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93.過去との入浴


晴海や宮古、更に他のクラスメイト達からの追及を何とか避けつつ、脱衣場までやってきた。綾香は混浴と言っていたが普通に男女別だ。そうでもなければ俺が進んで入浴するなんて言うはずがない。


「ねぇねぇ」


「しつこいですよ、宮古。絶対に私からは何も言いません」


「なら綾香さんに聞くよ」


「真面目に止めてください」


あれが喋り出したら色々と脚色されそうで駄目なんだ。蘭にですら俺から奪ったとか世迷い事を言う位だ。それが他人であるクラスメイト達にどんなことを吹聴するのか俺も予想できない。


「不意打ちで唇を奪われたのは本当です。あまり思い出したくありません」


キャーと黄色い歓声が脱衣場に響き渡るのだが一切嬉しくない。そもそも何故に俺はあの痴態を解説しないといけないんだよ。羞恥プレイにもほどがある。


「私は存分に堪能したかったのに、私の胸に手を突っ込んで無理矢理離れちゃって。さり気なく大胆な事をするわよね」


「だから脚色しないでください!」


間違ってはいないがそれも綾香が無理矢理やらせたことだろ。変に繋げられると途端に卑猥になるぞ。しかし脱衣場が賑やか過ぎて他のお客さんの迷惑にはならないだろうか。


「琴音、大胆な事をしていたのね」


「その笑顔が大変ムカつきます、晴海」


「大変面白いからよ」


そりゃ他人の事なら面白いだろうな。俺だってそう思う。だけど自分の事になると途端に面倒な事だと思うんだよ。しかも当事者がすぐ傍にいて確認が容易な状況だと。


「異性じゃないからセーフだよ」


「宮古。そうはいいますが、私の中では確実にアウトなんですよ」


中身と外見が反対の俺からしたら異性だろうが同性だろうがどちらでもアウトなんだよ。しかもそれが知っている過去の同級生なら尚更意識してしまう。


「捉え方は人それぞれだから仕方ないかな」


「もう最悪ですよ。騙された私も悪いのですが」


もうちょっと警戒していても良かったはず。綾香の行動は昔から読めていなかったのだから。愉悦の奴らの行動なんて誰も読めるはずがない。それは蘭も同じだったはず。


「それより何で私から距離を取るのかしら、琴ちゃん」


「危険だからに決まっています」


脱衣場にいるのに俺はまだ着替えることが出来ないでいる。その理由が綾香。こいつがずっと俺の隣に移動してきているからだ。理由は他にもあるのだが。


「琴音も慣れないね。時間決められているから急いだほうがいいよ」


宮古の言う通り、入浴時間は決められている。クラスメイトの裸には水泳の授業である程度慣れてはいるのだが、綾香と蘭は別だ。過去の同級生という事で嫌でも意識してしまう。


「腹を括るしかないですか」


「相変らず照れ屋なんだから」


「それは何だか違う気がするわよ」


照れ屋でも恥ずかしがり屋でもない。男性だとしたら喜んで直視するか、恥ずかしがって顔を隠すかのどちらかだろう。なるべく二人の事を視界に入れないように脱ぐしかないか。


「やっぱり琴ちゃんの肌は綺麗ね。これで何のスキンケアもしていないとか反則だわ」


「そんなにジロジロと見ないでください」


「それに。それが原因かしら。入れ替わったのは」


隣で脱いでいるのだから傷跡を見られても仕方ない。それに綾香ならそれほど大騒ぎもしないと思っていた。これが蘭なら口煩く色々と言われるはずだ。


「そういうことです。ちなみにあまり知られていない事なので秘密でお願いします」


「分かったわ。それが原因で琴ちゃんが困ったら私も困るもの」


しかし相変らずよく気付くな。なるべく見られない様に意識していたのに。水泳の授業と同じで隠すことを忘れない。誰の目があるか分からないからな。下手に知られると騒ぎになり兼ねない。


「それにしてもいい身体しているわね。胸に関しては私よりも上じゃないかしら」


「目つきが危ないので見ないでください」


「嫌よ。でも何だか新しい扉が開きそう」


「蘭! 今すぐこの危険人物を遠ざけてください!」


操の危機がすぐ隣にいるんだが。変な扉に手を掛けているんじゃない。その犠牲になるのは絶対に俺だろ。獲物を狙うような目つきだったが、後ろに忍び寄った蘭が頭を叩いて正気に戻ってくれた。


