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69.学園祭で家族会議


学園長室を後にして教室へ戻る道中、大分俺も沈んだ顔をしていたのだろう。通り過ぎた人達が怪訝そうな表情で見ていたから多分そうなのだろう。何となく学園長の気持ちが分かるな。


「原因はあの人だけど」


何であの人はこうも問題を持ってくるのだろう。しかしそんな人がよく静流さんと付き合うことが出来たよ。多分旦那さんのおかげだろうけど。どれだけ手を出したのか気になる所ではあるな。


「ただいま~」


「お帰りー。うっわ、酷い顔だけど何かあった?」


「えぇ、ちょっとね。切り替えますので心配しなくていいですよ」


気分は沈んでいようが仕事の為に切り替えよう。空元気ともいうのだが、今は必要だろう。俺一人の所為で雰囲気を台無しにするのは申し訳ない。


「相談なら幾らでも乗るよ。友達なんだから」


宮古の言葉はありがたいんだけど、相談したところでどうにもならないから。俺一人で乗り越えないといけないと考えた所で、別にそんな大事でもない気がしてきた。


「うーん、相談するなら別の人でしょうか」


「うっわ、裏切られた気分。それじゃ友達よりも相談を優先する人って誰?」


「十二本家」


「大御所過ぎて何も言えないよ」


会長に綾先輩なら面白がって協力しそうだし、小鳥に関しては二つ返事で了承するだろうからね。長月は近づかないようにすれば問題ないだろう。あちらからも接触はして来ないだろうし。


「問題ってそんなに大事だったの?」


「先の話ですけどね。おかげで憂鬱です」


一か月後の話だから予定として組み込んでおかないと。ドタキャンや遅刻なんて絶対に出来ないイベントでもある。堅苦しくて出席はしたくないんだけど。


「その問題は家族に言ったの?」


「まだですね」


「なら誰かに相談するなら一番最初に家族へ相談してみないと」


そうだった。今回の話は俺だけでなく、実家にも連絡がいくことになっている。むしろ招待状の届け先は間違いなく実家だろう。何の心構えも無しにそんなものを母親が見たら卒倒しかねない。


「あとで連絡しておかないと。私は確実に呼び出されそうだし」


「本当に大事なんだね」


顔が引き攣っているけど、俺にとっては大事だな。予想していない所からの大暴投だから。何で学園長の恋愛話からこっちに話が飛んでくるのか全く分からない。


「はいこれ。三番席にお願いします」


「そして何事もなかったかのように仕事している琴音もある意味で凄いよ」


公私は分ける主義だからな。考え事していると偶にポカをやらかすが、概ね問題なくこなしているつもりではある。つもりだから確実性なんかないんだけど。


「パーティーまで何もなければいいのですが」


「パーティーって楽しそうな感じだと思うんだけど」


「楽しく談笑して美味しいものが食べれると思っているのでしたら大間違いです」


楽しく談笑? 誰しもが腹の中を探ってくるんだから常に言動へ注意を払っておかないといけない。美味しい物? 食べている暇があると思う? と告げてみたら凄く嫌そうな顔をされた。


「私の想像していたのと違う」


「それが現実です。現実は非情なのです」


思い返すだけで憂鬱になってくる。琴音の時だと彼女自身が問題発生装置みたいな感じだったから、それほどの揉め事は今回発生しないだろう。俺に突っかかって来なければだけど。売られた喧嘩は買うぞ。


「ストレス発散の方法が思いつきました」


「凄く悪い顔しているけど、やらない方がいいよ」


「ですよね。分かってはいるのですが」


やったら琴音と変わらないか。それでも相手から仕掛けてきたのだから防衛として見ることも出来る。他の人達からはそうは見られないだろうけどな。社交界でのイメージは全く変わっていないと思う。


「お姉様ー」


聞き慣れた声に振り替えると琴葉が入り口で手を振っていた。そう言えば母から双子を伴って来ると連絡があったのを忘れていた。それほどまでに学園長の言葉が衝撃的だったのだろう。


