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94.温泉での雑談

随分と遅くなり申し訳ありません。

取り合えず、明けましておめでとうございます。


色んなものを犠牲にしたような気がするが、やっと温泉に入れる。相変らず蘭の陰に隠れつつ、綾香を警戒しながら温泉に浸かるのだが、やっぱり温泉は最高だ。


「あぁ~、溶ける」


「温泉に入った途端に凄い無防備になるのね。覚えておこうかしら」


どうぞご自由に。今の俺はかなり広い心を有している。大抵の事なら流してしまえるほどに。精神的に疲労している状態だったから猶更温泉が効くな。どんどん疲労が溶けていく。


「やっぱり琴ちゃんの身体はいいわね。玉のような肌に、弛みの無いお腹」


「何処見て言っているんですか。温泉だから仕方ないですけど」


「色々と大らかになり過ぎてつまらないわね」


「貴女が楽しめる状況じゃなくて残念ね。私としてはどちらでもいいけど」


蘭は平常通りだな。自分に被害が来ないのであれば関係なしと言わんばかりに何もしない。下手に構えば自分に被害がやってくるからな。俺達、被害者の会の共通認識だ。


「じゃあ今は何もしないわ。反応がつまらないものだったら退屈だし」


「はいはい、大人しくしていてください」


なるほど。構わなければいいのか。でもそれはそれで積極的に動いて、こちらの気を引こうとして来そうでウザくなりそうだ。どちらにせよ何かしらの被害が来るのを覚悟しておかないといけないな。


「まさか風呂上がりにも私の所に来るつもりですか?」


「もちろん。夜はこれからじゃない。年齢差はちょっとあるけど女子会と行こうじゃない」


「折角の修学旅行なのだから邪魔するのは悪いわよ。私達は静かにお酒でも飲んでゆっくりしましょう」


蘭の助け舟が本当に助かるな。何で折角の修学旅行で過去の同級生達に弄られないといけないんだよ。今のままなら現在の方だけ済むのに、綾香達が混ざると過去まで出てくるからな。


「私達は話を聞きたいかな。芸能人の話なんて滅多に聞けないから」


おい、晴海。余計なことを言うな。折角、蘭の言葉で諦め始めた奴が、別方向からの援護で再燃してきたぞ。でも現役の学生たちにとって芸能人は憧れの対象だろうな。そんな人物から話を聞きたいと思うのも仕方ないだろう。


「よし。同室の子達からの許可も得たことだし、お邪魔することにするわ」


「これじゃ私が何を言っても無駄みたいね。諦めて頂戴、琴ちゃん」


「後で考えることにしておきます。今はゆっくりしたいから」


温泉に入っている間は後の事は考えないようにしよう。楽しみたいからな。風景を楽しみつつ、周りの様子を見ながら、視覚的にも楽しむのがやっぱり一番だな。


「これは駄目ね。後で後悔しても知らないから」


「ご忠告痛み入ります」


後悔はするだろうね。主に温泉から上がった後に。何であの時に止めなかったのかと。しかも忠告までされているのに、俺が全く動かなかったのだから文句の言いようがない。


「そう言えば琴ちゃんに言うの忘れていたんだけど、伝えておいた方がいいわよね」


「あの二人の事よね。蘭が心配するのも分かるけど、幾らなんでも嗅ぎつけては」


「あれの事は私達だって知っているじゃない。嗅覚が明らかにおかしいことを」


厄介ごとが周りにあるということだけは分かったな。止めてくれよ、温泉に入って気分をリフレッシュ出来ているというのに。しかし内容は気になるな。それは今の綾香達の知り合いなのか。それとも俺も知っている人物なのか。


「誰の事ですか?」


「瑠々の事。あの子も京都に来ているらしいわよ。流石に此処には泊まってはいないみたいだけど」


「そう言えば取材旅行するとか言っていましたね。狙ったかのように京都を選んだのはやっぱり何か感じたのでしょうか」


「知っていたの?」


それはどちらの意味なのかは分からないが、瑠々とはすでに出会っている。喫茶店にあの凸凹コンビがやって来た時は驚いたのだが、どうして来店したのかは教えてくれなかったな。恐らく勇実の情報を頼りに探り当てたのだろう。


「喫茶店に来ていましたからね。早々に私の事を理解したようなので、アホなのかと言っておきました」


「「だってアホだから」」


二人揃って言う辺り、やっぱり共通認識なんだろうな。俺達の同級生の中で群を抜いての変人だから。知りたいと思ったら即行動の、しつこいくらいに調べ尽くす。付いた渾名が隠者。神出鬼没の情報屋だ。


