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72.買い物前の雑談


次の日、俺は学園祭での家族会議で決められた通り、待ち合わせ場所にやってきた。予定では本日、パーティーに着ていく服を選ぶらしいのだが。どうせドレスだろう。


「私が着るドレスねぇ」


「琴音のドレス姿なんて予想できないんだけどね。あまりにもその恰好がいつも過ぎて」


「何というか選ぶ必要もないから楽なんだよな。バリエーションは確かに欲しいとは思うけど」


待ち合わせ場所と言ってもいつもの喫茶店である。学園祭での振替休日で平日であるはずの今日はお休み。本当ならバイトをしないといけないのだが、現状それどころではない。


「冬服位は買っておきなさいよ。その恰好だと絶対に風邪を引くわよ」


「それは確かに。その時は香織にでも頼もうかな。私だけだとちょっと自信がないから」


「まぁその位はいいわよ。その代わり、何か奢りなさいよ」


「お安くお願いします」


そして母が迎えに来るまで香織と駄弁っているだけ。昨日の出来事を伝えたらポカーンとしていたのは他の人達と同じだな。朝に伍島さん達が血相変えて会いに来たのは驚いたけど。


「しかし琴音の出来事は何で大事になるんだろうね」


「私が知るはずないだろ。今回の事は確かに規模が大きくなり過ぎたけどさ」


「主に二次会の事がね。普通に考えたら大変なことになること位、想像できたじゃない」


「いや、普通に接し過ぎてそこまでの重要人物だったと思わなくてさ」


そして裏の顔を知っているから凄い人物だとも思っていない。どちらかというと碌でもない人物たちだというのが俺の認識だ。例外は小鳥位か。あの子は普通にいい子だと思っているぞ。


「十二本家っていうだけでビッグネームじゃない。それは琴音だって同じなんだけどね」


「そんなビッグネームが喫茶店でバイトしているなんて世間の皆様はどう思うだろうね」


学園ではもう知られていることだけど。一般的な方々にとっては到底信じられないことだろう。そういった方々の頭の中では働かず、悠々自適な生活をしていると思っている筈。俺は全く正反対の事をしているけどさ。


「私としては最初に会った時でイメージが総崩れだったわよ。今の方が付き合い易くて私としては好きよ」


「うん、ありがとう」


そんな真っ直ぐに言われると照れるのだが。元が男だから猶更な。


「それにしても琴音の母親、遅いわね。予定の時間結構過ぎているわよね?」


「実家の方で何かあったのかもしれないな。招待状が届いたのかな」


待ち合わせは十三時だったのに三十分経っても現れない。母の事だから時間前にやってくると思っていたのだが、何かしらハプニングでも起きたのだろう。


「複雑な家庭環境よね」


「今はまだいい方。以前は更に悪かったからな。原因は私と父だったけど、その内の一つが解決したようなものだし」


残るは父一人だがあれだけはどう頑張っても更生の道が開けるようには思えない。家庭を分けての抗争でも無理だな。相手は父一人だが。それでも勝利条件が満たされることは無いだろう。


「思うんだけど、よく琴音は更生できたわね」


「世の中の不思議だな」


真面目に謎だからな。世の不思議で片付けていい問題でもない気がするが、そもそも原因を探ること自体が不可能だからすでに諦めている。


「しっかし遅いなぁ」


「ちなみに何処に行くのかは聞いているの?」


「聞いていないけど、買う場所は変わらないんじゃないかな」


馴染みの店に行くだろうから。あそこにも琴音の時に迷惑掛けたなぁ。色々と無理難題を吹っ掛けた記憶はある。頑張って達成しようと努力してくれていたのも知っている。それにケチを付けるのが琴音なんだけど。


