳で中心が凹んでおり、外に向けて階段状高くなっている構造だ。しかも石畳はどうやらあの山の崖のところから採集してきたようで、模様が階層ごとに代わっていて綺麗だ。


「ささ、外での集会とはいえど暖かい気候というわけでもないですから、少しばかり寒いでしょうし真ん中へどうぞどうぞ!」


「お、悪いな・・・んじゃお言葉に甘えてっと。あ、おーいエレナ!お前さんもこっちで一緒に飲まねぇか?」


一人の老人に背中を押され、真ん中で轟々と燃え上がる炎の前の段に案内される。石畳は一段一段の高さこそ低いが幅が広く、一人腰かけた後ろにもう一人くらいなら座れそうだ。そんな感じの石畳が五段、積まれている。聞こえは少ないが、村の人口的には丁度いいだろう。

その時見えたエレナに酒を飲むのかどうか、階段を下りながら尋ねるとなにやら村長と他数名の顎髭を蓄えた男と話し込んでいた。

が、俺の声が聞こえたのか話が中断された。


「え、あ、いいえ。私はお酒を注いで回るお仕事が・・・それじゃ、お爺様。準備してきます」


「うむ。頼んだぞ。ほれ、ガルデラよ。滅魔士殿に酒を注いであげなさい」


「あ、滅魔士さぁん!あたしがお酒、ついであげるわよぉん~」


エレナが着替えに行ったのを見計らってか、はち切れそうな白と黒を基本とした使用人のような格好で地鳴りさえ聞こえる歩きをした女が木で出来たカップにお酒を注いで私に来る。

一瞬、魔かと疑って帯刀した魔刀に手をかけたのは内緒だ。


「あ、あぁ・・・ありがとう・・・って、なんだお前さん達!?お、おい押すな押すな!質問か!?質問なら順番に応えるから!押すなって!!」


お酒を受け取った瞬間だった。

まるで、それが合図のように一斉に駆け出してきた村人が俺を押しつぶしそうな勢いで集まってきた。それぞれが質問や話を降ってくるせいで何も聞こえないが、おそらく俺の声も聞こえていないだろう。


「滅魔士さん!魔とは神にも等しいとは本当か!」


「他の村では魔の被害は当たり前なのか!それを助けて旅しているのか!?」


「この村にあとどれくらいおるんだ!?」


と、村人ほぼ全員が狭い石畳の上で舞踏を披露してくれている。

うむ、なんとも危ないではないか。


「って言ってる場合じゃないか。しょうがない・・・おいテメェラ!少しおとなしく並べや!!」


「・・・ッ」


「は、はい・・・」


普段は低級の魔にしか使わないようにしている眼力。これは正直相手に恐怖を与えて従わせる強引な技なので使いたくはないのだが、これ以上押されると俺じゃなくとも誰かは怪我しそうだったので使った。

その声は届かなくとも、気配で察してくれたようで助かる。村人は一列で並び、少しばかり段のせいでいびつではあるが列がしっかりできた。


「ん、落ち着いたか?それじゃ、聞きたい事ある奴いるかー?何でも応えっぞ!」


「じゃ、じゃぁ儂から良いかの!この村はどうじゃ?気に入ってくれたか?」


「あぁ。のどかで良いところだ・・・滅魔士じゃなけりゃ永住も考えたさ」


素直な感想ではあるが、他にも思うところがあるがそれを村人に言うのは筋が違うというかただの愚痴になってしまいそうだ。







「お爺様、私・・・いやです・・・もちろん、犠牲になることは覚悟の上。村の為です!けれど、シリウスさんは関係ない・・・このまま放っておいても・・・」


「エレナ・・・お主のその覚悟も、わたしとしては揺らいでほしいものじゃ・・・じゃがお主のその意志は曲がらん。じゃからせめて、わたしも何としてもこの村を守りたいのじゃ」


宴会の会場から離れたところ、銀の鶏亭裏のエレナの家の前で村長と二人、話し込んでいる。

だが、どうやらエレナの方は声が震えている。暗くて良く分からないが、泣いているようにも思える。


「のぉエレナ。彼はいい人じゃ。今も村人の好奇心を満たしてくれておる・・・この平凡な毎日からは想像もつかないような冒険の話を・・・じゃが土地神様の怒りを買えば、村は滅ぶ。それに滅魔士である彼は必ず土地神様を殺そうとするじゃろう・・・万が一にでも土地神様が殺されれば・・・」


「村は、魔に覆われる・・・えぇ理解していますとも!でも、でも・・・!」


「エレナ・・・彼は一流の滅魔士じゃ。心開いたそなたにしか出来ぬことなのじゃよ・・・大丈夫。殺しはせん。ことが済むまで眠ってもらうだけじゃ・・・じゃからエレナ。今のうちに別れを言っておきなさい」


ついにこらえきれなくなったのかその場に泣き崩れるエレナ。何かに怯え、悲しみ、苦しんでいる。

土地神・・・それが今回の俺の敵だ。可愛い子を泣かせた罪は、かならず償わせる。




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