82.本領発揮未満
まだ前段階です。
さてサラダも出来たし、カレーもいい感じに温まったかな。姉妹は物珍しそうに部屋の中を物色しているが、俺の部屋の中には入らないで欲しい。特にやましいものとかはないけどさ。
「予想外なほど何にもないね」
「仕送りの額が予想外なほど少ないから。アルバイトもしていないとやり繰りが大変で大変で」
大事な事なので二回も言ってしまった。実家から送られてくる仕送りは変わりなし。多少の余裕があるのはバイトのおかげだ。最初に比べれば時給も少しばかり上がったからな。
「何だか今の琴音先輩しか知らないので過去の琴音先輩に興味がある」
「「知らない方がいい」」
後輩に興味を持たれるのは照れるのだが、それが素の琴音となると俺と綾先輩の意見は同じだ。素の綾先輩に幻滅すると同時に、俺すら幻滅される可能性が高い。
「話を聞いていたけど、そんなに?」
「それ以上だよ」
綾先輩、学園以外での情報も仕入れているな。色々と噂は尾ひれが付くのだが、それが事実であり、それ以上のことだってやっていた。内容は話せないけど。
「私の過去はいいから。それと勝手に物色するな」
「えぇー、何か面白い物見つけられると思ったのに」
「見つけるな」
変なものはあまりない。全く無いわけじゃないから見つけられると面倒臭い。一番はあれだな。動物パジャマ。いらないと言ったのにいつの間にか荷物の中に紛れ込まされていた。あれだけ嵩張るものを何故気付かなかったのか。
「おやおや~、そんなことを言うということは何かがあるってことだよね?」
「追い出すぞ」
「やりませーん」
諦めてくれて良かった。結構マジで喋ったのが効いたか。脅しておかないと絶対にやりそうだからな、綾先輩は。葉月先輩は流石にやらないだろう。やったら女性全員で折檻だ。
「しかし他の連中は遅いわね」
「いや、霜月姉妹が早過ぎるだけだから。何処の誰が少々の買い物しただけで直行して来るんだよ」
それが一般的な家の出なら納得は出来る。スマホで今から遊びに行くからが通じるのだから。だけど俺達は立場が違う。そんな軽々しくお互いの家へ訪れる訳がない。
「葉月だって似たようなものだと思ったんだけど」
「あの人の場合は色々と準備するのに時間が掛かっている筈。何を持ってくるは全然想像できないけど」
「私も予想が立たないわね。あれの場合、私みたいな刹那的な考えで行動しないで、計画的に悪巧みを実行するから」
それは同意しておく。俺や霜月先輩みたいにその場のノリで行動するのでなく、計画的な犯行を行う人物。だからこそ俺や綾先輩でも予測は出来ない。その場で合わせるけどな。
「取り敢えず配膳するからテーブルに広げている菓子を片付けてくれ」
「あいさ。凛、頼んだわね」
「綾姉も動いてよ」
「私はTVを見るのに忙しい」
本当に駄目姉だな。そりゃ妹がしっかり者になる訳だよ。だからといって俺から何かを言う訳でもない。今の関係にこの姉妹が不満を抱えているように見えないから。
「何か面白い番組でもやっている?」
「んー、特にはないかな。音楽番組も時間的にはちょっと早いから」
「話を聞いていて思うんだけど音楽好きなのか?」
「小さな頃から触れていたからさ。聞くのも歌うのも大好き。将来の夢は歌手!」
夢は大きいな。なりたくてなれるような人なんて一握りどころの話ではない。それを考えたらあいつ等はよくデビューできたものだと思う。元から目を付けられていたのだろうか。
「そう言えば静雄さんから聞いていたけど身内に歌手がいるっていうのは本当なのか?」
「ママがそうね。シェリー・ジェーンという歌手なんだけどさ」
「大物過ぎる」
一時期世界中を股に掛けていた超大物歌手。それこそあまりTVを見ることがない俺でも知っているような人だ。まさか霜月家の人間だったとは思わなかったな。ちなみに勇実が最も尊敬している人物でもある。
「一応言っておくけど、ママは嫁入りよ。パパがべた惚れしちゃってさ」
「あのビックアーティストにアタックする辺り、流石は霜月か」
まだ現役で活動しているのは知っている。流石に海外での公演なんかは止めていたな。しかしその娘、しかも十二本家という肩書だけでデビューできる可能性は凄まじく高いな。話題性がずば抜けている。
「誰か来たみたいね」
チャイムが鳴っているからな。今回は普通に一回鳴らされただけだから特徴がない。また連打されるのもイラつくから嫌だけど。さて残りの内で誰が来たのか。
「僕だよ」
「お疲れ様です、晶さん、恭介さん」
護衛が増えている。その理由は抱えている荷物で容易に想像できるな。飲み物が入った段ボールはまだ理解できるのだが、そっちの某ネット通販の段ボールには一体何が入っているんだよ。
「琴音、部屋に入れて。この荷物重いの」
「構いませんよ、どうぞ」
まさかの護衛の人が部屋の中に入ってきたよ。そしてジャージ姿の霜月姉妹を見て一瞬固まってから何故に俺を見て安心したような表情をする。あれか、俺で慣れているとかそんな感じか。
「飲み物は冷蔵庫の近くに。他の荷物はリビングの何処かに置いてください」