「思い出したら気が重くなってきた」


「以前に迷惑かけた所?」


「そんなところ」


「なら今日行って変わった所を見せてあげたらいいじゃない。別に今回も無茶を言う訳じゃないでしょ」


「無茶どころか何を注文したらいいのかすら分からないからな。お店の人に任せるよ」


以前の人生でドレスとか女性にプレゼントしたことも無ければ、自分が着るような状況になったこともない。だからドレスの選び方なんて知らん。


「琴音のドレス姿には興味あるから後で写真見せてよ」


「拡散させないと約束してくれるならいいぞ」


「やらないわよ。でも会長が一緒ならそっちを注意した方がいいんじゃない」


「いや、無駄な努力だから」


俺の注意程度で会長が自重してくれるとは到底思えない。プライバシーを守ってくれと頼んだらいいかな。というかあの快楽主義者共をどうやって抑えればいいのやら。


「というか私達が会長と呼べるのもあと少しだけだな」


「琴音は次の生徒会に所属しないのよね?」


「助っ人みたいな形で所属しているから今期限りだ。学園長が何か言ってきても今回の事を盾に断らせてもらう」


今の生徒会は去年の事を気にせず、琴音の今を見てくれていたから長期の所属になったんだ。だけど新しい生徒会も一緒の考え方をしてくれるとは思えない。むしろないな。


「皐月家にそのようなことを言えるのはお嬢様位だと思いますよ」


「何かサラッと私達の席に交じってきているこのメイドさんは琴音の知り合い?」


「私の専属侍女。餌を与えないで下さい」


主に甘味を。素知らぬ顔で混ざったのは現在置かれている俺達のおやつを狙ってのものだろう。さっさと食べるか。


「お嬢様、一口だけ」


「嫌だ」


このおやつは今後お店に出すかもしれない試作だ。俺と香織でその味を評価している最中なんだから他の人に食べさせるわけにはいかない。こいつならあっという間に食べて、美味しいで終わりそうだからな。


