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77.決戦場の休憩所①


無事に逃げれた霧ヶ峰さんと入れ替わりに厄介な二人がやってきた。どうやら平和な時間は終わったようだ。隣にいる小鳥だけが癒しの対象だよ。


「はい、笑って笑って」


いや、会って早々に抱き付かれたら表情も引き攣るだろ。何で近寄って来たと思ったらハグされているんだよ。だけど思うのはこれが衝動的なものじゃなくて計算的なものだということ。


「どう贔屓目に見ても笑っているように見えないね。顔が引き攣り過ぎ」


「えぇー、友好的に見られないと困るんだけど」


葉月先輩の突っ込みに小声で本性を出している綾先輩。こういう場でも平常運転な二人なのは相変らずか。


「取り敢えず放して貰えませんか。あと何となく想像できますけど、この行動の意味をお願いします」


「仕方ないね。面倒だけど私も皮を被りますか」


大丈夫、俺の脳内では自動的に素の言葉へと変換されているから。自分でもいらない能力だと思っているけど。あと隣の小鳥が何かむくれている。


「私と琴音さんが親しい間柄であると周りへのアピールです」


「親しいのは今更ですが、それによる綾先輩のメリットは?」


「私の友達枠で琴音さんもパーティーへ誘われるようにと」


だよな。有名な人物を呼ぼうとするならまずは外堀を埋めるために親しい人物を誘う。それにより来易い感じにするのがいいだろう。だが俺を巻き込むなと言いたい。


「どちらにせよ、琴音はこれから招待状が山ほど届くだろうね。あっちを見てごらんよ」


葉月先輩の指が示す方向を見てみると霧ヶ峰さんが人の輪の中に埋もれていた。あれは根掘り葉掘り聞かれているな。俺との関係とか、今の俺の現状とかに関して。


「凄いことになっていますね」


「琴音が変わり過ぎて色々と囁かれているからね。僕が聞いたのは整形したのかだね」


「私は完全に別人ではないかですね。あとは生き別れの双子説。聞いていて面白かったですよ」


こっちはげんなりだよ。まともに性格が変わったという説はないのだろうか。良い様に見せようとは思わないのだが、どうしてもマイナスの方向へ話が流れていくな。


「常々思いますが、そこまで以前と違うのでしょうか。内面は自分でも分かるのですが、外見に関して」


「髪型は変えているし、パテも塗っていないから」


肉盛り用の塗料と一緒にするなよ。一応あれだってメイクしているつもりだったんだぞ、琴音は。ヤバい自分でも想像したらそう思えてきてしまった。


「内面が外見に現れるともいいますからね。今の琴音さんからは危険な感じがしませんから近づき易く感じますね」


「あの頃はとにかく狂暴でしたからね。今は誰かに喧嘩を売る気はありませんよ」


「そうじゃなかったら僕らだって近づこうとは思わないよ。もう一つ目的もあるんだけどさ」


「目的ですか?」


「こうやって十二本家で集まっていると他の小うるさい連中が近寄って来ない事」


なるほど。確かに遠巻きに見られているだけで誰も近寄って来ないな。親しく話している限り、邪魔しては駄目だと思われているのだろう。それで不興を買ってはいけないと。


「便利なこともあるんですね」


「毎回辟易していることだからね。僕達は誘蛾灯じゃないのに」


「その分、あちらは大変そうですけど」


あちらというのは長月と水無月のことだ。俺達の方に話しかけられない分だけあちらへ人が行く。何人かは水無月と話して暗い表情で去っていくのはいつものことか。


「何人かすでに撃墜されていますね」


「彼は仕方ないですからね。喋ることに注意していても毒沼に足を踏み入れていることに気付きませんから」


水無月と会話している時点で毒沼入りしているようなものだからな。時間が経つにつれて毒が吐かれる確率が上がっていくのだから。そこから継続ダメージが発生する。


「彼もこっちに来るだろうね。琴音の事は上手く伝えたつもりでいるからさ」


「二次会に誘ったのは葉月先輩でしたよね。よく彼が了承しましたね」


「あまり以前の琴音の被害を受けていなかったからね。学園に入学した時には琴音も変わっていたからさ」


後輩だったな。全く会わなかったから忘れていた。そう言えばもう一人の後輩はどうしたのだろう。姉と一緒に動いていると思ったんだが。