「暴走していないで行くわよ。他の皆はもう浴場の方に行ったんだから」


「「はい」」


何故か俺まで怒られてしまった。被害者なのに。バスタオルを身体に巻いて準備OK。いざ、楽園に旅立とう。脱衣場と浴場を仕切っている扉を開くと本当に楽園が広がっていた。


「凄いですね」


「私も初めてきたけど、流石は人気の宿ね」


和風で統一された配置。広い温泉。圧倒されるというよりも純粋に感嘆してしまう光景。鑑賞だけでも楽しめる温泉というのは初めての体験だと思う。


「あの人達と並びたくないわね」


「女優と並んで見劣りしていない琴音も凄いと思うよ」


入り口で佇んでいたらクラスメイト達の声が聞こえてきた。女優というだけあって確かに綾香の肌は綺麗だ。そして見劣りしていない蘭も凄いと思う。女性というものはやっぱりそういったのを気にするのだろうな。


「私は綾香に付き合っているだけよ。一緒にいる人がサボっていたら頑張っている人が可哀そうでしょう」


「律儀ですね」


「何事も真面目が一番よ」


だから委員長なんて渾名が付けられるんだよ。他人の為に自分も頑張るなんて最初は出来ていても継続できる人は多く無い筈。俺だって自分の為だから早朝ランニングを続けられているんだ。


「それじゃ琴ちゃん。私が背中を流してあげる」


「止めてください。私の心臓が持ちません」


もう裸の付き合いはこれで十分だろ。バスタオル取ってまで付き合いたいとは思わない。それに入浴は好きなんだが、他人の裸体には全く慣れないんだよ。


「もう本当に恥ずかしがり屋ね。以前も似たようなものだったけど」


「綾香のスキンシップは過剰すぎたのよ。でもそれを望んでいる人物にはやらないのだからしっかりしているわよね」


他人の反応を楽しんでいるのだから面白みのない奴には絶対にやらなかったからな。男性にも女性にも遠慮はなかったのだが、スケベな奴には絶対に近づかなかった。


「自分の事は自分でやりますから、私には構わないでください」


「お断りよ」


「にゃぁ!?」


さて身体を洗おうと蛇口に手を掛けたら後ろから胸を揉まれた。予想外過ぎて凄い変な声を出してしまってクラスメイト達から注目される結果にもなった。忍び笑いが恥ずかしい。


「この弾力、張り、どれを取っても一級品ね」


「真面目に解説していないで手を放してください。うぅ」


「その表情、凄いそそるわね。いいわ、凄くいいわ」


真面目に泣きそうになっているのがそんなにいいのかよ。恥ずかしいやら、変な感覚をぐっと我慢しているというのに。何とか助けて欲しいと蘭に視線を送ると溜息を吐きつつ頷いてくれた。


「いい加減にする!」


「「冷たいー!!」」


風呂桶に溜めた冷水を綾香にぶっ掛けたのはいいのだが、その余波が俺にまで掛かってしまって二人揃って悲鳴を上げてしまった。忍び笑いしていたクラスメイト達は今度は隠しもせずに笑い出したな。


「心臓麻痺したらどうするのよ」


「そんな柔な心臓していないでしょう。綾香の心臓が鋼鉄製だとしても私は信じるわ」


「酷い相方だわ。琴ちゃんもそう思うでしょう? あら?」


「蘭。守ってください。もう何でもしますから」


「はいはい。ちゃんと私の隣にいなさいね」


隙を見て、綾香から離れて蘭の隣に移動する。蘭を挟むような形にしないと綾香が何をしてくるのか分からなくて怖すぎる。蘭には俺の為に防波堤になってもらうのだから多少の犠牲は仕方ないだろう。蘭なら無茶な要求はしてこないと思うし。


「振られちゃったわ。これで二回目かしら」


「原因は綾香にあるのは確かね。後でちゃんと謝っておきなさい」


「そうするわ。でも髪位は洗わせて欲しかったわ」


「変な事されそうなのでお断りします」


絶対に髪以外の場所も触る気満々だろ。以前の修学旅行の時に女子の方の浴室から悲鳴が聞こえて来ていたのは綾香が原因だったのだろう。俺と同じような目に遭ったのは確かなはず。


