記念閑話:if成人式後の飲み会-後編-
無理矢理まとめました。
全員が座り、鍋を囲んで乾杯したのだがそれぞれが持っている飲み物は違う。俺と香織、長月はビール。葉月先輩はワイン。綾先輩はウーロン杯。小鳥は缶チューハイ。
「統一性ゼロだよな」
「それが僕達じゃないか」
確かにそうだけどな。十二本家全員が我が道を征くを体現しているような連中だからな。他人に合せる気が一切ないのが当たり前。だからこそやることが大事になるのだ。
「今回は罰ゲームとか無しだからな」
「お酒が入っている席で以前のようなことをやったらあれ以上の事が起こるだろうね」
あの時ですら全員暴走していたのに、酒が入ってそれが更に加速したらどうなることやら。ストッパーが一人いた位じゃ全然足りないだろう。下手したら香織が倒れる。
「気になるんだけど、最初の罰ゲーム大会は何をやったの?」
「あの黒歴史を聞くのかよ」
当時はちらほらと噂程度で流れていた話だったな。学園に在籍している十二本家が集まって戦いを繰り広げ、敗者は屈辱的な末路を辿ったとか。変な尾ひれも追加されていた。
「気になるじゃない。当時は学園でも結構な噂になっていたんだから」
「何処から情報が漏れたのやら」
ジトーと綾先輩を見てみると早速視線を逸らしやがった。やっぱり原因はあんたかよ。香織の話しぶりだと俺が聞いた以上に噂は広まっていたんだな。
「気になるなら見る? 私達の黒歴史を」
「見る!」
黒歴史フォルダを開いて香織に見せる。俺が撮ったものだから俺自身に関するものは含まれていない。だからこそ見せれるのだが。どうせ綾先輩辺りが見せ始めるだろうな。
「あのさ、この画像はどういう状況なのよ。小鳥が土下座している水無月を見下ろしているとか」
一番インパクト強いよな。何をどうしたらあの小鳥がキレるような状況になるのかと。事情を知っている十二本家の連中は揃って苦笑している。
「ルールで優勝者が最下位に罰ゲームを指示することが出来る。優勝が小鳥で、最下位争いをしたのが私と水無月」
「察した」
最後まで説明しなくても分かってくれる香織。伊達に小鳥の事を知っている訳でもないよな。香織が十二本家で付き合いが長いのは俺と小鳥だな。だからこそ状況を察することが出来たのだろう。
「こっちには琴音の画像も入っているわよ」
「やっぱり私のも見せるのかよ」
「当たり前じゃない。何事も公正じゃないと」
やっぱり綾先輩から画像の提供があったか。過ぎ去った過去の事だから俺も気にしないことにしよう。それでも恥ずかしいのは変わらないのだが。特にあれは。
「ぶふっ!?」
「ちょ、汚いから」
「何て格好しているのよ!?」
やっぱり突っ込まれたのは動物パジャマのあの画像だろうか。あれは当時最大の不覚だったな。もうちょっと自分の恰好を把握する必要があったな。
「これじゃグラビアじゃない」
「更に際どいの取られてたのって、あれか!?」
男子禁制の女子会での画像を開かれていた。あれに関しては俺にとっての黒歴史だな。男子連中には知られていない話題だから葉月先輩辺りは聞き耳を立たせているな。
「何で部屋で水着を着ないといけなかったのか」
「他にはもっと際どいのあるわよ。ほら、これとか」
「うわ、よく琴音が了承したわね」
「ゲームで負けた。こういう時だけ異様に強いよな、綾先輩は」
「ふっふっふ、初戦敗北の経験を活かして特訓したからね」
ズタボロだった時とは見違えるような動きを見せるようになったからな。歌手目指すよりもプロゲーマーになった方がいいのではないかと思ってしまうほど。後から凛に確認したら相当に付き合わされたらしい。
「お風呂上がりも撮られているわよ、琴音」
「それは知らなかった!?」
何を隠し撮りしているんだよ、この人は。ふと小鳥の方に視線を向けてみたら視線を逸らされた。お前も撮っていたのかよ。何か俺の知らない所で勝手に画像が増加していっている。
「琴音って意外と無防備よね」
「それは私も分かる。ウェイトレス姿で接客していた時は私もドキドキしていたわ」
「何、その隠しイベント!?」
「それ僕も知らないよ!」
「他にも浴衣で接客とかもあったわね。期間限定イベントみたいなものだったから見れた人はレアだったと思うわ」
「悔しいです」