「それであのアホはやっぱりあの行動をしたのかしら?」


「蘭の思っている通りです。相変らず私の背中に引っ付いて離れませんでした」


職務中だというのにおぶさるなと。しかも背中に引っ付いて俺であるかどうか見極めたから、どんな感性をしているんだよと突っ込んだくらいだ。しかも振り落とせないおまけ付き。


「羨ましいわね。以前も羨ましく思っていたけど」


「綾香がやったら変に思われるじゃないですか。それに悪乗りした勇実までやってきそうですから勘弁して欲しかったです」


あの頃の問題児が多過ぎて処理に困るほどだった。今の十二本家の問題児など可愛いものだろう。それでも苦労するのは変わらないのだが。でも前よりはマシだな。あの頃はプライベートの時間すら少なかったから。アルバイト先まで乗り込んできた時は真面目にキレたな。


「奈子がやってきて引き剥がすまでがテンプレでしたね」


「あの二人は成人してもセットだから仕方ないわよ。奈子は随分と嘆いていたみたいだけど」


「私みたいに覚悟を決めて一緒になったわけじゃないのだから仕方ないわよ。巡り合わせが悲惨すぎるだけだから」


就職して作家の担当になったのに、その相手がまさかの瑠々だったのだから己の運の無さを呪っていたのだろう。でも奈子以外に瑠々を止められる人物が思いつかないんだよな。あいつを引き剥がすのは熟練の技が必要だから。


「瑠々は相変わらず問題を起こしていますか?」


「私も頻繁に連絡を取っているわけじゃないから詳しくはないわよ。蘭は?」


「右に同じく。大体あの子の行動を掴めるの奈子だけよ。私達の誰も瑠々を見つけることなんて出来なかったじゃない」


それなんだよな。変に気配を隠すのが上手いから簡単に背後を取られるのだ。そしてネタを探すために色んな場所へ出没するので厄介ごとを持ち込むことが多い。


「それが私と出会って暴走する可能性は?」


「「高いわね」」


二人揃って言わなくても。修学旅行は普通、学生としての楽しみじゃないのだろうか。それが何で社会人になっている同級生たちとの再会の場となっているんだよ。そしてどうして同級生達に俺の居場所が知られるんだろうな。


「見つからないようにするのは無理がありますね。瑠々の索敵はよく分かりませんから」


「変なレーダーを搭載しているのは間違いないわね。問題起こる場所にあの子あり。あれがジャーナリストとかにならなくて本当に良かったと思うわ」


「週刊誌の記者でも同じだと思うわ。芸能人の問題か、社会問題に突っ込んでいくのかは分からないけど。綾香だって対象にするわよ、あの子だったら」


ネタの為なら手段を選ばないからな。クラスの全員が被害者なのだから最要注意人物なのは間違いない。騙されて心霊現象の現場に連れて行かれた連中もいたのだが、次の日は殆ど意識が虚ろな状態だった。温泉に入っているはずなのにちょっとだけ底冷えしたのは気のせいだろう。


「明日は観光なのに凄い不安になってきました」


「十中八九、遭遇すると思うから気を付けたほうがいいわよ」


「私も出来れば同行したかったけど、休暇は今日までなのよね。明日の夜には予定が入っているから。今から変更はできないかしら?」


「無理に決まっているでしょう。ドラマの撮影だって始まるのだからスケジュールの変更なんて出来るわけないわよ」


「だよねー。仕方ない、またの機会に取っておきましょう。主に同窓会とかに琴ちゃんを招待するとか」


「魔窟に私を誘うの止めてくれませんか」


温泉に入っていて思いっきり寒気を感じたぞ。想像しただけで末恐ろしいことになるのが容易に分かる。大体会場とかはどうするんだよ。俺たちのことを知っている所は絶対に断ってくるぞ。地元だと絶対に無理だ。


「同窓会の計画は全然立ててないから予定と云うことで。そういうのは企画担当が何とかしてくれるでしょう」


愉悦連中の筆頭じゃないか。碌でもないことになるぞ。それは俺だけじゃない。下手したら綾香にだって被害が及ぶ可能性すらある。あと隣にいる蘭が諦めたような笑みを浮かべていて怖いのだが。


「正気の沙汰じゃないですよ。私は絶対に行きたくありません」


「勇実あたりが引っ張っていくんじゃないかしら。もちろん拒否するなら私も強制連行に参加するわよ」


「私も一緒に行くわ。被害者は多いほうが分散して負担が減るから」


「酷い」


確かに参加者が多いほど負担も大きくなるが、一人当たりに掛かる分は減るな。だけど一人へ集中した場合は悲惨なことになるのが分かってしまう。その確率が一番高いのはもちろん俺だけど。あの連中なら今の俺ですら容易に受け入れるから恐ろしいんだよ。


