08.今を見てくれる人達
シリアスが続きません。
ちょっとだけ書こうとしたら1話になった典型例です。
どうしてこうなるんだろう。
08.今を見てくれる人達
佐伯先生に肩を借りながら移動して本当に車に押し込まれた。何で?
「それで貴方の住まいは何処?」
「こういう場所にあるマンションなんですが」
「はぁ、どうやら本当に貴方が茜の言っていた嫁なのね」
盛大に溜息を吐いてハンドルに寄りかかっている。何か疲れているように見えるけど、何で佐伯先生が茜さんのことを知っているんだろう。あとその嫁って何?
「えっと、どういうことですか?」
「前にメールが来て嫁が出来たと書かれていたのよ。私も訳が分からなくて詳細を聞いたら貴方の名前が出てきて同姓同名かと思ったわ」
「あの人、何をメールで書いているんですか……」
あれ、冗談で言っていると思ったら他の人にも言ってるのかよ。というか二人の関係性が全く見えてこない。茜さんもあまり外食とかしない人だというのは一か月付き合って分かっているんだが。
「私と茜と近藤は高校が同じで同級生だったの。その付き合いが今でも続いているだけ。近藤に関しては就職先が同じで友達付き合いが再開しただけともいえるのだけど」
「なら偶に飲みに行かないのですか?」
「主に茜の予定が合わないのよ。ほら、看護師だから」
「今月は夜勤少なかったはずですけど」
夜勤は10日間位だったかな。いつも晩御飯を俺の部屋で食べているから殆ど同棲しているんじゃないかというレベルで居座っているんだよな。ただ最近は肉の禁断症状が出てきていたけど。
あれ、佐伯先生が笑っているのに怖い。言っちゃいけないことを言ったみたいだな。
「へぇ、私の誘いを断って若い子とキャッキャウフフしているなんていい度胸じゃない」
「先生、怖いです。それに私と茜さんは同性ですから乳繰り合うなんてことしてませんよ」
「貴方なら百合だとしても納得できるのよ。それで茜の今日と明日の予定って分かる?」
「今日は日勤、明日も日勤です。あと納得しないでください」
そんなに女受けするような顔だろうか。しかし前世では女顔で男子から熱視線を送られることは多々あったというのに何で次の人生でも同性から熱視線を受けないといけないのだ。
ちなみに茜さんからそういった視線を向けられたことはない。ただ何となく主婦として扱われているような気はするのだが。
「よし、今日は拉致しよう。そうすれば如月さんの準備も楽でしょう。それとも何か買っていく?」
「いえ所持金ないのでいいです。それにお米を炊いているので軽くお握りでも作ります。保存用にインスタントスープがあるので軽く済ませますのでどうぞ気軽に外食していってください」
正直酔っ払い二人の相手は御免こうむる。下手したら俺の部屋で酒盛りを始めかねないので茜さんを生贄にして俺は逃げよう。ごめん、茜さん。貴方のことは忘れません。
と馬鹿なことを考えていたらマンションの前まで着いた。俺は先に降りて佐伯先生は駐車場に向かっていった。
「あら、琴音さん。どうしたのですか?」
まずは管理人さんに事情を説明しないといけない。鍵を紛失したこと、スペアキーを持っていないかの確認。明日の朝にスペアを返すことを説明する。あえて紛失の理由についてはしていないが快く鍵を貸してくれた。
だが怪我のことまでは隠すことが出来なかった。
「如月家には報告したの?」
「いえこの程度の怪我で心配を掛ける訳にもいかないので管理人さんも報告しないでください」
「貴方がそう言うのであれば今回は何もしませんが、次はありませんよ。それと近い内に鍵の交換を行いますので都合のいい日を教えてください」
何だろう、最近というか今日は出会う方々の笑顔が怖い。心配されているのか怒られているのか分からないんだよな。あっ、佐伯先生が来た。
「それでは私は部屋に行きます。鍵は明日の朝に返しますので」
「使い続けていいですよ。スペアはまだありますから。このチェーンを渡しますから首から下げてはどうでしょうか?」
確かにそうすれば盗まれることはないだろう。ただアクセサリーとしてはどうなんだろう。あと谷間に挟まって胸が傷つきそうなのが怖いんですが。誰かに預かってもらうかな。
でもくれるのなら有り難く貰っておくか。
「しかし本当にいい部屋に住んでいるのね」
「如月家管理のマンションですから。家賃については怖くて聞いてません」
「あぁ、一般的な値段じゃないというのは聞いたことがあるわね。私も詳しく聞くことは避けたけど」
取り敢えず佐伯先生を部屋に上げて生贄が来るまで待ってもらうことにしてもらった。待ち伏せした方が逃げられる可能性が低いというのが佐伯先生の意見なんだが逃がす気ないな。
しかし何で茜さんは佐伯先生との飲みから逃げているんだろう。酒乱なのか?