「綾先輩。凛さんはどうしたんですか? てっきり一緒だと思ったんですけど」


「私が無理矢理輪の中から抜け出してきたので身代わりになっているのでしょう」


酷い姉だ。人柱に妹を置き去りにしてくるとは。でも彼女もその内、こちらに来るだろう。問題児の姉を放っておくことは出来ないだろうからな。


「そう言えば琴音さんに凛のことを伝えていましたか?」


「茜さんから聞きました」


「個人情報が筒抜けとは怖いものですね」


あんたが言うなよ。俺の個人情報なんてどれだけ掴んでいるか分からないぞ。下手したら本人よりも詳しい可能性がある。まぁ過去の情報は殆ど使い物にならないだろうが。


「いい機会ですから聞いておきますが、どうして葉月先輩は綾先輩とあまり接触していなかったんですか?」


「素のテンションが疲れるから」


「失礼ですね」


いや、葉月先輩の意見に同意しておく。あのテンションに付き合えるのは俺の知り合いだと茜さんと勇実位だろうか。勇実と意気投合した綾先輩の近くには絶対に寄りたくないな。


「二次会が怖いですね」


「そうだね。綾のテンションが爆発しそうだよね」


「爆発させますよ」


「宣言しないでください」


爆発したらどうなるんだよ。ストッパー役の妹がいるとはいっても抑えきれないような気がする。でも茜さんや旦那さんもいるからどうにかなるかな。結託されたらどうにもならないけど。


「あにぃも来るのですよね」


静雄さんの呼び方は擬態していても変わらないのか。長く呼んでいる所為か、それとも家族だからなのかは判断できないな。しかしそうなると茜さんの事はどう呼んでいるのだろう。


「綾先輩と凛さんが来ることを伝えたらお店をお休みにするそうです」


「よし!」


ガッツポーズするほどかよ。しかし静雄さんも偶に休店にするのだがお店は大丈夫なのだろうか。不況だということも聞いたことはないけど。茜さんからも愚痴とか聞かないな。


「綾姉。私を置いていかないでください」


「やっと来ましたか、凛。私みたいに問答無用で抜け出してきても構わなかったのですよ」


「後の事も考えてください。言い繕うのも大変なんですよ」


やっと妹さんも抜け出してきたか。そして大変ご立腹のようで。それに対して綾先輩は全く反省の色がないな。いや、反省するならやらないか。


「ちなみにこの子も擬態していますよ」


「綾姉!」


もうヤダ、十二本家。


「暴露する綾もあれだよね」


「今更ですよ、葉月先輩。小鳥なんて全く理解していませんから」


「さっぱりです」


擬態姿しか見たことない小鳥なんて全く話に付いて来れていないからな。しかし綾先輩ほど擬態しているようには見えないな。俺みたいに言葉遣いだけ誤魔化しているのだろうか。


「苦労しているのがよく分かりますね」


「お初にお目に掛かります。霜月綾の妹、霜月凛と言います。如月先輩の事は綾姉や静兄からお聞きしています」


「うん、言わなくていいですからね。納得できないものが含まれているのは分かっていますので」


綾先輩なら同族が現れたとかで納得できるのだが、静雄さんは妻の嫁とか真面目に言ってそうで怖いんだよ。他の人が言葉のまま受け取ったらどうするつもりなんだよ。


「大丈夫です、理解していますので。二人の言葉は冗談半分に受け取るのが丁度いいと考えています」


「理解しているようで何よりです」


これが本当に綾先輩の妹かと思うほどしっかりしているな。俺と凛との会話に興味がないのか綾先輩の標的が小鳥に移ったようだ。そこは葉月先輩にフォローして貰おう。


「何か狼と兎に見えますね」


「明らかに狼は綾姉ですね。文月先輩もお可哀そうに」


いや、溜息吐いていないで助けに行けよ。パーティーが始まって然程も経っていないけど疲れているのは分かっているけどさ。


「小鳥さんとは交流が全くなかったですからね。今の内に親睦を深めておこうと思いまして」


「小鳥。今の綾先輩に慣れるのは駄目ですよ。ギャップが酷くなりますから」


「如月先輩に同意しておきます」


「え? えっ?」


よく分からず俺と凛を交互に見て、それから怯えたように綾先輩のことを見る小鳥。大丈夫、ここじゃ食われるようなことは無いから。二次会でどうなるかは予想できないけどな。