本気で悔しがっているな、小鳥は。あれは数日程度のイベントだったから見れないのも仕方ない。ウェイトレスは通り雨に打たれて私服が駄目になった時だったか。まさか店長が俺用の制服を作っているとは思わなかった。
「浴衣の時は長月がやってきていたんだったか」
「くっ」
「俺に矛先を向けるなよ!?」
小鳥に睨みつけられた長月が慌てているな。俺一人だけが標的にされ続けるのは耐えられない。誰かしらを道連れにするのが俺のスタイルなのだから。
「何なら長月の黒歴史も公開しようか。画像とかじゃなくて、私に相談してきたことだけど」
「あれは秘密っていう約束だっただろ!?」
「すでに時効だ。私だけが暴露されているのは不公平だ」
「ただの道連れだろ!? 今の会話の何処に俺が原因なのがあるんだよ!?」
原因なんて何処にもない。単純に八つ当たりなだけだ。それにここまで話しているのだから全員が興味津々の状態。今更後に引けるようなものじゃない。
「よし、琴音。暴露したまえ」
「「「暴露! 暴露!」」」
流石は酒が入った状態。全員のテンションがあっという間に上がってきているな。葉月先輩の声に他の連中が暴露コールをし始めた。これはもう止められるような状態じゃないな。
「長月が初恋した時に私へ相談してきたんだよ」
俺が暴露をしたことで長月が項垂れたな。他の連中は興味深そうに続きを促すように視線を向けてくる。この程度で他の連中が満足するとは思っていない。
「恋愛相談自体は初めてじゃなかったからいいんだけど、思い通りに進まない上に、ライバルに先を越されるという結末だったな」
「失恋だったんだ。それは長月君に勢いが足りなかったとか?」
「どちらかというと相手の方が尻込みしていたというのが原因だったかな」
相手が十二本家だからそれなりの企業の令嬢だと気後れするのは当然なんだよな。失礼のないように言葉を選ばないといけないし、かといって安易に受けられないし。
「最大の理由は相手に好きな相手がいたことだけど」
「それは何というかご愁傷様としか言いようがないね」
葉月先輩の言葉通り、選んだ相手が悪いんだよな。俺も直接その子と会話したから何となく好きな相手がいることは察することが出来ていた。それでも言葉位は聞いて欲しいとお願いしたんだったか。
「お互いに後悔が無いように進めようとはしたんだけど」
「恋愛って難しいな」
あっ、長月が凹み出した。フラれた直後はもっと凹んでいてフォローするのが大変だった。生徒会長としての仕事にも影響が出ていて、何故かそれにも俺が参加して長月がやれないことを補填していた。あの当時は本当に忙しかったよ。
「俺がモテないのは何でなんだろう」
「面倒臭そうだから」
「厳しそうだから」
俺と香織の言葉に更にダメージを受ける長月。他にもむくれ続ける小鳥に恐怖感もあるだろうな。この中で誰を怒らせてはいけないのか全員が分かっているから。
「でも最初の頃の関係から大分進展したよね、琴音と長月の関係って」
「香織君の言う通りだね。最初は敵対関係だったはずなのに、いつの間にか恋愛相談するような仲になるとはね」
そりゃあれだけお互いに素を出し合うような場を作ったのだから、お互いがどういう風なのかは何となくでも分かることは出来るだろう。だから暴走するのも偶にはいいのかもしれない。しかし今回はその程度じゃ済まない気がする。
「琴音ー、ウーロン杯お替り」
「何で私に頼むんだよ」
「何か手馴れている感じだから。本当に飲むの初めて?」
「大人組の人達と付き合っているからその影響だ。あの酒豪の人達と付き合ってみろ。嫌でも詳しくなる」
茜さんと静流さんは俺が居たとしてもお構いなく酒を浴びるだけ飲むんだよ。俺はお茶を飲んで付き合ったり、ツマミを作ったりと扱き使われる場合もある。
「しかし全員、それなりに酒に強そうだな」
今の所、誰一人として豹変するような人はいないな。顔が赤くなっている人はいるけど、その程度だし。鍋を突きながらお互いに最近から昔のことまで思い出話に花が咲く。これから先はパーティーでも酒を飲む機会が増えるだろうから醜態を晒す訳にもいかないか。
「よし、誰がウォッカを飲む?」
「止めろ、馬鹿野郎!」