「私のなら一口位」


「駄目だ。最初に言った通り、餌を与えるな」


「お嬢様、何という鬼対応」


味を占めて同じことをやらないようにするためだ。大体食ったらもう一口と絶対に言う。餌を与えるのはここぞという時と決めているからな。


「美咲一人だけか? 母さんはどうしたんだ?」


「招待状が届き、旦那様に報告。それから旦那様の命により皐月家へ何かの間違いではないかと確認中です」


「結局大事になっているんだな」


やっぱり簡単にはいかないか。母一人だけで隠蔽出来るはずもないからな。しかし皐月に確認とは父は絶対に何かを疑っているな。いらん想像だ。


「という訳で本日は私と父がお嬢様にお付き合いさせていただきます」


「美咲も店には顔を出しているから大丈夫か。ならさっさと食べていくか」


パクッと残りを一口で平らげると美咲が絶望的な表情をしたと思う。思うというのは実際は表情が一切変わっていないから雰囲気で察する。香織は全然分かっていないようだ。


「じゃあ私も食べてお母さんに報告して来る」


香織も残りを平らげると美咲はテーブルに突っ伏した。うん、何か可哀そうに思えてきた。実際、餌を与えるなと言ったのは俺なんだけどやってみたら不憫に思える。


「約束してくれるなら自分のお金で一品だけ頼むのを有りにする」


「何なりと!」


「変なドレスとかを選ばないと約束するならいいよ」


積もり積もった不満が爆発して恨みを晴らそうと変なものを選ばれても面倒だ。俺からの多少の優しさも込められている。善意だけ見せると付け上がるからな、美咲は。


「さっさと選びなさいよ。以前みたいに悩みまくったら私が勝手に選ぶから」


「なら王道のショートケーキを!」


さて美咲がケーキをゆっくりと味わいながら食べている間に俺と香織は沙織さんに試作の評価を伝える。お店に出しても何の問題もないこと。後は味について伝えるだけだ。


「味わいすぎだから」


「ケーキなんて何年振りに食べたのか分かりません」


それを聞くと可哀そうに思えてしまうのだが、全部自分の所為だからな。ダイエットしてリバウンドするぐらい食べた過去の美咲が悪いんだからさ。


「そうだ。香織様も一緒にお嬢様のドレス選びをしませんか?」


「私が一緒でもいいの?」


「おい、何を巻き込もうとしているんだよ」


一緒に連れて行く必要性なんてないだろ。着る俺と、選ぶ美咲がいるだけで全てが終わる。香織を連れて行く必要など微塵もないのに。何か報復を企んでいないだろうな。


「いえ、お嬢様の事を香織様にも知って頂こうと思っての発言です」


「そう言えば琴音のそういう所って知らないわね。それと様付け止めてくれない。凄くこそばゆいんだけど」


「ならさん付けにしておきます」


様付けなんて普通はされないからな。そういう所は融通が利くのが美咲だ。職務に忠実とはいえないけど、俺達としては接し易い。


「でも私が一緒でも問題ないの? 琴音が行く所って一般人が行くようなところじゃないでしょ」


「別に問題ないと思うぞ。一人ならあれだけど、私と美咲が一緒なら大丈夫だろ」


「そうですね。顔を知っている私達が一緒ですと何の問題もないですね」


「なら行ってみようかな。やっぱり興味はあるから」


女性としてはやっぱりドレスに興味があるのだろうか。俺としては着たくない服装の上位に並ぶものなのに。琴音の感覚を引き継いでいるから何が嫌なのか理解しているつもりだ。


「ドレスに?」


「私には縁もゆかりもない代物だからね。着る機会なんて結婚式位じゃないかな」


「結婚!?」


そこに反応するな、店長。別に香織が今すぐに結婚するわけじゃないんだから。決まった相手だっていないはずだろうし。秘密にしているんだったら俺も知らないけど。


「店長はあれですか。香織の結婚相手は認めない人ですか?」


「結婚なんてまだ早い!」


いや、そうだけどさ。俺達はまだ高校生だから時期尚早なのは確かだな。というか俺と店長で会話が噛み合っていない気がする。


「琴音が結婚するとかの話が出たら大変そうね」


「……それは考えないようにしている」


「一波乱どころの話ではないでしょう。家庭内での論争か下手をしたら戦争ですね」


「あとは小鳥が大暴れとか、会長が大暴走とか。……ヤバい、私も考えたくなくなってきた」


妄想するだけで自分にダメージが来るとか相当に危ない出来事だよな。しかも考えている以上の事が確実に起こるだろうと思っている。あいつ等の行動なんて予測できるか。


「会長は邪魔するというより盛大に祝って迷惑を掛ける方だと思う」


「あの会長だからねぇ。何をするかは全然分からないけど、琴音にダメージが行くのは確実だよね」


俺としてはそれに加えて綾先輩がやらかしそうで怖いんだよ。それ以上に母と双子の反応が恐ろしい。あとは勇実とか義母さんも何を言ってくるのか分からんな。


「それはそうと美咲はいつまで食っているんだよ」


「次にいつ食べられるのか分からないのでしっかりと味わっています」


味わい過ぎだから。まだ半分も食べていない所からどれだけ時間を掛けているのかが分かる。分かるがあまり時間を掛けていられないのが現状だ。


「さっさと食べないと私が食べるぞ」


「そんなご無体な」


出掛けないといけないのにいつまでも待っていられない。ドレス選びでどれだけ時間を使うのかも分からないからな。俺としてはさっさと終わらせたい。


「はい、残り十分」


「ゆっくり食べられるだけの時間を与えるのが琴音らしいだけどね」


十分位のロスなんてあまり意味は無さそうだから。それに味わって食うのも大切なことだ。急いで頬張るのも何か違う気がする。さて、ドレス選びはどうするかな。



相変らず雑談で一話を使ってしまう筆者です。

ドレスを買う話だったのに、何故か明後日方向にひた走りました。

久しぶりに実害を被るような出来事もありましたね。

車で走っていたら目の前のトラックの荷台から荷物が落ちてくる。

いやぁ、直撃していたら車のフロントが逝っちゃうところでした。

皆様もお気を付けてください。

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