「何か飲みますか?」
「怪我人は大人しくしていなさい。それにもう少ししたら来るんでしょう?」
「そうですね。何もなければもう少しですね」
刻一刻と捕獲への時間が迫ってきている。俺も携帯がないから連絡しようがないが佐伯先生も茜さんに何の連絡も入れていないのだろう。この人、どれだけ避けられているんだよ。
「琴音ちゃ~ん、今日の晩御飯は何かな?」
「ふふっ、やっと捕まえたわよ。茜」
「げっ、静流。あんたが何で此処に!?」
「さぁ飲みに行くわよ!」
「琴音ちゃん、へるぷ~!」
居間に入ってきた茜さんを陰に隠れていた佐伯先生が捕まえてそのまま引き摺って行ってしまった。泣きそうな顔の茜さんに俺は苦笑を浮かべて手を振ることしか出来ない。
だって何か佐伯先生が怖いんだよ。
「さて晩飯作るか」
そういえばこういった時って風呂に入ったら駄目なんだよな、うーん、今日は風呂の日だったがシャワーにしておくか。
明日はどうなることやら。
いつも通りの時間に目を覚ましてベットから起きて足を付けて痛みで昨日怪我したことを思い出した。早朝トレーニングは流石に無理だな。昨日ほどの痛みではないが、無理をしたらまた酷くなりそうだな。
ただ折角起きたのだから部屋の中で軽く柔軟だけでもしておくか。左腕が痛いからあまり可動範囲が大きくないがやらないよりはマシだろう。
そういえば昨日、二人は帰ってきたのだろうか。
「おはよ~。琴音ちゃん、お味噌汁だけ頂戴……」
「おはようございます。物の見事に二日酔いですね」
フラフラになりながら茜さんがやってきた。茜さんも結構飲める方だと思っていたが佐伯先生はそれ以上の酒豪なのだろう。あれ、佐伯先生はどうしたんだろう。飲んだのなら車で帰れないはずだよな。
「あっ、私にもお願い」
「佐伯先生いつの間に。というかお酒が残っているように見えないんですが」
「静流はザルなのよ。幾ら飲んでも酔わないし、次の日も残らないとか化け物よ。付き合わされる方の身になってよ」
「ご愁傷様です。それじゃ昨日は茜さんの部屋に泊まったのですか?」
「そうよ。それに貴方の治療もあるからね。ほら、怪我した箇所を見せなさい」
確かに看護師の茜さんは現状使い物にならない。それを見越して佐伯先生は朝からいるのかな。いや、そこまで考えているとは思えない。多分飲みながら次の日の予定を考えたのだろう。
そうでもないと茜さんが飲みに行かなかった場合の理由にならない。
「腫れは少し引いたわね。でも無理をすれば悪化するのだから気を付けなさい」
「それにしても陰険なことをするわね。文句でも何でも本人に直接言えばいいのに。闇討ちとかしても後でばれるのが分からないのかな」
「茜みたいに直情的な子なんて珍しいわよ。嫌がらせを受けたからと言って直接対決しにいったのは貴方位よ」
「茜さん、無茶していたんですね」
ここで若い頃とか言ったら二人から睨まれそうだったから止めた。治療されている最中にいらんこといったら痛いところを握られそうだからな。空気は読むぞ、俺も。
「嫌味に嫌味で返しても終わらないように直接相手に向き合わないと終わらないでしょう。私はそれを実践しただけ」
「だからそれをやれるのは心が強い子だけよ。周り皆そんな子だったらそもそもいじめなんて起きないわ」
「確かに極論かもしれないですけど、言っていることは分かります」
諦めて受け入れて結果いつまでも続くようないじめに耐えられるような子はいないだろう。俺だって精神年齢で大人だから耐えられるだけで思春期の子供が同じ考えを持てるはずがない。
ならどうするか。諦めるか抗うか。結局はこの二つしか解決方法なんてないのだ。
「でも私の嫁を傷つけるなんて許せないわね」
「あの、私は茜さんの嫁じゃないんですけど。というかその話を職場でもしているんですか?」
しているのであればあの病院には近づきたくはないんだが。絶対に変に思われるだろ、百合的な方面で。