唐突に暴走し始めたのは葉月先輩だった。鍋も雑炊まで終わって、俺と香織で片づけをしてちょっとしたおつまみでそれぞれが飲んでいる状態。そこに爆弾を落としやがって。
「俺が一番手を引き受けよう」
「お前も乗るな!」
喉が焼けるどころの話じゃないんだぞ。長月はアルコールが入るとノリが良くなるのだが、危ない事でも引き受けようとするのが欠点だな。言われるがままに飲みそうなのも危険だな。
「琴音ー、美味しく混ぜてー」
綾先輩は若干幼児退行し始めているだろうか。軽度なものだからそこまでではないのだが、違和感が凄い。眠そうにしているのも原因かな。まだ騒がないだけマシか。
「琴音さん。抱っこ」
厄介なのが小鳥だな。異様に俺へと甘えたがるから相手にするのが大変だ。過度なスキンシップは俺としても困るのだが、妹の相手をしている感じで何とかやり過ごしている。
「ごほ!?」
「だから止めろって言ったよな! 香織、水!」
「はいさー」
唯一の救いは香織が比較的まともだってことだ。テンションは高めなのだが、この中でも遠慮するようなこともなく馴染めている様子で安心かな。流石は喫茶店で慣れているだけの事はある。
「ほら、飲め。長月」
大体何処からこんな小さなコップを出してきたんだよ。まさか一緒に持って来たのだろうか。だとしたら今回のことは確信犯だな。暴走じゃない。葉月先輩は殆ど酔っていない。
「琴音が変わらなくて、僕としてはつまらないかな」
「つまらなくて結構。私までおかしくなったら誰がこの事態を納めるんだよ」
「僕としては面白くなれば何だっていいからさ」
楽しいのは俺としても賛同するが、それによって部屋が大変な惨状になるんだよ。誰が片付けると思っているんだよ。あっ、長月の顔色がヤバい。
「おい、長月。トイレはあっちだ」
俺の言葉と同時にトイレに駆け込んでいくのだがどうか間に合ってほしい。段々と酒飲みの定番が現れ始めたのだが、他の面子もどうにかならないのか。
「飲んでいるか、皆の衆!」
「いきなり覚醒しているんじゃないよ!」
まさかの綾先輩が二段階進化だったよ。眠そうな顔から豹変したように爛々と目を輝かせてコップを高らかと持ち上げている。おかげで中身が幾らか零れているな。
「おい、どうやって収拾をつけるつもりなんだよ」
「僕は知らないよー」
責任放棄しているんじゃない! 面白そうに被害を被らない様に離れた位置でゆったりとワインを飲んでいる葉月先輩が憎い。こっちは色々と苦労しているというのに。
「琴音。暑くない? 私と一緒に脱ごうよ」
「止めろ!」
この人、属性過多すぎるだろ! 更に脱がし魔に豹変するとか恐ろしすぎるわ。木下先輩が疲れた表情をしていた理由が漸く知ることが出来た。まさか自分で体験するとは思ってもみなかったが。
「お前ら、いい加減にしろ!」
そこで夢から覚めた。酷い寝汗を搔きつつ、高らかに拳を突き上げている辺り、あのまま夢が続いていたら誰かを殴り倒していたのだろうか。こんな夢を見た原因は言うまでもないな。
「昨日の騒ぎだよな」
夢の中に俺の願望が混じっていたのも何か気恥ずかしいな。将来はあの喫茶店で働く。願望以外の何物でもない。学園を卒業してからの進路でさえ現実では不明確なのに。
「しかし酷い夢だった」
あれが現実で起きようものならもう一人まともな人物を呼ぶ必要があるな。木下先輩辺りでも誘うか。でも三年も後の話だからそれまでに俺が覚えているかどうか。
「取り敢えず、シャワー浴びよう」
昨日とは打って変わって静まり返っている部屋の中に若干の寂しさを感じるのは仕方ないか。どちらにせよ、朝食の時間になれば賑やかになるのだ。茜さんに色々と聞かれるだろう。
「切り替えよう」
まだ今年は終わっていない。でも何かを忘れているような。日常的な事ではなく、学園でのことを。最近はパーティーのことや二次会のことで頭がいっぱいだったからな。
「なんだっけ?」
忘れているという事は大したことじゃないだろう。そういうことにしておこう。そして忘れ物をどうやって渡すかも考えておこう。
演奏関係は没ネタ。
商店街、喫茶店のイベントは時期的な没と筆者の書き忘れ。
女子会、告白イベントは未来予想図でしょうか。
色々と詰め込んでみたifとなった結果でした。
それでは皆様、これからもどうか宜しくお願い致します。