「凛さんも随分と苦労されているようですね」


「もう諦めています。幾ら言った所で性格が変わるものでもありませんから」


達観しているな。家族だから理解しているのか、それとも長い付き合いですでに諦めの境地に入っているのかは定かじゃないな。


「兄も姉もこれですし、奥さんのアカ姉にも振り回されています」


思えば茜さんも似たようなものだな。そんな中に一人だけ放り込まれても我慢できるだけ、この子も凄いと思う。俺だったら途中で投げ出すか、暴走するかのどちらかだな。


「想像しましたが酷い状況しか出てきませんね」


「分かってくれる如月先輩は好感が持てます。これに両親も加わると収拾が本当に付きませんから」


過去に何があったんだよ。遠い目をしている凛からは何も読み取れないな。もしかしたら俺が想像したのよりも酷い状況だったのかもしれない。


「取り敢えず此処に居る限り、その他の有象無象からは解放されますから休憩してください」


「そうさせて貰います。綾姉以外の相手もしないといけないのは正直面倒なので」


何処の派閥に入るのか、もしくは取り入ろうとしてくるのを相手にするのは本当に疲れるからな。しかも相手は大人で、こっちはまだ社会人にもなっていない子供だぞ。尚更しんどい。


「私はずっとそういうのとは無縁でしたね」


「如月先輩は派閥も持たず、ましてや取り入った所で利益がありませんでしたから。これからどうなるかはご想像にお任せします」


今の俺だと利益が生まれると思う輩はいるだろうな。現状、これだけの十二本家と繋がりがあるから。それに喧嘩腰が無くなったから近寄り易いと思っている人達が大勢いるだろう。


「綾姉の相手をしてくれるので私も助かります」


「あまり相手にしたくありませんけどね。擬態していればまだマシな方ですけど」


「素を出した状態ですと抑えるのが大変です。花火大会の時は戦々恐々でした」


素を出しながら俺と通話していたからな。会場の裏手側にいたとしても誰が通るか分からないから凛はずっと警戒態勢だったのだろう。そりゃ疲れるわ。


「来年は私も琴音さんの部屋で観覧させてもらいますね」


「出席しないつもりですか?」


「凛に譲ります。卒業と共に自立の準備をコツコツと始めるつもりですから。私もこちらからは身を引くつもりです」


家を出るというのは本気のようだな。しかし自立したとして一体何をしたいというのだろう。特に趣味なんかを聞いたことないが。やりたいことは決まっているのだろうか。


「根掘り葉掘り聞かれるこっちの身にもなって欲しいです」


「適当に濁しておけばいいのです。凛は気にし過ぎです」


「綾姉が適当過ぎる。いつもいつもいつも」


「はい、ちょっと落ち着きましょうね」


今までの事を思い出して爆発しそうな凛を宥める。何で俺がこんなことをしているのだろう。葉月先輩は苦笑しているだけでフォローしてくれないし。


「これは二次会、大丈夫なのでしょうか」


「溜まりに溜まった物が爆発しそうだよね。しかも複数人が」


分かっているなら収拾を付けろよ。葉月先輩は爆発する鬱憤が無さそうだが、俺と凛が確定的に爆発するぞ。残りの男性陣も怪しいものだ。大丈夫なのか、これは。

全然指が進まないと思っていたらいつもの容量に達していました。

まだ半分も進んでいないと思ったんですけどね。

前後半分けようかと思いましたが、どの程度の量になるのか筆者も分からなくなりました。

次回は男性陣も混ざって書くのが大変になりそうです。

後書きの予定も結局は未定の筆者でした。

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