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78.決戦場の休憩所②


適当に飲み物を飲みながら談話しつつ、偶に暴走し始める綾先輩とそれに怒る凛を宥めたりと何故か俺が忙しく動いている気がする。葉月先輩は傍観することに決めたようだ。


「本当に休憩所みたいで助かるね。パーティーに一人、琴音が欲しいかな」


「不吉なことを言わないでください」


それだと全部のパーティーに俺が出席しないといけないじゃないか。絶対に嫌だぞ、そんなの。ただでさえ今回の事だって気が滅入っているというのに。


「私もその意見には賛成ですね。ここまで楽なのは初めてだと思います」


「綾姉と同意見です。私の負担が色々と減っているのは確実なので」


そりゃ俺も綾先輩を押さえる役目になっているからな。負担が半減しているのに加えて、他の邪魔が入らないのだから。その分、俺の負担が増えているのは気にしないのだろうか。


「父がいないだけで随分と楽しめています」


小鳥だけが違った感想を持っている。毎回父親に連れ回されて挨拶して、紹介という名の娘自慢を隣で延々と聞かされていたら楽しくもないだろう。


「父親はどうしたのですか?」


「駄々を捏ねたので母が沈めて一室に放り込んだのを見ました」


相変らずパワフルな母親だな。ただ小鳥の発言に他の面子の表情が引き攣っている。あの家族関係は実際に見ていないと信じられないからな。主に母親の強さが。


「うちのお母様は色々な人に声を掛けられていますね。小鳥のお母様は分かるのですが、その隣の人は誰でしょうか?」


和やかに、でも笑顔で会話しているが周りの反応からして普通の会話じゃないな。そもそも母と小鳥の母が一緒に話している時点で父の愚痴になっているだろう。つまり隣の人もそれに参加しているという事。


「あれは長月の母だね。随分と楽しそうに話しているけど、どんな内容だろう」


「葉月先輩。聞かない方が身のためです。楽しそうにしていますが、ほぼ愚痴ばかりのはずですから」


「琴音はどんな会話をしているのか予想が付くのかい?」


「駄目夫を罵倒する会ですから。それに長月が参加したという事でしょう」


流石の葉月先輩も俺の言葉に絶句したな。喫茶店での会話ですら若干アウトな内容を含まれているのに、こんな場所で話しても大丈夫なのだろうか。多分、内容は選んでいると思うけど。