「俺達、護衛が仕事のはずなのに」
「この面子だとそれが通じませんから諦めてください」
誰であろうと関係なく人材は使うものだと思っているような人達の集まりだからな。巻き込むなら盛大にやる。それが初めて会った人であっても多少でも関係しているのであれば。
「ご苦労様。それじゃ撤収してもいいよ」
葉月先輩の言葉に従って部屋から出ていく二人の背中が何か煤けている様に見えてしまった。しかし本当に貧乏籤引いた感じだな。これで上司からの評価は上がらないかな。無理か。
「相変らず鬼畜だな、葉月先輩は」
「使えるものは親でも使え。いい言葉だよね」
それをまさしく実行するのは稀有な存在だと思う。それが目の前にいるのだが。本人は楽しそうに持ってきた荷物を漁っているが何が入っているのやら。
「何を持って来たんだ?」
「まずは色々なゲーム機。携帯ゲームもあるかな。あとはボードゲームにカードゲーム。他にも色々と。何をやるかは選り取り見取りさ」
遊びに本気出しやがった。流石にここまでの準備をしてくるとは俺や綾先輩も予想外だったな。というか二次会に本気出し過ぎだろ。どれだけ楽しみにしていたんだよ。
「ちなみにこれら全部、琴音にあげるから」
「それはどうも」
「意外だね。驚くか、受け取り拒否するかと思ったよ。あとはその口調かな。違和感が凄いよ」
学園の中にいる限り、なるべく敬語を意識していたからな。葉月先輩も俺の口調に関してはこれが初見だ。その割には全然驚いているようには感じられない。どちらかというと予想していたという感じか。
「手土産として考えたのなら貰えるものは貰っておく。やらないけどな」
「他の友人達が来た時にでも遊んでくれていいよ。所でご飯はまだかな。あっちじゃ碌に食べていなかったからさ」
一次会で食べていないのは俺達全員だから。理由として色々と食べているとそれを理由にいらない人物たちが寄ってくるから。これも美味しいですよとか言いながらな。だから基本的に飲むだけ。
「せめて小鳥と水無月が来てから。長月は知らん」
「それならすぐに来ると思うよ。ほら」
言葉通りにチャイムが鳴った。順番的に考えて小鳥だな。予測では長月が一番遅いと思っていたから。理由は簡単。あれが俺の作った飯を食うとは思っていない。飯食ってから来ると思っている。
「いらっしゃい、小鳥。それに水無月も」
「お招き頂きありがとうございます!」
招くも何もこの二次会は俺、葉月、霜月、文月の四人で計画を立てたのだ。計画者を誘わない訳がないだろ。しかし多少小鳥の息が荒いな。後ろの晶さん達が息切れしている辺り、全力疾走してきたのか。
「先に来た俺を追い越したので負けずに追いかけてみただけだ」
後ろの人達が疲れ切っているのは水無月も関係していたのかよ。何で張り合おうとしたのかは全く分からないな。暴走していない奴がいない辺り、俺の予想通りか。全員テンション高すぎだ。
「さっさと上がってくれ。全員腹をすかせた状態だったからすぐに夕飯だ」
俺の口調にポカーンとしている二人の手を引っ張って部屋の中に入れる。これが普通の反応か。前に来た人たちの感覚がおかしいんだなと納得してしまった。でもこの二人もすぐに慣れるだろうな。何せ霜月姉妹はジャージだから。
「さて面子も揃った所で夕飯としますか」
「「「「いえーい!」」」」
さて二次会を始めよう。面子が一人足りないとは誰一人として突っ込まない。当たり前のようにテーブルを囲んで座って、夕飯に備える。さてそれじゃ連絡しますかね。
「妹達よ、久しぶりー!」
明らかにテンション高くなっている茜さん。呼んだのはこの人だ。晩飯は基本的に茜さんも同伴するのが俺との契約。だから明らかに場違いだろうとも呼ぶ。
「ねぇねも久しぶりー。にぃにもオイッス」
「オイッス。相変らずな様子で安心したぞ、妹よ」
鍋をテーブルの中央に置いて、サラダを人数分並べていく。食器とかは事前に置いているからいいとして、あとは何か必要かな。飲み物は水と麦茶でいいか。もらった物は全然冷えていないから。
「茜さんと静雄さんはビール?」
「流石は私の嫁。分かっているわね」
「冷蔵庫に常備しているのがビールと焼酎しかありませんからね」
基本的に二択だけど、俺の部屋で飲むのは決まってビールだからな。ちなみに茜さんと静雄さんに対する口調は敬語のまま。幾らなんでも年長者相手に普通に喋るのはどうかと思う。
「確かに主婦だ」
五月蠅いぞ、水無月。これがいつもの風景なんだから仕方ないだろ。しかし今日は人数が多い。多めに作ってはいるのだがこれは間に合うのだろうか。
「それじゃ頂きます」
「「「頂きます」」」
これだけの人数で晩飯を食うのは初めてだな。それぞれで食べて騒いで。今は権力とか柵とか関係ない。ただ対等な友人として接しているだけ。ただしこの状態で先に進んだ場合、どうなるのか想像できない。全員化けの皮が剥がれた状態だから。
次回から二次会本番となりますが、本当に収取を付けるのが大変そうです。
明らかにメインよりも考えることが多いサブとか何なんでしょうね。
初めての次回予告『全員暴走状態』をもう暫くお待ちください。