「いらっしゃいませ。四名様で宜しいでしょうか?」


「えぇ、お願いね。それにしても意外と似合うものなのね。そうでしょう、奈々」


「見た目だけですと大変仕事が出来そうな感じですね」


意外と失礼なことを普通に喋るよな、奈々は。しかも無自覚に話しているのだから性質が悪い。それが原因で琴音にいびられていたのを忘れているのだろうか。


「宮古さん。ちょっと任せてもいいですか?」


「もう少ししたら晴海が戻ってくるから構わないよ」


了承も得たのでちゃっちゃと残りの仕事を片付けよう。自分が頼まれたことを投げる訳にはいかないからな。それにクラスの中で家族がやってきたら少しの時間は談笑することを許されている。俺の場合は談笑なんて楽しいものじゃないけど。


「丁度良かったです。お母様に相談したいことが出来ましたので」


「私に?」


「皐月家のパーティーに私が招待されました」


手持ちの仕事を終えて、家族の元に戻って現在抱えている爆弾を渡してみたら全員がポカーンとした。そりゃそんな顔もするよな。俺だって寝耳に水の状態なんだから。


「え? え?」


「混乱するのは分かりますが、少し落ち着いてください」


母は混乱、双子は良く分かっていない、奈々に至ってはフリーズしているな。俺はすでに諦めているが、正直な所では出席なんてしたくない。


「お姉様が十二本家からの招待を受けることは名誉なことではないのでしょうか?」


「お姉ちゃんのイメージが改善された証拠だと思うけど」


「前向きに考えるとそうなりますが、前提が違います。そもそも社交界に顔を出していないのにイメージの改善も何もありませんよ」


多少でも出席していたのなら双子の意見も通るだろうが、一切出ていないのだから楽観視することすら出来ない。


「何があったのか事情を説明してくれない? まず起こり得ない事態だったはずだから」


「帰りにでも学園長の所に寄れば説明してくれると思います。あの方が元凶ですので」


説明しようにも学園長のプライベートな面からしないといけないから本人から許可を得る必要もあるだろう。なら本人に説明してもらうのが一番分かりやすい。面倒だから投げた訳じゃないぞ。


「招待状はまだ届いていませんよね?」


「咲子に聞いてみるわ」


もしかしたらの場合もあるからな。最初に父に見られるのが一番面倒臭い。まずは事情を説明しないといけないが俺の口から言えるわけないだろ。母から説明してもらうのが一番無難なんだよ。


「奈々はよく来れましたね。こういうイベントなら美咲が無理を通してでも来ると思ったのですが」


「担当は私ですので優先権は私にありました。行きたくてドアを引っ搔いている先輩は異様な光景でしたが」


猫か。美咲なら奈々を体調不良に陥れてでも自分が来れるように画策すると思ったのだが。咲子さんに読まれて対策でも立てられたのだろうか。


「お土産でも持っていくといいですよ。テイクアウトもやっていますから」


「それでその、琴音お嬢様の口調なのですが」


「気にしないでください。学園内ではこれで通していますので」


奈々にとって俺のこの口調は慣れないのだろう。以前の琴音ですらあまり使っていなかったからな。多分双子も同じ感じなのだろう。


「我慢して下さい。流石に家での話し方ですと色々と不都合がありますから」


「お姉様がそれでいいのでしたら。ですが家では普通にしてくださいね」


「僕もお姉ちゃんの意思を尊重するよ」


うむ、理解のある双子だ。これでシスコンが発症していなければ完璧だったのだが。治す方法は何があるのだろう。お爺様は殴られて治ったみたいだが、流石にこの子達を殴るのは気が引ける。やらないよ、絶対に。