「大丈夫よ。職場で話しても私が結婚していることは皆知っているから。あくまでも私が大切にしている人だって思われるだけよ」
「えっ、茜さん。結婚していたんですか」
正直意外である。料理もしないし、そもそも仕事から帰ってきたら殆ど俺の部屋にいるのだからてっきり独身だと思っていた。それに昨日佐伯先生を泊めたのだから旦那さんはいないものだとばかり。
あっ、もしかして管理人さんと同じで旦那さんは亡くなったのかもしれない。このご時世、若くして亡くなる人は多いだろうからな。
「むっ、失礼なことを考えているでしょう。琴音ちゃん」
「一応言っておくけど旦那さんは健在よ。仕事が夜の方だから如月さんが帰ってくる頃にはもういないのよ」
「ちなみにホストとかじゃないからね。ちょっとお洒落なバーを経営しているの」
ホストはちょっと考えてしまった。なるほど、確かにそういう職種なら朝にも合わないし夜だと尚更合わないわけだ。そう考えれば茜さんが料理しない理由も分かる。
バーを経営しているのなら調理師免許だって持っているだろうし、茜さんよりも料理の腕はいいだろう。ちょっと興味があるな。レシピに関してだが。
「いつか紹介するね」
「そう言われ続けて私もまだ会わせて貰っていないのだけれどどういうことかしらね。茜」
「旦那の予定が合わないんだから仕方ないじゃない。それに静流にバーの場所を教えたら絶対に飲みに行くでしょ?」
「もちろん」
「お酒全部飲まれそうだから嫌よ。下手にツケでもされたら溜まったものじゃないわよ」
「流石に私でもそこまで飲まないわよ。本当よ」
佐伯先生、貴方は一体どれだけ飲めるんですか。しかし朝からお酒の話に俺も混ざっているのはどうなんだろう。一応俺は高校生なんですが。中身は成人しているけどな。
というか話し込んでいて気づかなかったがそろそろ向かわないと危ないんじゃないだろうか。
「あのお二方、そろそろ出発しないと」
「うわ、ヤバい。遅刻したら婦長が五月蠅いんだよね」
「私達は車だからまだ余裕はあるわね。今更断らないわよね、如月さん」
「今から歩いて行ったらこの足じゃ遅刻しますからお言葉に甘えさせてもらいます」
「ならよし」
「静流、琴音ちゃんのことをお願いね!それじゃ私は行くから!」
ドタバタと出ていく茜さんに二人揃って苦笑してしまう。賑やかな人だから昨日までの気分も和らいでしまった。ああいったのはやっぱり才能なんだろうなぁ。それも無自覚な才能。
俺や琴音には無理だな。無意識に他人を明るくさせるなんて芸当を事も無げにやれる気はしない。
「茜さんと出会えて良かったと思います」
「私の自慢の親友よ。一生付き纏われると思うけど大事にしてね」
「もちろんです」
出会いは大切だ。それが心から歓迎できる出会いなら尚更大事にしないといけない。偶に喧嘩をするかもしれないがそこから仲直りするのもまた友達だからこそできること。
ただ歓迎できない出会いも必然的にある。さてその歓迎できない方は今日は大人しくしているかな。
「何かあったら言いなさい。茜の嫁なんだからしっかり守ってあげるわ」
「昨日と態度が全然違いますね」
「貴方が別人になり過ぎているのが悪いのよ。今の貴方なら大歓迎よ」
「それはありがとうございます。偶に遊びに来ますか?」
「喜んでいくわ。もちろんお酒持参で」
よくよく考えてみると友達と言える人が未成年二人の成人二人というのはどうなんだろう。いや、数の問題じゃなくて中身の問題なのだが。全員が揃って俺の部屋に集まったらカオスだなぁ。
さて元気も貰ったことだし今日も頑張って学園に行きますか!
やっぱり前回の話は色々とありましたね。やっぱりやり過ぎなんですよね。
そしてこういう話を書いているから暗い話がさっさと終わらない。
分かってはいるのですが書いていたら止まらないのです。
それと経過報告ですが投稿に供給が追い付かなくなりました。原因は幕間を書いていたからというしょうもない理由です。これを一話とは筆者は認めません。
投稿するときは幕間+一話です。