「このままずっと此処にいたい」


「だけど残念。残り時間は僅かだよ」


ずっと綾香達と話していて同級生たちのことを見ていなかった。ぞろぞろと浴室から出ていくのが見えてしまう。極楽とのさようならは意外と早いな。なんかあまり温泉に浸かっていなかったような気がするのは気のせいだろうか。


「教えてくれてありがとうございます。晴美。あのままですとずっと入っている所でした」


「次のクラスが何も知らずに入ってきたら大変なことになるわよ。琴音と女優が一緒に入浴しているんだから」


だろうな。次のクラスが何処なのかは分からないけど、絶対に入り口で固まるだろうな。香織だったら溜息を吐きながらまたかと言いそうだけど。小鳥はホテル組だから一緒じゃないんだよな。特に打ち合わせもしていなかったら本人は随分と後悔していたようだけど。


「それじゃ私はそろそろ上がります。二人はどうしますか?」


時間制限があるのはあくまでも学生である俺たちだけ。一般客である綾香達にはこのルールは適用されていない。といっても今回泊まっている客の殆どは学園の生徒たちだから一般客自体は随分と少ないはず。あとは護衛の人間だが、まだ酒盛りしている可能性がある。本当に明日の仕事に影響しないのだろうか。


「私達も上がるわ。元々長湯するほうじゃないから」


「どちらかというとこれからやることの方が時間が掛かるわね。スキンケアは大事だもの。綾香もサボったりしたら駄目よ」


「当然でしょう。手を抜いてはいけないことくらい理解しているわ」


それを普段の行動でもしてほしいのだが。時と場所を選んで行動してくれと言いそうになったがグッと堪えた。どうせ言ったところで聞いてくれるとも思えないし、選んだらどんなことをしてもいいのだと言われてしまいそうだ。


「それでは私は真っ直ぐ部屋に向かいます」


「また後でお邪魔するわ。覚悟していてね」


鍵を掛けたいと思ってしまった。でも残念ながら綾香なら何かしらの方法で開錠しそうで怖い。教師すらも丸め込めた実績があるから今の教師たちですら危うい。しかしここでスキンケアとやらをやるのだろうか。次のクラスが来そうなのに。


「私には関係ないことですね」


「琴音。部屋に戻ったらさっき話に出ていた瑠々と奈子という人物について聞かせてもらうわよ」


「別に綾香達と同じような有名人というわけではありませんよ」


ベストセラーを出すような作家ではなかったはず。それでも飯を食えるだけの収入があるということはそれなりの人気はあるのだろう。それが瑠々であり、担当が奈子なだけ。勘違いされそうだから言っておくか。


「別に私の友人達が全員有名なわけではありませんよ。中には居酒屋の店主や主婦。車の整備工場で働いている人やホテルの従業員などもいますから」


「むしろ琴音にそこまでの友人がいるなんて信じられないんだけど」


琴音ではなく、俺の方だからな。確かに琴音本人の友人なんて指を折って数えられる程度しかいない。それも随分と疎遠になっているから友人と呼べるかどうかも怪しいな。一番遠いので海外在中だから。


「勇実からの繋がりです。私個人の友人とはまた違った意味がありますから」


出来ればあまり会いたくはない。特殊な奴らが多いから、琴音と俺が同一であることを疑問に思わず信じるような連中ばかりだ。絶対に弄られるのが目に見える。下手したらセクハラ紛いのことをしてきそうな連中だっているから、こちらも全力で応対しないといけない。


「疲れるんですよ。相手をするのが」


「琴音から哀愁が漂うなんて相当な人たちなのね」


実際に会ってみないと分からない奴らばかりだからな。その一端が綾香なのだが。あれですらまだマシに思えるレベル。上には上がいるものだ。何か色々と思い出したらドッと疲れてきたな。


「もう一度温泉に入りたい」


「はいはい、現実逃避していないで着替えてさっさと出るよ。後が詰まっているんだから」


早朝にこっそりと入ってもばれないよな。一人でゆっくりと景色を眺めながら浸かっていたい。できれば朝食の時間までじっくりと。もう茹で上がっても構わない覚悟で。俺の決意は固いぞ。


フラグの威力恐るべしでした。

平穏が吹っ飛んでいきましたからね。

あとは錬金したり、狩猟したりと積みゲーの消化でしょうか。

というかやっと余裕ができたような気がします。


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