「こうしていると昔を思い出すわね」


「女子風呂が阿鼻叫喚になったのは確かね。今よりもずっと酷くて癒されるべき入浴なのに、私は凄い疲労が溜まったのを覚えているわよ」


「何をしていたのですか」


当時は事情を聞いたら顔を赤くして睨まれた覚えがある。それは勇実も例外ではなかった。そこまで語りたくない何かが起こったのは間違いないのだが秘密のままだったな。


「戦場だったわね。暴走者対鎮圧軍の。最後は奈子が大体沈めて終わったけど」


「酷い状況だったのは分かりました」


文字通り湯船に沈めたんだろうな。しかし暴走していた奴らは一体何をやらかしたんだよ。女帝と呼ばれた奈子が本気で沈めに掛かるなんて余程の事だと思うのだが。


「当時の事は思い出したくないからこれで終わりにしましょう」


「そうですね。私もあまり踏み込んだらいけないと思うのでこれでお終いにしましょう」


ただ喋っているだけなのに蘭が疲れ始めているのが分かる。思い出すだけで疲れるなんてどんなことだよと思う。その隣の綾香は知らぬ存ぜぬで身体を洗っているのだから性質が悪い。


「でも綾香が言うだけの事はあるわね。綺麗な肌だし、髪も。触っていいかしら?」


「蘭ならいいですよ」


髪はまだ洗い始めだ。この長髪にも慣れたから前ほど時間が掛かることはない。それでも十分に他の人達よりも遅くなってしまうのは仕方ないだろう。


「これで本当に何もしていないというのは信じられないわね。下手したら女の敵よ」


「そう言われましても。そんな知識もないですし、調べる気もないですから」


「羨ましいわね。こら、隙を見てこっちに来ないの」


「いけず」


にじり寄ってくるなよ、天敵。もう綾香は俺の天敵認定だ。嫌いではないのだが、以前と変わらずに苦手なんだよ。もしかしたら以前よりも苦手になっているかもしれない。今回の事で。


「綾香は以前からこんな感じでしたか?」


「今回は特に酷いわね。事情は分かってるけど、久しぶりの暴走でテンションが爆上げなんでしょ」


そう言えば久しぶりにあった勇実達もそんな感じだったな。やっぱり社会人として鬱憤が溜まっているのだろう。ガス抜きは適度に行っていないと体に悪いし。


「お預け食らっている犬の気持ちが分かるわ」


「私を餌扱いしないでください。というより終わったのなら先に浸かってきてはどうですか?」


「一緒に入るのが醍醐味じゃない。待つのも暇だから髪を洗うの手伝うわよ」


「髪以外を触ってきたらもう一回冷水が浴びせられますからね」


「そういうのが無防備なのに。私は顔面に浴びせるから覚悟しておきなさい」


「二連続は勘弁して欲しいわ。流石に風邪を引きそうよ」


しかし学生同士の交流を深めるはずの修学旅行なのに、そんな思惑から外れて全く関係ない人達と交流を深めていていいのだろうか。クラスメイト達は面白そうにこちらを眺めているのだが。


「それじゃ洗い流すわよ。ついでに髪を結ってあげる」


流石に先程の脅迫が効いていたのか変なことはしてこなかったな。こっちは洗われているはずなのに恐怖しか感じなかった。これほど心休まらないと思ったのは初めてだ。


「それじゃ温泉に一緒に入りましょう」


「蘭が言っていたことが分かりました。確かに心休まらずに、疲労が溜まってきますね」


「そうでしょう。貴女ならそう言ってくれると信じていたわ」


女性筆頭の辛さを我が身で味わうとは思わなかった。男性陣も濃いのが揃っていたが、それよりも扱いに困ってしまって疲れてしまう。せめて温泉に浸かっている間は静かにしていて欲しいな。心に安らぎが欲しい。

今回は日常ネタは無しで。

というか投稿毎にネタが生まれる方がおかしいのです。

忘れている可能性もありますけどね。

あとがきに関しては直近のものが殆どですから。

平和、万歳!

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