「溜め込んでいる人が多いという事だけは分かった。ガス抜きは大切だね」


「葉月先輩は溜まっているように見えませんね。発散方法は?」


「今までは生徒会で好き勝手やっていたからあまりストレスを抱えてなかったけど、これからはどうしようかな。参考までに琴音は何をしているのかな?」


「早朝ランニングとバッティングセンターでストレスを発散しています」


「僕には真似できない方法だね。何か趣味を見つけた方がいいね。何にしようかな」


人をおちょくってストレスを発散していたんだからこれからどうするか悩むのだろう。発散方法としてはあれだが、人それぞれだからな。俺に被害が来なければ何でもいいや。


「綾の趣味は何だい?」


「私ですか。歌う事です」


これはまた予想外の答えで。あまり十二本家の人がカラオケとかに行くとか聞いたことがないな。バッティングセンターに行くのもあれだけど。


「カラオケとか行くんですか?」


「行ったりもしますね。一人か凛が一緒にですけど」


他の友達は誘ったりしないという事か。そう言えば静雄さんが身内に歌手がいると言っていたな。綾先輩がそれじゃないと思うが、そうなると父か母のどちらかだろうか。


「偶に喉が枯れるまで付き合わされるので大変です」


「凛も楽しんでいるのだからいいじゃないですか」


そうなると凛の趣味も歌う事か。ストレス発散としては妥当な所かな。擬態している分、他の人よりもストレスを抱えやすいのかもしれない。


「小鳥は何か発散する方法を心得ていますか?」


「私は料理か、格闘技ですね」


「「「えっ」」」


何気に武闘派だったよ。あまりにもイメージとかけ離れたことをしているので全員の表情が凍り付いたぞ。もしかして母の影響だろうか。父はこの先、大丈夫なのだろうか。


「身体を鍛えようと思って始めたのですが、ハマってしまって」


「そ、そう」


何と返していいか分からないな。俺だってそれなりに動けるだろうが、本格的な何かを学んだことは無い。それ以前にそこまでの危険に遭ったことがないからな。


「僕も休憩させてください」


微妙な空気になっている所に丁度良く新たな人物がやって来た。そっちに視線を向けてみると来た人物は水無月だ。しかし本当にここは十二本家の休憩所になっているんだな。


「お疲れ様です。何か飲みますか?」


「持って来ているから大丈夫です。しかし以前お会いした時とあまりにも印象が違っていて慣れませんね」


全員そんなことを言うからいい加減慣れて来たよ。後輩であり、琴音が唯一負けたと本気で思った人物である水無月。こうやって接している分には普通なんだよな。


「ぶっちゃけキモイです」


「貴方は相変らずのようですね」


本心がダダ漏れなことを除けば。十二本家の中で貴重な裏表のない人物なのだが、どちらにせよ碌でもない人物である。この家系と結婚してくれる人は相当に我慢強い人だろう。


「それにしてもかなり珍しいですね。十二本家がこうやって集まるなんて」


「ほぼ単独で動いていますからね。十二本家同士で親交があるというのも聞いたことがありません。そこのところどうなんですか? 葉月先輩」


「何で僕に振るのかな?」


「一番詳しそうですから」


何だかんだとこの中だと一番の情報通じゃないだろうか。綾先輩も独自の情報網を持っていると言ってもそれは学園の中での話だと思うし。むしろ思いたい。


「十二本家同士が結託していると思われたくないんじゃないかな。協力されたら一家だけじゃ対応出来ないからさ。大人の都合みたいな感じさ」


「でも私達はこうして集まっていますよね。これはいいのでしょうか?」


「元々個人同士での繋がりは少なからずあるからね。僕達みたいにこんな堂々としたものじゃないけど。対外的なことを考慮していると思うよ」


「面倒な話ですね」


「でも僕達は僕達なりのやり方をするさ。琴音がいい感じに繋がりを増やしてくれているから接触し易いんだよね」


巻き込まれた結果なんだけどな。卯月と敵対して皐月と結託。その後に皐月から生徒会の手伝いを頼まれて葉月と協力。生徒会のイベントで霜月に絡まれる。文月は偶然であり、長月は適当に小突いてくる程度だな。


「卯月はどうするつもりです? 私は和解するつもりなんて微塵もありませんよ」


「あそこはどうでもいいかな。今回のパーティーだって招待から外されているから。娘が皐月を馬鹿にしたんだよ。他の十二本家だっていい顔はしないさ」


他の家の事も同じように思っているかもしれない。そう考えたのだろう。実際それは当たっているが。あの時の卯月の暴言からして自分こそが一番だと思っている可能性が高い。


「あそこは暫く肩身が狭いだろうね。妹はまずうちの学園には来れないだろうし」


「姉が問題を起こしたおかげでとばっちりを受けていますね」


来たところで他の十二本家と同じような扱いにはならないだろう。むしろ俺みたいに針の筵の中で生活しないといけないからかなり辛い。それを承知で来る訳もないか。


「僕は何故如月先輩が報復をしなかったのか疑問に思っていたんですけど」


「報復した所で私に利はありませんから。当時の私に後ろ盾なんかありません。やった所で手痛い反撃を受けて終わりですよ」


娘ではなく卯月家として反撃されたら個人の俺なんて敵にすらならない。それを考えるとやるだけ無駄なんだ。下手な手を打って和解なんてさせられる可能性だってあるからな。


「おぉ、ちゃんと考えるようになったんですね」


「以前の私があまりにも無鉄砲だっただけです。普通に考えたら分かることですから」


いらない労力を使う必要もないだろ。それに俺の代わりに学園長が卯月家自体に何かをしたと思うし。あのお姉さんのことだから寄付以外にも色々と約束を取り付けたような気がする。


