75.決戦目前
久しぶりの連日投稿です。
結局、長月と水無月の両名が参加するのが決まった。それを伝えた所、主任さんが本気で気を失ったらしい。通話口から人が倒れる音なんて初めて聞いたな。
「お嬢様、少々髪を上げて貰っても宜しいですか?」
「ドレスの着付けも面倒なものだよな」
すでにパーティー当日。紆余曲折あったものの無事にこの日を迎えた。本心は迎えたくなかったんだけどな。まさか入れ替わってからドレスを着ることになるとは思ってなかった。
「お嬢様ですと男装しても映えそうですね」
「フラグ立てるの止めてくれないかな」
すでにしているけどな。生徒会の撮影会で軍服を着たのだったか。あれは男装に入るのかどうかは謎だけど。日常の服装だって見方によっては男っぽく見えるし。
「しかしこうやって着てみると違和感が凄いな」
「私から見てもそうですね。以前のお嬢様はゴテゴテしていて見るのも辛かったです」
ゴテ盛りメイクどころの話じゃなかったからな。見ていて辛いのも分かる。同情的な視線で。むしろどうやってあんなメイクをしていたのか気になる所だ。
「それでは今回は私がお嬢様のお化粧を担当させて頂きます」
「化粧する必要あるの?」
「流石にやらないと不味いです。確かに素顔でもお嬢様なら大丈夫でしょうが、見栄というものがありますから」
本当に面倒臭いな。鏡の前に移動させられて色々と顔を弄られている。俺は目を瞑って諦めながら経過を待つ。自分で出来ないのだから美咲に任せるしかないのだ。
「終わりました。やはりお嬢様は薄い方がよろしいですね」
「結構あっさり終わったな」
鏡で自分の顔を確認してみたが素顔とそこまで変わらないような気がする。微かに化粧しているのが分かる程度だろうか。駄目だ、どうしても元の琴音を思い出してしまう。
「過去の私をどうしても思い出してしまう」
「仕方ないことです。自分自身の過去なのですから」
その通りなんだけど。まぁ沈んでいても仕方ない。ロンググローブを嵌めて出かけるとしよう。会場までの移動時間を含めてもそろそろ部屋から出ないといけないかな。
「しかしお嬢様も無茶を言いましたね。まさか実家で準備したくないとは」
「父がいるんだから仕方ないだろ。顔を合わせて殴り合いしてもいいなら構わないぞ」
「それはご勘弁を」
同じことを母にも言ったら衣装や化粧道具やら一式を持って来てくれた。双子とかいる前で父と娘が拳で語り合う姿を見せたくなかったのだろう。
「思うのですが特定の事柄に対して沸点が低くないですか?」
「敵以外ならそうでもないんだからいいだろ」
「姿を見た瞬間に殴りに行くのは間違っております」
常識的に考えて殆ど通り魔だよな。姿見た瞬間に駆け出して殴りに行くとか。そんな状況になった時、父はどんな反応をするだろうか。殴り返してくれば面白いのだが。
「茜さん、着替え終わりましたよ」
「おぉー、流石は我が嫁! 凄く綺麗だよ!」
パーティーへ行くためにドレスを着ると言ったら乗り込んできたんだよな。嫁のドレス姿は絶対に見るとか言って。今日仕事が休みじゃなかったらどうするつもりだったのだろう。
「身内贔屓だとしても嬉しいです」
「えぇー、本心なんだけどね。それにしても休日の日中からパーティーとはお金持ちの考えることは分からないわね」
「もしかしたら茜さんだって私と同じ立場になったのかもしれないんですよ」
「無理無理。ほら、私ってこんな性格じゃない。絶対にそんな世界と合わないわよ」
それは分かるさ。俺だって自分はこっちの世界と合わないと思っている。思ったことを率直に言えないような場所とか苦痛で仕方ない。ある意味で綾先輩はよく耐えていられるよ。