「まだ来ていないようね。咲子に頼んで郵便物は優先的に私の部屋に運んでもらうようにしたわ」


「それしか対応はありませんよね」


「旦那宛で来られたら防ぎようはないわね。琴音の名義で来るのよね?」


「学園長はそうおっしゃっていました」


それを信じるしかない。流石に父名義の郵送物を母が個人的に隠すのは不味い。如月家の当主は父なのだから。それに逆らうのは幾ら母でも立場的に危ないからな。


「琴音は後で家に来ること。ドレスの採寸とか取らないといけないから」


「着たくはなかったのですけど」


「諦めなさい。これに関しては拒否権はないものと思って頂戴」


「あの、以前琴音お嬢様がお召しになっていたドレスは」


「奈々。今のお姉様の体形ですと以前のものは合わないわ。新調する必要があるのよ」


赤かピンクしか選択肢がなかった頃のものは絶対に着たくはない。それに妹が言う通り、腹回りが細くなったから以前のものは多分サイズ的に合わないはず。


「当日は私が付き添うわ。その方が琴音も幾らかは気分が楽になるでしょう」


「そうですね。父と二人っきりとか我慢できる気がしません」


「何の我慢? お姉ちゃん」


「殴ることの我慢」


「お姉ちゃん。本当に正反対になったよね」


全くだ。以前なら二人っきりになったら舞い上がるほど興奮するはずなのに、今だと殺意しか湧いてこないだろうな。敵認定すると何故か思考が暴力的になるのが俺の短所であることは自覚しているんだが。


「私よりもお母様は大丈夫なのですか? あまりそういった所で楽しめている様子を見かけたことがありませんから」


「以前よりは大丈夫だと思うわ。文月の奥様と交流があるから」


喫茶店で知り合って随分と親しくなったご様子で。嬉しい反面、何の会話をしているのかはあまり知りたくないな。偶に不穏な台詞が聞こえてくる時があったから。


「琴音はパーティーの間どうするつもりなの?」


交友関係は伝えているが、何処まで親しくなっているのかは母も知らないからな。誰からも話しかけられず、暇を持て余すのではないかと思っているのだろう。大丈夫、多分そんな事態にはならないと思う。


「私も文月の小鳥とは親しいですから。以前の私と思わないで普通に接触して来ると思いますよ」


「それはそれで凄い度胸ね」


あまり対外的なことを考えていないのだと思う。十二本家が周りを気にしないのもあるのだが。誰と付き合おうが自分の勝手だろというのが普通だからな。


「霜月に関しては仲間が出来たと絶対に接触してきます」


「どちらの方?」


「姉の方ですね。お母様には言っておきますが、!?」


何か背筋がゾクッとして言葉を止めてしまった。言わない方がいいのだろう。本能的に察してしまった。そう言えばあの人の情報収集能力は普通じゃなかったんだった。


「今の発言は忘れてください。話すのはどうやら駄目らしいので」


「何を感じ取ったの……」


「そういう訳なので暇になることはないと思います。トラブルが寄ってくる気はしますけど」


空気読めない奴が近づいてくる可能性だってあるからな。それを考えると更に憂鬱になってしまう。平穏って何処に行ったんだろう。


「ただいまー。……何かあの席だけ凄く暗いんだけど、何があったのよ?」


「何か問題事だってさ。しかも家を巻き込んでの」


晴海に説明しているが、それだと俺が問題を起こしたような感じになっているぞ、宮古。俺じゃない。学園長が発端なのに。


「それではこの話はまた後で。そろそろ私も仕事しないといけませんから」


「えぇ、都合のいい日を後でメールしておくわ」


「その時はまた泊まって下さいね、お姉様」


「約束だよ、お姉ちゃん」


ドレスの採寸とかで時間を取られるだろうから、泊まる事になるだろうな。今回はちゃんと泊まる準備をしておこう。そう言えば護衛の人達にも話しておかないと。どんな反応をするだろう。

ゴミはゴミ箱に捨てないとと思い、スティックシュガーの中身をドバァーと捨てる。

我に返って自分が何をしたかったのか悩みました。

十八時間位寝たはずなのに。

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