「如月先輩が縁を繋いでいるというのは意外ですね。てっきり葉月先輩が裏で手を回していたと思ったんですが」


「僕だって十二本家相手には慎重にもなるよ。綾は以前から知っていたから除外するけどさ」


「その割には私に対して遠慮も何もなかったような気がしますけど」


「当時の君の評価だと何をしたところで影響はないと思ったんだよ。でも実際に一緒に仕事したら評価も変わってさ。あの時の僕の勘は当たったね」


早めに俺と友好的になれて良かったということか。俺だって今の縁は予想外の産物だ。普通に友達位は作りたいと思っていたが、大物がこれだけ集まるとも思っていなかった。


「僕は学園に入学して如月先輩を見た時、あの人は誰だろうと思いましたよ。あまりにも様変わりし過ぎて同級生達は誰も分からない状態でしたから」


「基本的に一年生達は過去の琴音を知らないからね。知っているのは君と凛君、あとは長月の弟君かな。直接会っていなくても家族から聞いている筈だからね」


そう言えば長月の弟は見たこともないな。琴音の記憶でも接触したというものはない。だからこの会場内にいるのかどうかも分からないな。二次会には来ないだろうけど。


「悪い話も聞かなかった、というか良さそうな話しか出てこなかったから本当に別人だと思いました」


「実際別人を相手にしていると僕は思ったね。以前の琴音と重なる部分が全然なかったからさ」


中身は別人で、外見もガラッと変わったのならその反応は正しい。友達の多くは以前の琴音ではなく、琴音という別人だと思っているだろう。それを考えると以前の琴音が可哀そうだな。


「でも僕が知っていることは殆ど学園の中でのことだからね。プライベートの方は綾の方が詳しいんじゃないかな」


「霜月先輩がですか?」


「だってお兄さんのお嫁さんが隣人なんだよ。ねぇ、綾」


「ねぇねからは話は聞いていますね。それはもう色々と」


茜さん、一体何を伝えたんだよ。嫁であることは伝えているだろうが、俺の私生活をあの人は何処まで把握しているのだろう。確かに俺が部屋にいる間、高確率で茜さんもいるけどさ。


「嫁が美人で、ちょっと抜けている所が可愛くて私の為に三食作ってくれるとか。他にも色々ありますが聞きますか?」


「綾先輩ストップ。先に私に聞かせてください。茜さんが一体何を伝えているのかを」


先に検閲しておかないと俺のイメージが凄いことになりそうだ。葉月先輩なんて必死に笑いを堪えながら、水無月は一体どういうことなのか悩んでいる。


「一つ質問なのですが、霜月先輩の義理の姉は女性なのですよね?」


「そうですよ」


「何でその人が如月先輩のことを嫁と呼んでいるのですか? そっちの人なのですか?」


言うと思ったよ。説明しようにも俺からじゃ上手く出来ない。そしてこの中に頼れる人なんていない。絶対に面白がって変な方向に話を進めようとする人ばかりだ。


「それについては私からも説明出来ませんね。ただ琴音さんがその人の為に甲斐甲斐しく家事をしているのは確実です」


「食費とか貰っているんですから家事をするのは当たり前じゃないですか」


「あぁ、嫁ですね。完璧に」


おい、水無月。何を思ってその発言をしたのか正直に答えて欲しい。おかしい、途中まで真面目そうな話をしていたのに、急におかしな流れになったぞ。主に俺が標的にされていることが。あと水無月、二次会覚悟していろよ。

水無月初登場回。

元々キャラとして考えていませんでしたが、外伝の構想練り直しで生まれた方です。

しかし前後半で分けなくて良かったです。もう一話位は休憩所が続きそうです。

何故か休憩所はスラスラと書けますね。

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