「多分予定している帰宅時間には戻って来れると思います。来なかったら晩御飯は諦めてください」
すぐに食べられるのと人数が増えてもいいようにカレーを用意してある。あとは小腹が空いた程度の人にはお茶漬けかな。鮭の切り身を焼いた物とか用意すればいいだろう。
「綾ちゃんと凛ちゃんと会えるのが楽しみね」
「茜さんの反応からして仲は良さそうですね」
性格的に綾先輩と仲がいいのは予想が出来ていた。そして綾先輩の妹の名前を初めて知ったな。二次会の主催者であるのに全然把握していないが気にしても仕方ないだろう。実際何をやるかすら考えていないのだから。
「私と綾ちゃんが騒いでいると凛ちゃんは決まって溜息を吐くんだよね」
本当に苦労性なのが目に見える。本日の犠牲者第二号だな。後でいいことを教えてあげよう。長月に全部丸投げすると気持ち的に楽になると。偶には犠牲者を自分で生み出さないとな。
「それじゃ私達はそろそろ出掛けますので茜さんも自室に戻って下さい」
「その前に写真撮らせて。記念として残しておきたいから」
何かドレス姿の俺がどんどん記録されているような気がする。流石にパーティー会場で撮られることはないだろうけど。小鳥辺りが欲しいと言いそうだ。その時は香織とセットで撮ったデータを渡せばいいか。
「何だかんだで嫁の写真を持ってなかったのよね。これで妻としての面目が立つわ」
嫁なのに妻なのかと突っ込んでいいのだろうか。突っ込みが追い付かない気がするから止めておくけど。というかお昼過ぎの時間でこのテンションだと夜にはどうなっているのやら。
「それじゃ行ってきます」
「ちゃんと帰ってきてねー」
茜さんと別れて駐車場に移動するとすでに母が待っていた。いるのは連絡があったから知っていたんだけどな。あとは周りに護衛の人達が多数控えている。どれだけVIP扱いされているんだよ。
「お待たせ」
「それじゃ向かいましょう。時間には余裕を持って行動しないといけないから」
「父は何か言っていた?」
「粗相のないようにとしか言っていなかったわ。今の私達にとっては無駄な言葉よね」
問題を起こす気は微塵もないからな。誰かと話す気もないから。母は小鳥の母親と一緒になるだろうし、他の人達と話す気もないだろう。つまり殆ど行動は俺と変わらないのだ。
「それにしても二次会の話を聞いたけど、随分と豪華な人物たちが集まったわね」
「企画したのは葉月先輩なんだけどな。いつの間にかあれよあれよと増えたんだよ」
元凶の一人であることは認めるけどな。でも俺がその場にいなくても葉月先輩と綾先輩が色々と手を回して増えていったんじゃないだろうか。後で知らされたら俺だって乾いた笑いを出すと思う。
「琴音は自主的に動かないと思ったんだけど」
「ノリに任せた結果だよ。私が自主的に動いたらもっと酷いことになると思う」
行動力はある方だと思うぞ。そうでもないと勇実とかの相手なんか出来なかったからな。あとは順応性か。不測の事態でも迅速に動けないとな。
「他の方々に迷惑を掛けないようにね」
「むしろ他の面子が迷惑掛けそうな気しかしないんだが」
その筆頭が葉月先輩と綾先輩であることは確定事項だな。あの二人が普通に二次会で談話して終わりそうな感じが微塵もしない。持ち込みの許可を求められたけど何を持ってくる気だろう。
「それにしても琴音の交友関係は本当に分からないわね」
「護衛の人達にも言われた。私の繋がりというよりも葉月先輩の繋がりなんだけどな。長月なんて私が誘った所で来る訳ないじゃないか」
「それはそうなのだけれど。よく考えてみると葉月さんと知り合えたのは僥倖だったのかしら」
うーん、一長一短だよな。確かに葉月先輩のおかげで知り合いが増えたともいえる。だけど厄介なことに巻き込まれることも多いんだよな。だから素直に感謝なんて出来ないんだよ。
「琴音も何だかんだと付き合いがいいと聞きましたが」
「私に被害が来なければ基本的に乗るからな」
今回の二次会みたいに。最初は四人でワイワイと騒ぐだけだと思っていたら予想外に人数が増えてしまった。綾先輩に関しては茜さんに任せておけば問題ないと思っていたのだが。あとは抑止力の妹もいるし。
「ただノリのいい私と葉月先輩、綾先輩は一緒にしては駄目だというのが前生徒会の意見みたいだ」
「葉月さんだけでも歯止めが効きそうにない組み合わせね」
苦笑いの母である。生徒会という括りが無くなった時点で俺と葉月先輩のノリが加速するらしい。そして被害が誰に向くのか予想が出来ないみたい。大丈夫、長月がいれば標的は固定されるさ。
「今回は護衛の人達に多大なご迷惑をお掛けして大変心苦しいなー」
「凄い棒読みに言われても困るわ。それと同じことをあの人達に言わないでね。逆に苦情を受けるわよ」
すでに苦情を言われている状態だから大丈夫。晶さんに関して言えばすでにお客だと思われていないから。親しくなり過ぎて友人みたいな感じだな。嫌じゃないからいいけどさ。
「主任さん大丈夫かな。今回の事で胃にかなりのダメージを負ったはずだけど」
晶さんに確認してみたら現場責任者は主任さんから部長に変わったらしい。規模が大きくなり過ぎて他の会社と共同になり、主任だけでは責任を取り切れないと判断されたとか。おじさん、逃げれなかったんだろうな。
「ノリと勢いで他人に迷惑掛けるのも懐かしい」
「そんなことあったかしら」
琴音ではなかったな。総司としてなら勇実や馬鹿共で迷惑なんて幾ら掛けたのか数えることも出来ないほどやった。そのノリが今更ながらに発症して来たんだよな。
「それで琴音、話を戻すけどパーティーでやってはいけないことは分かるかしら?」
「喧嘩を売るな、そして喧嘩を買うな」
「間違ってはいないのだけれど、何かが違う気がするわね」
喧嘩を売るのは以前の琴音が良くやっていたこと。十二本家から喧嘩を売ったとしても殆どの人が買わないんだよな。買った所で益がないのが丸分かりだから。
「露骨なのが来たら対応に困るんだけど」
「別に何をされても手を出すなとは言わないわ。それだと舐められることになるから」
そうなるよな。思いっきり飲み物をぶちまけられたら開戦の合図だと思えばいいか。そんなあまりにも露骨なことをやる馬鹿がいるとは思えないけど。ワザとらしくやる馬鹿はいそうだ。
「なるべく穏便に済ますよ。ただ一つだけ言っておく。父以上の敵が出てきた場合、抑えが効くかどうか分からないから」
「あの人以上の敵?」
いないことを願う。あの腐れ婆が出てきたら理性の糸なんて簡単に切れるはずだ。どんな場所であろうとも真っ直ぐに殴りに行く自信はある。あいつの嫁いだ家が何処なのか知らないが、金持ちであることだけは確定だろう。
「会場が見えたわね」
「あそこが決戦場所ですか」
「あながち間違っていないような気がするわね」
有名なホテルだったかな。よくこういったことに使われているから中身の把握は出来ているな。変な場所に連れ込まれても大丈夫だ。その前に叩き潰す可能性は高いが。さて気持ちを切り替えて赴きますか。
朝に間に合わず、お昼にも間に合いませんでしたがGWなのでこの時間にしました。
うーん、前回は神社での一コマでしたから今回は何にしよう。
お寺に用事があって行ったのですが、入り口が上り坂だったんですよね。
車で登っていたら途中で何故か止まってバックで滑り落ちました。
流石は冬の坂道だと思いました。あとは来るなと言われた感じでしたね。
本当にあの時は何故登り切る直前で止まったのか謎でした。